eスポーツ体験は進化できるか。「面白さ」を研究する専門家が考える”ゲームの魅力”

2018年は「eスポーツ元年」とも呼ばれ、日本eスポーツ連合(JeSU)の発足や人気ゲームタイトル世界大会の国内開催、さらに流行語大賞へのノミネートなど、「eスポーツ」の名が世間に広まった年でした。しかし現在、eスポーツ先進国である欧米や韓国、中国と比べると、日本のeスポーツは遅れを取っているといわれています。

そこでお話を伺ったのは、「遊び」や「面白さ」を研究している東洋大学経営学部マーケティング学科の小川純生教授。eスポーツをはじめとするゲームの普遍的な「面白さ」は、一体どこから生まれているのでしょうか。この「面白さ」を学術研究の視点から紐解くことで、今後の発展に活かすヒントが得られるかもしれません。

本記事では、多くのファンを熱狂させるeスポーツやゲームの面白さ、その魅力を広げるための考え方をお伺いしました。

リアルな世界の制限が「遊び」を生む。ゲームは“面白い制限”の好例


画像:東洋大学経営学部マーケティング学科 小川純生教授 

――eスポーツの面白さについて伺う前に、小川先生の研究内容について教えてください。小川先生は、“消費者行動などのマーケティング研究”に加え、最近は“「遊び」や「面白さ」”についても研究されていまね。

「以前は、経済学を基点として、心理学、社会心理学、社会学、文化人類学の概念を利用しながら、経済的な消費者行動などを解明していました。しかし、ふとあるときに、購入をはじめとした消費者行動の動機は、『楽しそう』とか『面白そう』といった純粋な気持ちにすぎないのではないかと考えるようになりました。こうした『楽しさ』や『面白さ』を喚起する方法を考え、面白さの表象としての『遊び』に着目することにしたのです。」

――「面白さ」や「遊び」そのものを研究することもできるのですね!

「『遊び』は昔から研究対象として取り上げられているんです。19〜20世紀のオランダの歴史家ヨハン・ホイジンガは、『遊びが人間活動の本質であり、文化を生み出す根源』であると、著書『ホモ・ルーデンス』(1955年)に記しています。またホイジンガは、遊びを日常と対比しながら、その特徴を以下のように挙げています。



【日常と対比した「遊び」の特徴】

1.一つの自由な行動である。
2. 遊びは日常あるいは現実の生活の枠外にある。
3. 遊びは日常生活から、その「場」と持続「時間」とによって、区別される。
4. 遊びの中には、緊張の要素が含まれる。
5. どんな遊びにも、それに固有の規則がある。

引用:『ホモ・ルーデンス』ヨハン・ホイジンガ(pp.7-12;邦訳、pp.29-40)

簡単に要約すると、『遊び』とは、リアルな世界から時間・空間・手段を制限することで成立します。そのなかでも、画面やコントローラーなどで制限を意図的に生じさせる『ゲーム』は、この特徴を研究する際にうってつけの題材だったのです。」

――ここで「遊び」と「ゲーム」が結びつくのですね。「面白さ」はどのように説明できるのでしょうか。

「面白さや楽しさは、個人の『情報処理負荷』が最適なときに感じるものと考えられます。

引用:『間違ったテレビゲーム進化 1/2-遊び概念からの説明- 』小川純生

ゲームでは、ゲーム内のルールやコントローラーによる制御によって、情報負荷をデザインしています。『難しさ=情報負荷の高さ』ともいえるでしょう。簡単すぎたり、難しすぎたりするゲームが「面白い!」と感じにくい理由は、プレイヤーへの情報負荷が不適切だからです。

いわゆるゲーマー向けの難しいゲームと、はじめてゲームをする人向けの易しいゲームでは、ルールやコントローラー操作などの情報負荷を分けて設計することがプレイヤーの『面白さ』につながります。」

「意外性」が「面白さ」につながる。eスポーツでは選手の紹介方法に光明か


――「面白さの設計」について、eスポーツに視点を移して詳しく伺いたいのですが、興行としてのeスポーツを考えたとき、プレイヤーではなく「観戦者の面白さ」はどのように設計すればよいのでしょうか。

「『遊びの面白さ』を要素分解したとき、『結果が明確に返ってくる』ことが一つ挙げられます。もちろんeスポーツでも、試合が終われば誰が勝ったか・負けたかがわかるはずです。ところが、もしすべての結果が予測可能だったとしたら、その試合は面白いでしょうか?」

――勝ち負けの結果が事前にわかったら、勝敗にドキドキすることもないので、面白さは薄れる気がします。

「そうですよね。結果がわかりきっていると少しつまらない。つい最近のラグビーワールドカップでは、日本代表が世界ランキング上位のアイルランドを破って、ファンは大盛りあがりでした。過去の対戦成績だけから考えると、大金星だったわけです。スポーツの面白さはたくさんあると思いますが、『相手が99%勝ちそうだけど、1%の確率で勝てるかも』という『意外性』も、スポーツが持つ面白さのひとつと言えるでしょう。」

――確かに、よい意味で期待を裏切るような結果が生まれるからこそ、スポーツは面白いのかもしれません。

「こうした勝敗の決め方には、4通りあると考えられます。」

1.競争で決める:100m走で速くゴールしたほうが勝ちなど
2.他人による点数で決める:フィギュアスケートの審査員など
3.自分で決める:自分の独断による宣言など
4.運で決める:じゃんけんなど

「1〜3の場合、環境やコンディションなどの条件をすべて平等にすれば、極論的には強者が勝つシステムになっていて、弱者が勝つためには、『運』の要素が少なからず必要です。勝負の世界では、常に天候や選手の体調などによって、いわゆる運の要素が入るからこそ、結果がわからないという面白さがあります

ラグビーボールが完全な球ではなく、楕円になっている理由も、まさに運を呼び込むためといわれています。経験を積めば、ボールの動きを予測できるようになると思いますが、ふいに意外な方向へバウンドしたり、キャッチミスしたりするのは、ボールがあの形だからこそでしょう。完全な球体のボールでは引き起こされない想定外が生まれ、試合展開を左右します。

eスポーツでも、『意外性』や『運』の要素をゲームに盛り込むというのが、eスポーツを観戦する人にとっての面白さを創るひとつの方法といえるでしょう。」

――eスポーツ競技において、「操作の正確性」や「判断力」は選手が磨いてきた技術です。それが相手よりも上回っているにもかかわらず、「運」によって勝敗が逆転してしまうケースがあると、選手にとって不合理と感じる要因にもなってしまうと思いますが…

「『運』と『意外性』はあくまでも別物なので、改めて整理しましょう。ゲームは人の手によってプログラムされたものです。入力した情報が正確に出力されず、『運』の要素が高すぎてそれが勝敗を左右してしまったら、そもそも競技やアスリートスポーツとして成り立たなくなってしまう可能性があります。

しかし、例えばゲーム内ではなく、ゲーム外のプレイヤーに『意外性』による面白さを見出すこともできます。ゲームの成績に加えて、プレイヤーである選手がどれだけ練習しているかなど、『あれだけ練習しているのだから勝てるかもしれない』という情報を観客に知ってもらうことで、強者にも勝てるのではないか、という期待感を創出できるのではないでしょうか。」

「五感を使ったコミュニケーション」と「感情の共有」で魅力を広げる


――たしかにスポーツでは、「選手その人」を応援している節があります。ここで、「観客に知ってもらう」というキーワードが出ましたが、eスポーツの魅力を観客にわかりやすく伝えるためには、どのような取り組みが考えられるでしょうか。

「まず『伝わりやすさ』を整理すると、物事を伝えるとき、一般的に“『五感』を使うほど情報を受け入れやすくなる”という特徴があります。たとえば、電話で話すときよりも、テレビ電話で話すときのほうが細かいニュアンスが伝わりやすくなります。これは、聴覚だけだった情報に視覚も加わり、情報量が多くなっているからです。

eスポーツは映像配信のみで観戦している観客も多いため、コミュニケーションが視覚に限定されやすい傾向にあると思っています。今はeスポーツイベントも多く開催されるようになっているので、できるだけ会場に足を運んでもらい、匂いや音の演出を交えて視覚以外の感覚に働きかけると、観客の没入感が増し、より面白さを感じやすくなるのではないでしょうか。」

――おっしゃる通り、スポーツ配信を観ているときよりも、試合会場に行ったほうが、ファンの歓声や会場ならではの熱気で興奮する、というのはあるかもしれません。最後に、eスポーツがこれまで以上に盛り上がるために必要だと考えられることがあれば教えてください。

『魅力を広める』という観点では、『共有』がひとつのキーワードになると思います。『面白い!』と思ったときに、その感情を誰かと共有することは、自分の感情を自身が納得するために必要なプロセスです。

たとえば、ゴルフでショットを打ったときに、自分だけで「良いショット」だと思う場合と、周りの人からも「ナイスショット!」と言われる場合では、気持ちよさが違います。映画を見終わったあとに感想を言い合うケースも同様です。

eスポーツ視聴においては、配信画面のコメントが『共有』の役割を果たしており、とても良いと思いますが、それはあくまで配信中のみ可能なシステムです。eスポーツの試合を観終わったとき、『あれ、すごかったよね』と感想を共有し、ファン同士がコミュニケーションを取れる場所やシステムがあると、eスポーツの魅力がもっと拡散していくのではないかと思います。」



<プロフィール>

小川 純生(おがわ すみお)
東洋大学 経営学部 マーケティング学科 教授
専門分野はマーケティング論、消費者行動論、遊び、面白さ。消費者の消費者行動や企業のマーケティング活動に関する研究を行う。著書に『マーケティング・ノート』(創成社)、『マーケティング・ブック』(創成社)、『遊び概念と消費者行動』(同友館)がある。

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