地方創生の実現に向けて。“持続可能な地域”をつくった具体策を大学教授に聞いてみた

人口減少にともない、喫緊の課題とされている「地方創生」。実際にさまざまな施策を実施し、活性化に成功している地域もあるものの、依然として人口流出や住民の移動困難、地域コミュニティの弱体化などに悩んでいる地域の方も多いことでしょう。

今回は、「公民連携」を中心とした地方創生についてのさまざまな施策・事例を研究されている東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻の根本祐二教授に、地方創生の意義や実際の事例、成功している地域の特徴などをお聞きしました。

地域存続のキーワードは、「固定費を変動費に変える」


画像:東洋大学経済学研究科公民連携専攻 根本祐二教授
――まずは、先生のご専門を教えてください。

「もともと私は銀行員として、地域開発という融資の分野に携わっていました。地方に工場をつくったり温泉旅館を再生したり……といったプロジェクトに融資をしていたのですが、人口密度の低い地域ではなかなか採算がとれないことが多く、それは単に金融機関だけの問題というよりも、地方そのものが抱えている問題だという考えに至ったのです。そうして、『地方創生』や『公民連携』について研究するようになりました。」

――「地方創生」という言葉自体はよく聞きますが、実際のところ、どのような施策が行われているのかはよく知らない方も多いと思います。改めて、地方創生とは何なのか、どのような目的で行われるのかを教えてください。

『地方創生』『地域再生』『地方活性化』など名称はさまざまですが、簡単に言えば“地域を元気にするための施策”です。日本は、高度経済成長期には人口が右肩上がりで増え、税収も多かったため、そのお金で道路をつくったり学校を建てたりといったさまざまな施策を打つことができました。当時は東京でも地方でも、さまざまなプロジェクトで人を呼び込み、拡大していくというのが地方創生だったわけです。

しかし、今はそうではありません。人口が減少し、縮小していく社会の中でどのように地域を持続させていくかを考えることが、私たち学者にとってひとつの使命となっています。従来型のモデルで高度経済成長期と同じ施策をしようとすれば当然失敗してしまいますから、現代にあった施策を検討しなければなりません。」

――従来型ではない地方創生とは、どういったものですか?

「いまの日本の人口は約1億2700万人ですが、何の施策も打たなければ、50年後には約8000万人になるであろうと言われています。国は子育て支援などの政策で出生率の引き上げを目指しており、そこだけ見ると従来のやり方と同じように見えるかもしれません。しかし、これまでとの大きな違いは、『2050年の時点で人口1億50万人』という目標を掲げている点です。つまり、現状の人口を100%維持するのではなく、今から2割減った人口でも社会を維持していける対策を打つということです。

サッカーを例に挙げるなら、本来は1チーム11人の試合に、これからは9人で臨むということ。9人であっても、11人いる相手チームと対等に戦えるような戦略を冷静に練っていくのが、国や地方自治体の現状の戦略です。」

――なるほど。人口が減っても持続可能な社会にしていくためには、具体的にどのような施策が必要なのでしょうか?

キーワードは、『固定費を変動費に変える』です。地域を持続させていくためには、当然お金がかかります。一度サービスを提供し始めると、人口が減っても常にそのコストがかかり続けるので、人口が減るにつれひとりあたりの負担が増えることになってしまいます。たとえば、ある地域で高速道路や水道管を新しくつくったら、どちらも50年持つとして、その間の維持管理費がかかりますよね。50年の間にもしも人口が半分になったら、その地域住民ひとりあたりの負担は2倍になってしまいます。

この場合の高速道路や水道管の維持管理にかかる費用は、『固定費』です。これを、人口が減ったら自ずとかかるコストも下がるような仕組み、つまり『変動費』に変えていこうという考え方です。たとえば、移動の手段としては高速道路をつくるのではなくバスの便を増やしたり、ドローンを用いた荷物の配達などをしたりすれば、それぞれ人口が減っても別の場所で活用できるので、コストがかからなくなります。これが『固定費を変動費に変える』ということです。」

――たしかに、一度つくったら維持費がかかる大きなインフラよりも、そういったさまざまな手段でカバーするほうがコストパフォーマンスがよさそうです。

「まさに、インフラをできるだけ使わないで済ます『省インフラ』を目指しているわけです。ただ、そういった背景を何も説明せずに『インフラを減らそう」と言っても、もちろん地域の方からは反対意見が出てしまいます。だからこそ地域住民の方に、地域を持続可能にさせていくための手段と、その手段を用いた結果としてどんなことが起こるかをきちんと知ってもらうことがとても大事で、私はそのための研究をおもに行っています。」

全国をカバーする“1万か所”の拠点をつくる


――地方創生のためには、地域住民の方の理解が必要不可欠ということですね。具体的には、どのような取り組みを行うのでしょうか。

ひとつは省インフラの一環として、公共施設の統廃合をすることで大幅にコストを削減するという取り組みです。もちろん、公共施設の統廃合には多くの方から反対意見が寄せられるので、「統廃合をしても教育の場や文化活動を行う場所はきちんと維持される」という説明が必要です。

現在検討しているのは、学校の統廃合です。日本全国に公立の小中学校は3万校あるのですが、ベビーブームのときに比べると児童・生徒の数は5割減っており、適正な規模を考えれば1万校でよいと試算しています。

そうすると、今度は3万ある学校のうち、どの1万校を残すかが問題になるわけです。そこで全国の地図を使ってシミュレーションし、児童生徒数の多いほうから順番をつけ、1万か所を選定しました。この1万か所はそれぞれ、もっとも遠くに住んでいる地域住民の方でも車で1時間ほどでその拠点に着ける距離になっています。

これらの1万校は地域の拠点となるよう、建て替えの際に周辺の公民館や集会所なども含む施設とします。すると、今は子どもしか行かない場所である学校に、大人も足を運ぶようになります。それだけでなく、それぞれの施設の利用者が増えると民間企業が投資できるようになるので、地方で今減りつつあるガソリンスタンドやクリーニング店、カフェなどもつくることができるようになり、新しい拠点に行きさえすればさまざまな用が足りる……ということになります。

全国に1万か所ですから、日本の人口を約1億人とすると、1万人にひとつの拠点がある、というイメージ。1万人の人口圏を円グラフで描いていくと、本州・四国・九州はほぼフルにカバーされる計算です。」

地方創生の理想的な姿と成功事例


――なるほど。今お話しいただいた統廃合の取り組みは検討段階ということですが、ロールモデルとなるような地域はあるのでしょうか?

理想的な場所とされているのが、コンパクトシティと呼ばれる富山市です。富山市は富山駅周辺を主な拠点としつつ、駅の周辺にも副拠点を配し、拠点間を交通インフラで結ぶ『串と団子型のコンパクトシティ』を進めているのです。このような形であれば、周辺部から富山駅周辺の中心部に通えない人でも副拠点には足を運ぶことができます。

反対に、副拠点を残さずに淡々と合併などを繰り返してしまった地域では、人が1か所に集中しているにも関わらず山奥にも学校が残っていたりして、あまりよい形とは言えません。一度こうなってしまうと、遠くに住んでいる人にも中心部の拠点まで来てもらうか、費用はかかりますが拠点を分散してあちこちに建設するか、という究極の選択を迫られることになります。」

――富山市以外にも、成功例と考えられるような地域はありますか?

「今まさに私たちが地方創生のためのお手伝いをしている地域で言うと、岩手県紫波町があげられます

紫波町は人口3万人の町で、さきほどの『1万人にひとつ』という目安で考えると拠点が3か所できる計算なのですが、この町はあえて1か所で進めています。拠点が1か所だけである代わりに、3万人にとっての拠点、ではなく『東北の拠点』のような場所となるようさまざまな施設に連携してもらいました

紫波町は面積の狭い町ですが、人口圏で見ると北に盛岡市、南に花巻市などがあり、それら周辺の市をすべて足すと人口60万ほどになります。紫波町はその中心に存在するので、60万人の街のど真ん中だと捉えて、さまざまなプロジェクトを進めていったのです。」

――具体的には、どのような拠点をつくったのですか?

「駅前に10ヘクタールほどの未開発の土地があったため、そこを利用したいという相談を受け、本学公民連携専攻の大学院生たちとともにさまざまなアイデアを出し合いました。地方創生を考える上での大きなポイントですが、税金に頼るのではなく、公民連携で「稼いで持続可能にする」ことを考えなければいけません。公民連携の街づくりをする、というコンセプトを決め、拠点にどんな施設を誘致するかを検討していきました。

今ある施設としては、サッカー場やバレーボール専用コート、図書館などです。それぞれ、サッカー場は県のサッカー協会などが使用することで収入が生まれますし、バレーボール専用コートも日本初の施設のため全日本級の選手がたびたび使用し、周辺の宿泊施設などを含む収入が生まれています。図書館も、紫波町の基幹産業である農業支援を積極的に行っていることなどから、全国的に有名な施設となりました。

それぞれの施設の力で結果的にエリア一帯が大きな集客力を持つようになり、現在は紫波町の拠点、東北の拠点を飛び越えて全国から年間100万もの人が集まるような場所になっているのです。私たちがお手伝いを始めたのが2008年で、すべての施設が整ったのは2016年。これは地方創生の事例としては、相当なスピード感ですね。こういうケースはまさに地方創生の成功事例といえるでしょう。」

――紫波町のように、地方創生が成功している地域に共通点はありますか?

『どのような地域を目指しているかのビジョンを明確に持っていて、優先順位づけがきちんとできている』ということだと思います。もちろん地域にはその地域固有の歴史や事情があり、たとえば「A村とB村は仲が悪いので統廃合は難しい」というような事情もあるとは思います。しかし、人口減少という決定的な構造変化に対し、従来型の地域モデルを大切にしなければいけないと思い込むと、結果的にはどちらの地域も持続できなくなってしまいます。」

地域住民の合意形成を得るための取り組み


――ここまでのお話をお聞きしていると、もっとも大変なのは地域の拠点の統廃合やそれにともなうプロジェクトの進行そのものではなく、地域住民の方への説明により協力を得ることなのではないかと思えてきます。

「そうですね。紫波町に関しても、地域住民の方への説明会を100回は行ったと聞いています。大切なのは、理解してもらうまで何回でも説明をすることと、メリットだけでなくデメリットもきちんと示すことです。ですから、紫波町の説明会のときにも『進めようとしている施策は1か所の拠点への集中投資であって、他の地域は少し待っていただくことになる』というのを住民の方々へ隠さずはっきり伝えました。ただ、もちろんそれが毎回必ず功を奏するわけではありませんから、合意形成を行う方法も研究し、いくつかの手法を使ったツールを開発しているところです。

手法には『デリバレイティブポリング』と呼ばれる討論型の調査や『シリアスゲーム』と呼ばれる社会問題の解決策をゲーム形式で考える方法、そして地域の資源や課題などをポイントごとに地図化し、重ねて見てみることで問題点を把握する『アセットマッピング』などがあり、どれも地域住民の方に自身が住む地域の問題を真剣に考えてもらうことを目的としたものです。

たとえば、上記は地域のハザードマップと小中学校のマップを重ねたアセットマッピング。これにより津波浸水エリア内に存在する小中学校が浮き彫りになり、地域住民と危機意識を共有できた例です。」

――とてもわかりやすいですね。

「突然一方的に『この地域には危険な場所があるので学校を廃校にします』と言われても、なかなか納得できる人はいません。つまり、いかに地域住民の方の気持ちを動かし、『自分ごと化』してもらうかが大事なのです。そのためには地域住民の方に分かりやすく、不安を取り除いてあげられるような説明をすることが必要不可欠です。

それから地方創生には、観光や農業など地域によってさまざまなプランがあります。しかし、その答えには自分たちでたどり着かなければなりません。『どんなプランでも実行します』と八方美人的な政策を打ち出すのではなく、地域ごとに持続可能なプランをしっかりと立て、実行していく。そうすることで、人口の減少に適応できるまちづくりが可能となるはずです。」





<プロフィール>

根本 祐二(ネモト ユウジ)
東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻 教授、PPP研究センター長
専門分野は地方創生、公民連携(PPP)。日本開発銀行(現 日本政策投資銀行)に入行、2006年同行地域企画部長を経て、東洋大学経済学部教授に就任。著書に、『朽ちるインフラ』(日本経済新聞出版社)、『豊かな地域はどこがちがうのか』(ちくま新書)などがある。

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