仕事や勉強の「教え方のコツ」は? 学習指導の専門家に聞いてみた

職場で新入社員や後輩を指導する立場になったとき、自分の子どもに勉強を教えたりするとき──。私たちが生活をしていくなかで、「人に何かを教える」という場面は数多くあります。

しかし、相手がなかなか学ぶ姿勢になってくれなかったり、一度教えたことをすぐに忘れてしまったりすると「自分の教え方が悪いのではないか……」と、不安になってしまう人も多いのではないでしょうか。

今回は、教育方法学・学習指導学を専門とする東洋大学文学部教育学科教授の下田好行先生に、効果的な教え方や、教えるときの注意点・意識すべきことを伺いました。

教え方が上手な人の特徴とは?「効果的な教え方」は教える相手によって違う


画像:東洋大学文学部教育学科 下田好行教授

――はじめに、先生のご専門である“学習指導学”とはどのような学問なのか、教えてください。

「『学習指導学』は、教育実践を方法論的な視点から研究する教育方法学のなかのひとつで、主に『学校でどのような授業をおこなうか』、また『学校教材や授業のカリキュラムをどうつくるか』といったことを研究しています。そのほかにも『ホリスティック教育』といわれる、“細分化された部分にとらわれず物事を全体的・包括的な視点で捉え、人間と自然界とのつながりを重視することを理念とする教育の考え方”の研究などもおこなっています。」

――学習指導の専門家から見て、教えることが上手な人にはどのような特徴があるのでしょうか?

共通して言えるのは、相手のことをよく見ている人だということです。教え方というのは、ひとつの決まったやり方があるわけではなく、相手の性格や立場、大人か子どもかなどでも異なりますから、『目の前の相手に合った教え方を見極められる人』が、教え方が上手な人だと言えるのではないでしょうか。」

【会社編】上手な教え方のポイント

①信頼関係の構築

――個人個人に合った教え方を見極めるのはなかなか難しいように思います。職場や家庭で人に何かを教える立場になったとき、その人のどういった部分を見れば適した教え方がわかるのでしょうか?

「その人に合った教え方を考えるのはもちろん大事ですが、それよりも先に信頼関係をつくることが重要です。人間は、安心できない場所では物ごとを正しく理解することができないのです。ですから、まずはその教える対象が安心感と信頼感を抱ける環境を整える必要があるでしょう。

たとえば、会社で新入社員を教える立場になったとします。このとき、最初からその人の適性やスキルを見ようとするのではなく、まずは脱線も交えながらさまざまな会話をして信頼関係の土台をつくっていくことが第一歩です。」

――相手との信頼関係がなければ、何かを教えるのは難しいということですね。

「そうです。そもそも信頼関係が成り立っていなければ、相手もこちらの話を聞こうとはならないはずです。信頼し、尊敬できる先輩だからこそ、相手の話に耳を傾け理解しようとします。ですから、相手の人格を否定することや傷つける可能性がある発言は絶対にNGです。とくに気をつけるべきなのは、『伝え方』です。立場や年齢が下の人に対しては、どうしても言い方が命令調になりがちで、気をつけて丁寧語を使っていたとしても、話し方や相手の受け取り方次第では威圧感を与えてしまう可能性もあります。

そのため、相手がまだ環境に不慣れで、緊張したり怖がっているように感じたら、できるだけ「~してほしい」「~してください」という一方的なお願いの仕方ではなく、相手のアクションを引き出すような「~してくれたら嬉しいです」といった伝え方をするのがよいでしょう。」

②自信と自尊感情を育む

――では、コミュニケーションを重ねて相手の性格や性質がある程度わかってきたら、相手のどのようなところを見て教え方を考えればよいのでしょうか?

「基本的には、その人が苦手としていることや短所に注目するのではなく、得意分野や長所を伸ばしてあげるのがよいでしょう。こう言うと、『苦手なことを苦手なままにしてしまうのでは……』と懸念する方もいるかもしれません。しかし、多くの場合は、自分の得意分野を伸ばして自信がつけば、苦手なことにも自然とチャレンジするようになります。そのために、まずは自信と自尊感情を育てていくことが重要です。

ポイントは、相手のスタンスに合わせて接することができるかどうか。たとえば、こちらからの指示がないとなかなか動き出せない『指示待ち』タイプの人には、あえて指示を出さずに相手がアクションを起こしてくれるのを待ったり、自分の殻にこもりがちで控えめな人にはその気持ちを汲んでじっくりと話を聞いたり、と相手の性格に合わせてこちら側の接し方を工夫する必要があるのです。」

――実際のところ、相手になかなか成長が見られない場合はとくに、その人の「苦手」とすることに注目してしまいがちで、どうしたらその姿勢を矯正できるかという発想に陥りやすいように思います。教える側に焦りも生じますよね。

「たしかに会社の場合は、決まった時間内に業務をこなして利益を上げないといけませんから、なかなか成長の手応えを感じられない社員に対して教える側が焦ってしまうのもわかります。しかし、苦手なことを強制するのは控えるべきです。かと言って、白々しく相手を褒めたりしてもそれは相手に見透かされます。なかなか成長しない人に対しては、まずその事実をこちらが受け入れるべきでしょう。

教える側が大切にして欲しいのは、その人との関わりを楽しむこと。まずは、同じ時間を相手とできるだけ楽しく共有しようという意識が大切です。自分の目的に相手を誘導しようと思っているうちは、相手の内面や本質は見極められません。」

【子育て編】上手な教え方のポイント

①子どもの興味・関心に合わせる

――これまでは会社での話を伺いましたが、たとえば「我が子に勉強やしつけをどう教えればよいかわからない」と悩んでいるお父さん・お母さんも多いと思います。家庭での子どもの「教え方」についてもコツを教えてください。

「家庭のなかでは子どもが興味を持つことに親も興味を持ち、子どもが好きなものを親も好きになって、一緒に遊んだり、行動してあげることが大切です。たとえば、絵を書くのが好きな子どもなら一緒に公園へ写生をしに出かけたり、鉄道が好きな子どもなら『一緒に電車の名前を覚えてみよう』と旅行に行ったりするのもよいですね。」

――「子どもの興味をできるだけ尊重したうえで成長してほしい」という気持ちはあっても、つい周りの子どもたちにはできていることが自分の子どもはできないと心配になってしまう親御さんも多いと思います。私には5歳の娘がいるのですが、まだひらがなが書けなくて……。同い年の女の子たちはお手紙を書いて交換したりしているので、本人も書けないのを気にしているのか書いてみようともせず、ちょっと心配になるときがあります。

「周りができていることが自分にはできないからやりたくない、というのは、高度な精神性を持っているからこそです。少しずつ年齢を重ねて成長していけば大丈夫ですから、あまり周りと比較はしないほうがよいと思います。ですが、もしお子さんにひらがなを教えるのであれば、競争を感じさせない楽しい雰囲気の中で教えるのがいいですね。お子さんが好きなものは何ですか?」

――プリンセスのキャラクターのような、かわいいものが好きですね。

「それなら、『プリンセスという文字を一緒に書いてみよう』と書かせてみたり、一緒に買い物に行ったときに見つけたキャラクターの看板を一緒に読んでみたりして、本人の興味が向くところを捉えて教えていくのがよいでしょう。早く文字を覚えてもらおうと、あいうえお表やドリルを使うよりも、楽しみながら学ぶことでその理解も早まるものです。」

②子どものペースを尊重する

――子どもの興味・関心に合わせた教え方で気長にやっていくのが望ましいということでしょうか?

「子どもにできないことがあって心配になると、親はつい育児書やネットの情報を調べすぎてしまいがちです。しかし、それら多くの情報によって、むしろ不安や混乱が助長され、気にしすぎるとノイローゼにもなってしまうこともあるのであまりおすすめできません。

人の成長には個人差があるものです。すべて同じ特性の子どもはいないので、できるだけその子自身のペースを尊重しながら伸ばしていくことが望ましいのです。親はまず、子どもの特性を受け止めて、好きなことをさせてあげるのが大事だと思います。」

「教え方が上手な人」になるには?大切なのは、相手を受容する余裕を持つこと


――さまざまな教え方を試みてもなかなか相手が吸収してくれない場合、「教え方が悪い」と自分自身で不安になってしまうこともあります。

「覚えておいてほしいのは、『子どもや身近な後輩、生徒など、日常的・連続的に接している相手の成長は、なかなか見えず実感できないものだ』ということです。それは、教える立場になるとつい忘れがちですが、日々の時間を重ねていると、相手だけでなく自分も一緒に変化しているからです。自分では相手の成長をなかなか実感できていなくても、日常的に接していない人から見たら大きな成長を遂げていることは往々にしてあります。毎日接する相手の変化があまりわからないのは当然のことなので、教える側が気にしすぎる必要はありません。

――そのうえで、「教えることが上手な人」になるために、日頃から意識すべきことはありますか?

誰かにものを教えるうえで大切なのは、『自分も一緒に学ぶ』という姿勢を持って相手と接することです。人に教えようと思うとつい上から目線になってしまいますから、『自分も相手と一緒に成長していこう』と考えられるかが重要です。

今は、企業でも学校でも『あなたの課題は何ですか』と課題追求される機会が非常に多くなりました。しかし、その姿勢に慣れすぎると常に自分の足りない部分ばかりに目が行って、多くのことに不満を抱えるようになってしまいます。そうした環境で育った人が成長して“人に教える立場”になったとき、『自分はこの課題を乗り越えたのに、どうして相手にはできないんだ』と不満を募らせてしまうのです。

ですから、そうならないためにもまずは趣味や勉強、仕事でもよいので、“自分自身を充実させること”を第一に考えましょう。そうして『今はできないけれど、まあそれでもいいか』と相手を受け止める余裕を持つことが、教え方を磨くうえで何よりも大切なのです。」



<プロフィール>

下田 好行(しもだ よしゆき)
東洋大学 文学部 教育学科 教授

修士(教育学)。専門分野は、「教育学」「教科教育学」「学習指導法」「カリキュラム・教材開発」。主に学校教材や授業カリキュラムの開発を中心に行う。共著に、『教職論 初めて学ぶ教職2』(ミネルヴァ書房)、『道徳教育の理論と実践 新教職教育講座第8巻』(協同出版)、監修・編著に『小学校算数の教材開発・授業プラン 4・5・6年』(学事出版)などがある。

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