『幼児教育・保育無償化』導入!制度の内容とこれからの幼稚園・保育所選びを考える

2019年10月からいよいよスタートした『幼児教育・保育無償化』。恩恵を受ける幼児の保護者としては非常にありがたい制度ですが、対象年齢が決まっていたり、新たに支払う必要のある費用が発生したり……。『結局、いくら支払えばいいの?』そのような疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。

東洋大学社会学部社会福祉学科の森田明美教授は、これまで子育て世帯への支援や子どもの権利などについて研究を進めてきました。そこで今回は、『幼児教育・保育無償化』が施行された背景や制度の内容、『幼児教育・保育無償化』の価値と課題について伺います。

『幼児教育・保育無償化』が実施される理由とは?


東洋大学社会学部社会福祉学科 森田明美 教授

――未就学児を育てる保護者にとって、『幼児教育・保育無償化』は非常にありがたい制度だと思う一方で、『無償化の内容が分かりにくい』という声も耳にします。これについては、どのようなことが要因となっているのでしょうか?

「まず無償化と聞いて思い浮かぶのは、小学校や中学校の義務教育ではないでしょうか。それを今度は保育や幼児教育にも適用しようということですが、新聞やテレビでも『誰が対象になって、自分の場合はいくら保障されるのか』という話題で持ちきりです。

こうした疑問を生む背景には、保育所、幼稚園、さらには認定こども園と、保育や幼児教育の種類が多様化していることが挙げられます。実は、これらはすべてこども園という形で一元化される予定でしたが、実現することができず、むしろ多元化しました。『幼稚園に通わせる』と決めてからも、幼稚園によって保育時間も違えば、運営団体も、内容も違います。ですから、『自分の子どもが通う園では、どこまで無償化が適用されるのかが分からない』という疑問が生じているのです。」

――ここ数年で『認定こども園』という新たな呼び名が増えたり、教育に力を入れる幼稚園・保育所もたくさん出てきています。それぞれで月額費用も違うので、分かりにくい面がありますね。

「そうですね。あとは、『今通っている園では何に対して、どのような費用を支払っていて、何を無料にしてもらうのか』という実態の詳細が見えないので分かりにくい面もあります。無償といわれても、お金を払わなくていいということなのか、支払ったお金が戻ってくるということなのかもこの言葉だけでは分かりません。」

――なるほど。そもそも何故『幼児教育・保育無償化』が導入されることになったのでしょうか?

「なぜ無償化するのかは明言されていません。しかし、この施策が出てくる過程では、若い世代への社会保障の給付体制を整えたいという背景があるといわれています。今の社会保障制度はどちらかというと高齢者にシフトされているので、保険料をたくさん払っているわりに、若い世代が受けられる保障があまりありません。

具体的にいうと、育児休業や育児給付金、産前産後休暇のための給付などはありますが、それ以外の年金や医療費などは若いうちに使うことが少ないのです。そうすると、若い人たちが社会保障に加入してくれず、社会保障制度そのものの存続が難しくなってくるでしょう。だからこそ、子育て世代への投資に集中することで、「全世代型社会保障」へと大きく舵をきることを提示したのです。2000年代の欧米では、就学前の教育がその後の人格形成・生活レベルへの影響を与えるので、政策効果が高いことも認識されていました。

もうひとつ注目されたのが、少子化の問題です。少子化に貢献する保障を考えたときに、妊娠出産に関連する給付をつける方法もあります。しかし、生まれた子どもを育てるための教育費の問題も日本では課題になっているので、その教育費の一部負担を考えた結果、就学前の3〜5歳が対象となりました。2歳未満では、まだそれほど園の利用数が多くないですが、3歳以上とすれば約97%の人が利用しています。そのため、できる限り全体に給付を行き渡らせるためにこの年代を設定したのではないかともいわれています。」

――なぜこのタイミングで導入することになったのでしょうか?

「実はこの『幼児教育・保育無償化』の話が決定したのは、消費税の8%から10%への引き上げが決まったときでした。2014年頃から毎年のようにどう実施するかが議論されてきましたが、『幼児教育・保育の無償化』をスタートさせるためには、年間7千7百億円ほどのお金が必要になります。今回の消費税引き上げでの増収は、5兆6千億円ほどといわれています。そのうち約14%ほどのお金を使わなければならないため簡単には実施できません。

2017年衆議院議員選挙の際に、自民党は公約として、子育て世代への投資の集中を掲げました。2017年12月8日政府は、消費税率を10%に引き上げたときの財源による2兆円規模の「人づくり」のための新たな政策を閣議決定しました。このときの柱が「幼児教育・保育の無償化」で、2019年10月から実施ということになったのです。

「幼児教育・保育の無償化」では、約300万人(2019年11月末)が対象となり、半年分で3,882億円が計上されました。保育所利用が予想より多くて300億円不足する見通しという報道がされていますが、消費税増税により財源の確保が可能となったため、やはりこの同じタイミングでの実施でなければ実現は難しかったと思います。」

我が子の通う園は対象?『幼児教育・保育無償化』の内容と費用発生の注意点


まず制度の対象となるのは、『幼稚園・保育所・認定こども園などを利用する3〜5歳のすべての子ども』と『住民税非課税世帯の0〜2歳の子ども』です。しかし、無償化の内容は通っている保育施設によって、限度額が定められていたり、別途発生する費用が異なる場合などさまざま。ここでは、保育施設別に『幼児教育・保育無償化』(内閣府Webサイト)の内容について見ていきましょう。

【幼児教育・保育施設別に見る『幼児教育・保育無償化』の内容】

■「幼稚園」に通う場合

子ども・子育て支援新制度の対象ではない幼稚園の利用料については、日本の幼稚園の平均利用料である月額25,700円を上限に保育料が無償化されます(※平均以上の利用料がかかっている幼稚園もあります)。これに加え『保育の必要性の認定』があれば、月額11,300円を上限に預かり保育が無料となります。つまり、就労などを理由に市区町村から『保育の必要性の認定』を受けている家庭の場合は、預かり保育を含め、最大で37,000円の幼児教育・保育料が無償化されることになります。幼稚園の場合は、満3歳になった日から適用されます。
【対象施設】
幼稚園
※認定こども園における、子ども・子育て支援新制度1号認定の子どもたちの預かり保育も対象

■「認可保育施設」「認定こども園」に通う場合

認可保育施設・認定こども園に通う子どもの場合、保育料は自治体ごとに保護者の所得によって無料~10万円位まで分かれていますが、3歳児クラス(3歳になったあと最初の4月以降)から無償化となります。ただし、延長保育はこれまで通り有料です。
【対象施設】
認可保育園、認定こども園、地域型保育(小規模保育、家庭的保育、居宅訪問型保育、事業所内保育)

■「認可外保育施設」に通う場合

認可外保育施設の場合は『保育の必要性の認定』がある場合に限り、無償化の対象となります。3〜5歳の子どもについては、認定保育所における保育料の全国平均となる月額37,000円まで、0〜2歳の住民税非課税世帯の子どもの場合は、月額42,000円までの利用料が無償化されます。
【対象施設】
認可外保育園、地方自治体独自の認証保育園、ベビーホテル、ベビーシッター、認可外の事業所内保育、子ども・子育て支援法に基づく一時預かり事業所、病児保育事業、ファミリーサポートセンター
※上記のうち認可外保育施設・ベビーシッターについては、認可外保育施設の届出をし、指導監督の基準を満たすものに限る(ただし、経過措置として5年間は指導監督の基準を満たしていない場合も多くの自治体で無償化の対象となる)

■「障害児通園施設」に通う場合

障害児通園施設を利用する子どもの場合、利用料が無償化されます。幼稚園・保育所・認定こども園との複数利用の場合は、両方とも無償化の対象になります。(幼稚園の場合は2.57万円まで)
【対象施設】
障害児通園施設

――無償化対象外となる費用は、どういったものなのでしょうか?

「対象外となる代表的なもののひとつに、給食費があります。これまでも、ご飯やパンなどの主食費は保育料に含まれていなかったので、3歳児以上になるとパンやご飯を持参して登園しなければならない地域や主食代のみを別に徴収している保育施設がありました。しかし、副食費についてはこれまでの保育料に含まれていた部分です。それが今回、無償化の対象外と決まったので、月々の給食費は直接保育施設に支払うかたちになります。

また、制服や行事費、通園送迎費、特別な教材費なども無償化の対象外です。保育所は特別な教材は買わせてはいけないルールがありますが、幼稚園では制服や個人用の文具などを購入する場合もあるでしょう。こうした個別に所有するものについては、購入費用が発生します。簡単に言えば、個人が食べたり、使ったりするものについては無償化の対象にならないと考えれば良いですね。」

――これまで保育料がかからなかった人たちは、この制度で逆に出費が増えるということも懸念されています。

「そうですね。国は給食費の主食代を3,000円、副食代を4,500円に設定し、副食代を実費徴収にしました。もともと低所得層の人たちの保育料は無料だったり、かかっても少額だったので、無償化する前のほうが安かったという人たちも出てきます。これでは無償化の役割を果たせず、むしろ社会への影響がマイナスに評価されてしまうので、自治体ごとに検討が進められています。副食代4,500円よりも安かった人の保育料は、副食代を負担する自治体も増えています。」

『幼児教育・保育無償化』と『保育の質』の関係。子どもを預ける前に親が確認すべきこと

――上限や条件があるとはいえ、どの保育施設に預けても高額になりにくくなるので、利用できる保育サービスの幅が広がりそうですね。

「とくに認可保育園は一律に、認可外保育園もこれまでの認可保育園と同額程度の費用で預けられるようになったので、どこに預けるにも敷居が低くなりました。ですから、これからはさまざまな保育施設やサービスを利用する方が増えるでしょう。そして現在、保育所では待機児童を解消するために、32万人の受け入れができるようさまざまな整備が各地で展開されています。これを進めながら、一方で『保育の質』を確保することがこれからの大きな課題となります。

今は待機児童解消のために新しい保育所が新設されたり、対策が取られたりしていますが、急激に多くの保育施設が必要になると、保育者が不足して『保育の質』が下がってしまうことが懸念されます。ですから、私は“待機児童に対応するために急激に保育所をつくる”というような激変は可能な限り避ける方法を考えるべきだと思っています。育児休業を取りやすくしたり、幼稚園が対象年齢を引き下げたり、保育時間を延長して協力したりすることや、ニーズが高まっている3歳未満の保育については少し時間をかけて無償化の年齢を下げていくなど、企業やいろいろな幼児教育・保育機関が協力し、対象を広げながら質を担保する方法を考えるべきです。」

――はじめから対象の年齢を下げてしまうと、どのような『保育の質』の低下を招くのでしょうか。

「韓国では、すでに2012年に0〜2歳、5歳を無償化し、翌年2013年には3、4歳を無償化にしました。0~2歳はどの保育園を利用しても自己負担がなく、3~5歳はヌリ過程という標準教育内容に基づき、国公立保育園や法人保育園などの利用に自己負担がありません。その結果、当時0〜2歳の保育園利用率が2011年の28.6%から2015年には34%まで増加しました。保育園の利用者が急増し、保育サービスが必要な子どもが利用できない原因となっているという指摘も多く聞かれ、国の財政負担も急増しました。一方で私立保育園中心の保育士たちの待遇改善は進まず、保育士の数が足りなくなり、保育の業務負担によるサービスの質の低下による問題も多発するようになりました。

その後、無償化が出生率に与える影響は少ないことが明らかになりました。最近では、財政の限界のなかで、国公立保育園や幼稚園の増加、保育士・教師の待遇改善、保育サービスの質を高める取り組みが進められています。2020年には基本保育時間と追加保育時間に区分を設け、必要な費用と人力を別途に提供して親の保育のニーズに合わせるだけでなく、保育士の勤務時間を保証する支援体制を実施しました。これにより、保育現場の専門性と質を高めることを試みています。

『保育の質』は一度下がってしまうと、元の水準に戻すことが非常に大変です。乳幼児は、自分で保育が悪いなどとは言いません。手をかけても、かけなくても食べることさえできれば乳幼児の体を大きくすることはできますが、手や愛情をかけなければ心が育ちません。幼い頃にどういう育て方をしたかがその子の育ち方に影響を及ぼします。保育士や教師のかかわり方は何ヶ月も、何年も経ってから子どもたちの姿に現れてくるので、慎重に政策を進めなければいけません。」

――さまざまな保育サービスを利用しやすくなる一方で、『保育の質』は子どもを預ける保護者にとっても重要な問題ですね。

「はい。無償化によって子育て家庭が経済的困窮から脱するのはとても良いことですが、それによって『保育の質』が落ちてしまったら元も子もありません。教育費が安くなるのはよいですが、子どもを育てるためには絶対に削減できないお金があり、これが『保育の質』といわれる部分でもあります。保育所の運営費でいえば、費用の8〜9割を人件費にあてているというのが保育の実態です。つまり、保育料を安く提示している保育所は人件費を極端に減らしている可能性があります。より詳しくいえば、人件費を減らすためには「給与金額の安い人を雇う」か「人数を減らす」という選択があります。

例えば、認可保育園には、保育士の配置人数に規定があるので、1人当たりの保育士のコストを引き下げることになります。その結果、経験が浅かったり、アルバイトなどの不安定な雇用で、安く雇える保育士を増やして、ギリギリの人数で保育することになります。そうなれば、子どもの気持ちが保育士に届くということも難しくなります。」

――いくら経済的な負担が減るにしても、それにより保育の質が担保されなくなってしまうのは保護者として誰も望んでいないことだと思います。

「そうですね。2019年11月に、厚生労働省と文部科学省が10月1日から保育料を値上げした園を対象に、不適切な賃上げについての調査を公表しました。そのなかで、保育の質の向上のための値上げと認められない不適切な値上げと判断されたのは、私立幼稚園619園中5園、認可外保育施設では便乗値上げ14園、理由に疑義ありが14園と合計33施設でした。

保育士は資格を持っているだけでは良い保育はできません。時間をかけて現場での実践を積み重ねて保育の専門家を育てなければなりません。そのためには、長く働き続けられる現場であることが重要です。一般企業より月給が10万円安いといわれる保育士の待遇改善や、在宅の子育てを楽しくできるための子育て支援の場の整備、働く環境の整備などもあわせて行わなければなりません。」

――保育の質を保つためにも、保育士の働く環境整備は重要な課題であるといえそうですね。保育士の人手不足が原因による保育施設での事故などもニュースでは取り上げられています。子どもを預けるときには、保育施設のどこを見れば良いのでしょうか?

良い保育施設を見分けるには、子どもを預けるときに必ず事前に施設の見学へ行くことをおすすめします。それから見学の際には、まず保育施設に入ったときに“元気な子どもの声が響いているかどうか”を確認してほしいと思います。良い保育所の多くは、大人たちが静かで子どもたちは元気に遊んでいます。逆に“大人の声が響いている”という状況は、子どもを大人の声(指示)で動かしているということです。ですから、保育施設を選ぶときは、建物の綺麗さや教材だけにとらわれず、保育士の言葉の使い方や振る舞い、子どもとの関わり方を確認することが大切です。

――負担が軽減されるということだけでなく、これをきっかけに『保育の質』という問題にも真剣に向き合っていかなければいけませんね。

「そうですね。日本は、時間をかけて無償化を生かす方法を考えないといけないと思っています。就学前の子どもたちに提供しなければいけない『保育・教育』というのは、英語を早く教えるということでもなく、早く数を数えられるようにする単なる知的早期教育ではなく、子どもや大人との交流のなかでゆっくりと自分の気持ちを育み、『総合的な人間としての力』をつけていくことです。

ですから、単に保育・教育を無償化にして終わりではなく、子どもたちが保育・教育施設のなかでより健やかな育ちが保証できるよう、実践現場の条件整備を行い、よりよい具体的な保育・教育支援を子どもや子育て家庭に継続的に行っていかなければいけないと感じています。そして、世の中の人たちや子どもを育てている親、そして子どもたちには、この制度が『期待と希望をのせるサービス』として定着してほしいと思っています。」




<プロフィール>

森田 明美(もりた あけみ)
東洋大学 社会学部 社会福祉学科 教授
社会学修士。専門分野は、子どもの権利、子育て支援、震災子ども支援。日米の共働き・シングルマザー・シングルファーザー・10代の母親など子育て家庭の実態と、保育所・幼稚園、児童館・放課後児童クラブなどによる子育て支援に関する実証的研究を行う。また、子どもの権利を推進するため、国内外の研究者・NPOこども福祉研究所・国連NGO子どもの権利条約総合研究所を通じて活動。著書に『よくわかる女性と福祉』(ミネルヴァ書房)、『幼稚園が変わる 保育所が変わる』(明石書店)、『子どもの権利-日韓共同研究』(日本評論社)などがある。

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