INDEX

  1. 部員全員で人力飛行機を作り、『鳥人間コンテスト』出場を目指す
  2. たった少しのズレで人力飛行機は飛ばなくなってしまう
  3. みんなの“得意”を活かして、自分1人では決して作れないものを作る
  4. みんなで1つのことに向かう機会を大切に
  5. 個々が“得意”を活かせるチーム編成で、チームの力は最大化する

INTERVIEWEE

成井 優太 / 高木 俊輔

NARII Yuta / Takagi Shunsuke

部員全員で人力飛行機を作り、『鳥人間コンテスト』出場を目指す

画像:部長の成井優太さん。理工学部都市環境デザイン学科3年
  
人力飛行機と聞くと、真っ先に思い浮かべるのはおそらく『鳥人間コンテスト』や現在公開中の映画『トリガール』でしょう。しかし、実際に人力飛行機を作る団体が普段どのような活動をしているのか、あまりイメージがつかない方も多いかもしれません。まずは「人力飛行機を大空に飛ばす会」が、どのような活動をしているのか伺いました。
  ーはじめに、皆さんがどのような活動をしていらっしゃるのか教えてください。
  
成井「僕達の主な活動は、人力飛行機を作ることです。具体的には、週に2〜3回集まって、三面図と呼ばれる基本的な設計図をもとに翼や機体を作っています。ただ作るだけでなく、最終的には『鳥人間コンテスト』に出場をすることを目標に活動しているんです。」
  ー現在製作されている人力飛行機は、いつ頃から作り始めたものなのでしょうか。
  
成井「細かな変更はあるのですが、2015年に最終更新された図面をもとに製作しています。本来ならば1年くらいで完成まで持っていきたいところなのですが、うちは部員が少ないことと、予算の都合により、1機作るのに5~6年かけています。」
  
画像:人力飛行機「海翔〜カイト〜」の操縦席(三面図と実物の比較)
  
ー完成までにかなりの年月を必要とするのですね。
  
成井「そうなんです。5~6年もの期間がかかるとサークル員が途中で卒業してしまうので、最初に設計した人がどのような意図を持って作ったかということが、上手く受け継がれません。設計図だけでは細部まで理解することができずに、本来目指していたことから少しずつずれてしまうというのが僕達が抱えている悩みです。」
  ー皆さんが出場を目指している『鳥人間コンテスト』は、どのような審査基準で出場者が選ばれるのですか。
  
成井「書類審査によって選ばれます。三面図と呼ばれる設計図と各部分について詳細に記述した書類を提出します。審査をするにあたって特に重視される観点は"安全性"。『鳥人間コンテスト』は湖に向かって飛行するので、最終的には着水することになります。その際に、パイロットがちゃんと脱出できるかどうかや、パーツの接合部分が外れて墜落してしまわないかなど、さまざまな角度からチェックをされます。 安全性の他にも、機体のコンセプトチームの特色などを総合的に審査されて、コンテストに参加するチームが決まるんです。」
 ー出場するためには、さまざまな要素を満たさないといけないわけですね。
  
成井「そうなんです。僕達のサークルは、2007年の第31回大会に出場したことがあります。本当は当時の反省などの情報を知ることができたらいいのですが、手元には図面しか残っていなくて……。審査結果のフィードバックをもらって弱点を理解したり、他大学が行うテスト飛行などを見に行って、自分達の飛行機と何が違うのかを観察したりと、日々試行錯誤しながらコンテスト出場を目指しています。」
  

たった少しのズレで人力飛行機は飛ばなくなってしまう

画像:広報担当の高木俊輔さん。理工学部生体医工学科3年
  
ー人力飛行機を製作する上で苦労することはどのようなことですか。
  
高木「全体のスケジュールを決めにくいというのが1つあります。それこそ5~6年という長い期間をかけて作るので、新入部員の数や部員のコミットメントの度合いによって進行スケジュールは大きく変わるもの。そのため、下級生が何人入部するか分からない状態では、2年や3年といった長期スパンの計画を立てられません。あとは、先程成井君が言ったようにベースを作った先輩が既に卒業しているので、その想いを出来る限り汲み取りながら作るのが難しいです。」
  ー人力飛行機は力学的な計算をした上で製作されると思うのですが、実際に製作すると計算通りにいかないことは多いのでしょうか。
  
画像:人力飛行機「海翔〜カイト〜」の翼部分
  
高木「ほとんど計算通りに行かないことばかりです。例えば、翼は左右対称で重さも一緒でなくてはならないのですが、構成する部品の重さがほんの少し異なるだけで、最終的には全体のバランスが大きく崩れてしまうんです。あとは、計算上では強度に問題はないと考えていたものの、いざ実際に飛ばしてみると接合部分が外れてしまうといったトラブルもあります。図面やパソコン上でのシミュレーションと、実際に飛ばした結果というのは全く違いますね。」
  ー設計の重要性もさることながら、実際に設計したものを作る際にも非常に繊細な技術が求められるのですね。
  
高木「CADで設計したものを工作機械で自動的に出力できればいいのですが…現状はそこまでの技術がありません。ですので、描いた図面の通りにカッターで切断する作業などは、高い精度が要求されますね。人力飛行機といっても航空機ですので、部品自体も繊細なものが多く、いつの間にか壊れてしまって、1から作り直すようなときもあるんです。上手くいかないことの方が多いです(笑)。」
   

みんなの“得意”を活かして、自分1人では決して作れないものを作る

画像:成井優太さん(左)と高木俊輔さん(右)
  
ー人力飛行機を作る際には、どのように役割分担をしているのですか。
  
成井「翼を担当する人、コックピットを担当する人というように、パーツごとに担当を決めていますね。普段は担当ごとに製作し、週に1回進捗報告をする流れで進めています。」
  ー各パーツを作るには、さまざまな分野の知識を必要としそうですね。
  
高木「そうなんです。僕は電気の領域なら得意ですが、人力飛行機全体で見ると、分からないことだらけなんですよ。うちのサークルには、いろいろな専門分野の勉強をしている人がいて、それぞれの専門を活かしながら活動しています。 例えば、力学分野に強い機械工学科の人だったり、電気分野に強い電気電子情報工学科だったり。1つの人力飛行機を作り上げるには、分野を横断した多様な知識が必要となるため、1人で完成させることは非常に困難です。お互いの足りない部分をカバーし合うことによって1つのものを作る過程は、とても楽しいですよ。」
  ー「お互いの足りない部分をカバーし合う」ですか。メンバー同士がリスペクトし合える関係ができそうです。
  
高木「おっしゃる通り、みんなお互いのことを尊敬し合っていると思いますよ。専門性が違う人がたくさん集まると、アイデアの総量が断然多くなるんです。自分では考えつかないような方法で問題を解決したりするのを見ていると、『自分も得意な分野で貢献したい』と思うようになりますし。それぞれの得意を持ち寄って人力飛行機を作っているという感じです。」
  ーメンバーの特性を活かすことで、1人ではなし得ないものを作っているのですね。チームで1つのものを作り上げる過程こそが、この活動の醍醐味なのではないかという気もしてきました。
  
高木「僕達の活動は、1つひとつの部品を丁寧に作っていくとても地道なものです。もちろん、それを積み重ねて人力飛行機を作り上げた結果として、『鳥人間コンテスト』という晴れ舞台に立つことは本当に素晴らしいと思います。 ただ、結果の良し悪しにかかわらず、みんなで作るものが形になっていく過程は、ものづくりをする人にとってはたまらない瞬間なんです。
  
1人では絶対に成し遂げられないような困難な課題でも、みんながそれぞれの得意分野を持ち寄ればできてしまう。それって、1人で黙々とものづくりをしていては気づけない、とても素晴らしいことだと思うんです。
僕達はこの活動を通して、みんなで1つのものを作り上げるときに発揮されるチーム力の大きさを感じました。いろんな人の工夫や想いが込められて出来上がったものは、たとえ結果を残せなかったとしても、意味のあるものだと思います。」
  

みんなで1つのことに向かう機会を大切に

  
ー今後の目標を聞かせていただけますか。
  
高木「この秋で僕達3年の代は引退するのですが、安全に飛べる人力飛行機を作れるだけの技術を後輩に残したいと考えています。今1年生には模型飛行機を作ってもらう中で、自分で考えて作ったものがどのように飛ぶのかを学んでもらっているんです。僕達は人力飛行機を完成させることはできませんでしたが、後輩達が必ず成し遂げてくれると信じています。」
   画像:部員が作っている模型飛行機
   
ー最後に、「チームで何かを作りたい」「チームで何かを成し遂げたい」と考えている人に向けてメッセージをお願いします。
  
高木「チームで1つのことに取り組むと、一緒に1つのものを作る喜びを味わえるだけでなく、それぞれの長所を活かすことで、1人では成し遂げられない大きな成果を達成できる。僕達は人力飛行機と日々向き合う中でそう感じています。 大学という場は、専門知識が豊富な先生に教えていただいたり、活動のための施設・設備が整っていたりと、自分のしたいことに挑戦するのに恵まれた環境だとしみじみ思います。なおかつ、同じことに興味を持った人が集まる場でもあるので、みんなで1つのことに取り組むのにはぴったりです。やはり大学を卒業すると、なかなかこういう機会はないと思うんですよ。
  
そんな僕達が偉そうなことは言えませんが、もし大学生ならば、今ある環境を目一杯に活用して自分の好きなことにチャレンジできる。チームで1つのことに向かうことで、1人では目指せない大きなことに挑戦できることを学びました。」
  

個々が“得意”を活かせるチーム編成で、チームの力は最大化する

チームだからこそ味わえる"ものづくり"の醍醐味。 それは、1人では決してできないことも、違った個性を持った人が集まることで成し遂げられるようになることだと、「人力飛行機を大空に飛ばす会」のメンバー達は教えてくれました。 チームの力を最大化するために重要なポイントは、個々の得意な分野を活かせるようにすること。それぞれが能力を十分に発揮できる環境を作ることによって、チームとしてのパフォーマンスが上がるのです。
  
これは、ものづくりに限らずすべての世界に共通します。チームで「何か大きなことを実現させたい」と考えている方は、個人が得意領域を発揮できるようなチーム作りを心がけてみてはいかがでしょうか。
  

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