【胎教】音楽が子どもの生きる力を育む。大学教員が解説する音楽と子どもの関係性

お腹のなかにいる赤ちゃんに音楽を聴かせてみたり、話しかけてみたり……。何らかのよい影響を子どもに与えることを期待し、「胎教」を実践する方も多いのではないでしょうか。

しかし、『音は本当に赤ちゃんに聞こえているの?』『胎教にはどのような効果があるの?』といった疑問にはいろいろな説があるようです。親は子どもにどんな音楽を聴かせ、どのような音楽を学ばせればよいのでしょうか。

今回は、幼児期の子どもを持つ親であり、「音楽教育」を専門にする東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科子ども支援学専攻准教授の山原麻紀子先生に、子どもがお腹のなかにいるときの胎教から、乳幼児期の子どもの音楽との関わり方、音楽が子どもに与える影響力についてお話を伺いました。

「胎教」は胎生5ヵ月で成立。赤ちゃんはお腹のなかで声や音を聴いている


東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科子ども支援学専攻 山原麻紀子 准教授

――先生は、なぜ乳幼児期の音楽教育について研究されるようになったのでしょうか。

「音楽は、“創造する(作曲)” “再現する(演奏)” “受容する(鑑賞)”の3つの側面から成り立っているのですが、そのなかで私はとくに“音楽受容”に興味を持ち、『人がどうやって音楽を聴くのか』『人は聴いた音楽をどうやって意味づけていくのか』について研究を進めてきました。

音楽の聴き方や解釈は人によって異なりますが、学校教育で音楽鑑賞がどのように行われているかについての研究を進めていくうちに、人と音楽の関わりを考えるうえで、乳幼児期の音楽教育こそ要であると改めて考えるようになりました。それからは『音楽を聴くことで生まれる人との関わり』や『乳幼児期における聴くことの意味』、『音を介した人とのコミュニケーション』を主に研究しています。」

――『胎教』は、お腹のなかにいる赤ちゃんの発達によい影響があると言われていますが、実際に聴かせている音や声は、本当に赤ちゃんに届いているのでしょうか?

胎教は、お腹のなかの赤ちゃんと関わりをもつのに効果的です。近年、“赤ちゃん”に関する研究分野は著しく発展していて、聴覚や音声知覚・認知に関しても新たな研究段階にきています。そのなかでわかったのは、赤ちゃんの耳はとても鋭敏だということ。お腹のなかにいる赤ちゃんの聴覚器官は胎生5カ月頃にできあがります。腹壁や羊水のために、私たちの聞こえ方とは異なりますが、いわゆる胎教として聴かせる音楽や語りかけは赤ちゃんにしっかり届いているのです。生まれてすぐお母さんの声のほうに顔を向けるしぐさができるのは、お腹にいたときに聴いた声の記憶があるからなのです。つまり、お腹の中にいるときから既に音声学習がはじまっていると言えるでしょう。

そして耳は、生後6カ月でほぼ成人と同じくらいにまで発達します。この頃の赤ちゃんは、音を単音ではなくひとつのかたまりとして聴いているので、たとえば子守歌を別の調や別の楽器で演奏しても、それが同じ曲だということを認識できます。一方で、赤ちゃんが『必要がない情報』だと解釈すれば、情報の記憶をそぎ落としていきます。たとえば、英語の「r」と「l」の発音の違いなどは、赤ちゃんが必要ないと判断すると聞き分けの能力は低くなってしまいます。これは、自分がこれから生きる環境のなかで重要とされているものを判断し、必要な言語に適した聞き分けへと耳をチューニングしているからです。

さらに1歳になる頃には、話のなかの言葉を『単語』で区切りをつけて解釈できるようになるほど、赤ちゃんは驚くべきスピードで学習していきます。この頃の赤ちゃんは、親が歌ってくれる歌の歌詞や大人同士の会話から言葉を聞き取って、音声知覚・認知を発達させているのです。そしておおよそ1歳前後に有意味語である初語を発し、その後は爆発的に言葉を獲得していきます。」

「胎教」や「乳幼児教育」にふさわしい音楽とは?



胎教/“聴く”音楽教育(胎生5カ月頃〜)

――胎教や子どもに音楽を聴かせるときは、どのようなものを選ぶのがよいのでしょうか。

「世間一般ではいわゆるクラシック音楽がよいというイメージがありますが、一概にそうとは限りません。お母さんやお父さんが聞いていてリラックスできたり、好きなものであれば、特定のジャンルにこだわる必要はありません。ただし、お話しした通り赤ちゃんの耳は鋭敏なので、大きな音や激しすぎる音楽などは避けるのが無難だと思います。それから、音楽を聴かせる際の環境も大切です。がやがやしている場所や左右で違う音が鳴っていたら落ち着いて聴くことができませんよね。とくに乳児期は私たち大人が当たり前に行っている「選択的聴取」(多種の音がある中から特定の音を選択して聴き取ること)が難しいため、音楽を聴かせるときにはきちんと環境を整えてあげる必要があるでしょう。」

――生演奏などを聴かせる方が良いというイメージがありますが、テレビなどで音楽番組を見るのはいかがでしょうか。

「生演奏ですと、その場にいることで空気の振動や音圧を肌で感じたり、演奏している人たちの動きや場の雰囲気など、五感を通して感じることが多いと思います。多感覚的な経験によって子どもは音楽への興味・関心を高めます。そのため、できれば生の音楽がいいのですが、テレビでも周りの大人が一緒に話しかけたり、歌ったりとやり取りをしながら聴くことで音楽を通じた子どもとの関わりができます。乳幼児期でも繰り返し聴くことによって、音楽を記憶したり言語の習得などにつながることも多いので、そういった意味ではCDやテレビの音楽番組も有効です。一緒に歌ったりしながら、上手に活用できるといいですね。

赤ちゃんや小さな子どもは、お母さんの声や歌に興味を寄せるという研究があります。ですから、聴かせる音楽の種類というよりはお母さんが好きな音楽を一緒に聴いたり、お母さんが抱っこして語りかけるように歌うのがもっとも効果的でしょう。歌うことに抵抗のあるお母さんもいらっしゃいますが、実は赤ちゃんに語りかけているときは自然と声が高くなったり、歌いかけるような感じになっているのです。この現象は『マザリーズ』と言って、お母さんの心の栄養にもなり、脳活動にもよい効果を与えることがわかっています。既存の音楽作品を聴かせるよりも、お母さんの声で聴かせることが重要なのです。」

――この効果はお母さんだけでなく、お父さんの場合も同じ効果があるのでしょうか?

「お父さんでももちろん同じです。赤ちゃんはお腹のなかにいるときから、お父さんの声もきちんと聴いていて、お父さんが抱っこして歌ったり、語りかけることもお母さんと同じ効果があります。ただ、赤ちゃんは高めの声を好むので、残念ながらお母さんのほうを好む傾向はあるかもしれませんね。」

――クラシックなどの音楽を聴かせるだけが胎教や音楽教育ではないのですね。

「そうなんです。既存の音楽作品にこだわる必要もありません。子どもが2歳前後になると、その日の気分でよく『つくり歌』を歌うことがあります。子どもは即興の達人です。その自由で素晴らしい表現の瞬間を捉え、受け止めてあげることが大切だと思います。こちらから歌いかけてもよいですね。たとえば私も、我が子に向けて『〇〇ちゃん、かわいいほっぺね』など即興風に歌いながら保育園の送り迎えをしていました。そういうときの反応や、親子の時間のあたたかさを子どもはよく記憶しています。また、当時私が歌っていた季節の歌や童謡をときどき口ずさんでいることがあって、『それ知っているの?』と聞いたら『うん!』というので驚いたことがあります。乳幼児期の音楽的な経験は、その時々の実体験の記憶と結びついてしっかりと残るものなのです。」

“鳴らす、奏でる”音楽教育(生後5カ月頃〜)


――乳幼児期に音楽教育を行うにあたって、生まれてはじめて子どもに与える楽器はどのようなものを選ぶとよいのでしょうか。

「0~1歳頃の乳児期の赤ちゃんに楽器を与えるのは、壊されるのが怖くてなかなか難しいですよね(笑)。でも、この頃の赤ちゃんにはまだ『楽器』と言う概念がありませんから、わざわざ既成の楽器を与えなくてもいいのです。楽器でなくても身の回りにあるもので遊ぶなかで『これはどんな音かな?』と試したり、変化を感じたりすることが大事なプロセスで、赤ちゃんは五感を通して自分にとって心地よい音を見つけていきます。ですから、最初のうちは赤ちゃんがしたことを否定せずに、見つけたものを『これはこんな音がするんだね』と言って可能性を引き出してあげるとよいでしょう。

我が家では以前、子どもがゴミ箱をひっくり返して、それを叩いて遊んでいたことがありました。余裕がないときは私もここで怒ってしまうところなのですが、そのときは夫が同じように叩き返してあげたんです。すると、娘も応答してくれたのが嬉しかったようで、そのあとセッションのようになっていました。はたから見たらゴミ箱を叩いているだけなのですが、そこに表現の芽が生まれているのだと思います。このような音を介したコミュニケーションは、自分の行為を受け止め、応答してくれる他者の存在が不可欠です。ですから『ゴミ箱をひっくり返した』という現象だけでなく、心に少し余裕を持って『何をしようとしているのか』『どんな風に感じているのか』を考えられるといいのかなと思います。」

――なるほど。ただ、わかっていてもつい、行動の結果を見て叱ってしまいそうです……。

「心に余裕があるときでないと難しいですよね。でも、たとえば赤ちゃんが床をモノで叩いているときに、『傷がつくからやめて』とただ注意するのではなく、違う音が出るものを渡すだけでもいいんです。音楽教育においては子どもの表現に対して、周りの大人が応答し関わりの中で表現を深めていくことが大切なので、少し我に返って冷静にものごとを見るようにするだけで対応は変わってくるはずです。子どもはいきなり情緒豊かに育つのではなく、日常の遊びのなかでたくさんの表現の芽が育っていくのです。たとえば、積み木を乗り物にみたてて『ブーン』と言ったり、滑り台を降りるときに『ヒューン』、おままごと遊びの『トントントン』など、擬音で遊びのイメージを広げる中にも音楽表現の芽生えがあります。」

――何歳くらいから楽器に触れさせれば良いのでしょうか。

「とくに何歳からというわけでもありませんが、“音が出るモノ”にどうアプローチするかは、身体の発達段階や手指の操作性とも関連します。おおよそ1〜2歳になればそれが『音を出すモノ』であると認識し、様々な経験を積み重ねる中で『楽器』という概念が育っていくのだと思います。また、周りの大人の様子を見ながら『楽器を大切に扱う』という心も芽生えてきます。本物の楽器にこだわらず、まずはペットボトルや空き箱などで簡易な手づくり楽器を子どもと一緒につくり、音を楽しみながら遊ぶのもおすすめです。そうした遊びの延長として、本物の楽器のもつ豊かな響きや音が鳴るときの振動をぜひ体感して欲しいですね。自分の鳴らし方によって音が変化することに気づき、『よい音』を探求していくことが非常に大事だと思います。具体的な楽器の選び方は、安全面や材質に配慮したうえで、たとえばモノを叩いて楽しんでいるなら太鼓やタンブリンのような打楽器をそばに置いてみたり、ストローで遊んでいるようなら笛を用意してみてもいいでしょう。何を選んだらいいのかは、子どもの行動や興味・関心を見逃さないようにしていれば見えてくると思いますよ。」

社会性を育てる音楽教育。続けるコツは“親子で一緒に楽しむ”

――胎教や乳幼児期からの音楽教育を行うことで、どのような力が身につくのでしょうか?

「人は生まれながらにして『コミュニカティブ・ミュージカリティ(絆の音楽性)』と呼ばれるものを持っており、それを土台として人との絆を育んでいるという考え方があります。親子のやり取りに着目すると、お母さんは赤ちゃんが出す声の高さや息づかいにあわせるように語りかけたり、赤ちゃんの身振りに合わせて体を揺らしたりということを自然に行なっています。そこにはある種のメロディやリズムといった音楽的な要素が多分に含まれています。つまり赤ちゃんと養育者との間のコミュニケーションは非常に音楽的であると言えるでしょう。これらの音楽的な関わりによって親子の絆が深まり、他者との関係性を築いていくうえで大切な礎がつくられるのです。

『音楽を幼児期から習わせることで頭がよくなるらしい』など、音楽の早期教育にはいろいろな説がありますが、実際に能動的な聴取が言語習得を促進したり音楽によって知能が育まれることは科学的に実証されています。今ではそれだけでなく、社会性などの人が生きていくうえで土台となる部分も音楽を通して育まれることが研究で明らかになっているのです。」

――たとえば音楽のどのようなところが社会性などに通ずるのでしょうか。

社会性とは、人との絆を結び、社会や文化とつながっていく力だと思いますが、音楽の持つ特性と関連が深いのではないかと考えています。例えば、合唱や合奏といったアンサンブルは、他者と呼吸を合わせ響き合うことが不可欠です。五感をフル活用してひとつのものをつくりあげる音楽活動は、究極の協働作業とも言えるでしょう。また、音楽はどこでどのようにつくられたのか、あるいはどのように演奏され伝承されてきたのかという意味で、社会的・文化的な要素と切り離すことができません。音楽を通して経験される価値や学びは他に変えがたいものがあると思います。」

――具体的にどのような音楽教育を行えばよいのでしょうか。

「音楽教育というと、早くから音楽教室に通ったり、何か楽器を習ったり……と普段の生活プラスアルファで考えがちですが、まずは、日々の生活にあふれている音楽的な事象に目を向け、耳を傾けることからはじめたらよいと思います。たとえば、「音楽に合わせて身体を揺らしている子どもと同じ動きをしてみる」、「大人がつい聞き逃している身の周りの音に親子で耳を傾けてみる」など。子どもの感じている音の世界を共有し、共感し、応答的に関わることが音楽教育の最初の一歩です。乳幼児期において音・音楽を介して人との関係を築くという経験が、生涯にわたる音楽との関わりの基盤になると言えるでしょう。

日常の音楽的な事象の中でも、リズムは要となります。会話のタイミングやテンポ、間合いによって、心地よさを感じたり、共鳴・共振することで人とのつながりを実感しますよね。反対に、リズムが乱れたり、しっくりこないと周りの人と会話の波長が合わせづらいということも起きてくるでしょう。人間の生活は、心臓の鼓動にはじまり、歩くことや食べ物を咀嚼することなどリズミカルな動作ばかりです。それらを日々心地よく行うことで生活が成り立っていますから、リズムは人の日常に欠かすことができないものであると言えます。リズムを通して共鳴・共振することはポジティブな感情を生み、人との絆を育む。音楽にはそういった要素が溢れているのです。

音楽教育は、まず無理のない範囲でできることからはじめてみること。そして子どもの興味や関心に合わせて広げていくとよいですね。本来音楽は楽しむものですから、難しく考え過ぎず、余裕をもって親子で楽しさを共有しながら続けていってほしいと思います。」




<プロフィール>

山原 麻紀子(やまはら まきこ)
東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 子ども支援学専攻 准教授
博士(学術)。専門分野は音楽教育学、音楽学で、乳幼児期から児童期にかけての子どもと音楽の関わりを中心に研究。共著に、『幼稚園教諭・保育士・小学校教諭養成課程用 音楽を学ぶということーこれから音楽を教える・学ぶ人のためにー』(教育芸術社)などがある。

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