子どもの英語教育、どうする?“使える英語”習得のポイントを専門家に聞いてみた

かつて中学校から始まっていた英語の授業が、現在は小学校から導入されています。2011年度より学習指導要領が改訂され、小学校の授業として「外国語活動」が必修化。早い段階から英語を学ぶ体系が正式に導入され、2020年度からは算数や国語などと並ぶ教科として「外国語科」が採用されます。この改革で、「うちの子どもは、英語の授業についていけるのだろうか……」「今から準備したほうがいいのだろうか……」と不安に思っている親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

なぜ、英語は小学校の教育に本格的に組み込まれることになったのでしょうか?
そもそも幼少期から英語を学ぶ必要はあるのでしょうか?

今回は、早期英語教育や実用英語教育について研究する東洋大学の淺間正通教授に、幼少期からの英語学習、また子どもに英語を教える際に親や先生が意識すべきことを聞いてみました。

子どもの頃から英語に触れることが“使える英語”を身につけるきっかけに


画像:東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科 淺間正通教授

――2020年度より、小学校5・6年の教科に外国語科が正式に採用されます。はじめに、英語の授業が“教科”になった背景を教えてください。

「日本の英語教育において、長く議論されてきているのが実用英語の課題でして、わかりやすく言えば、“使える英語能力”が身につけられているかという問題です。この英語能力を世界規模で研究する機関、EF(イー・エフ・エデュケーション・ファースト)が2018年に発表した英語能力ランキングにおいて日本は、調査対象となった88カ国・地域のなかで49位。アジア諸国内でも21カ国中 11位で、『能力レベルが低い』という評価でした。これは、教育関係者にとって由々しき事態です。

そもそも英語教育の歴史を紐解くと、昭和の中頃までは教養として英語教育が行われていました。高等教育でも言語の背景にある歴史や文化的な要素、思考、哲学などの学問として英語を学ぶことが求められていましたが、それがビジネス上のグローバルな場面で使える語学スキルなのかと言えば、必ずしもそうではありません。その頃から“使える英語を学ぼう”という議論は進められてきたのです。

つまり、英語教育は20年ほど前から“学問や文法を学ぶ教育”から“話せる教育”へとシフトしているのですが、EFの結果からもわかるとおり、抜本的な変革には至っていません。むしろここ数年で順位は下がっており、2018年は過去最低の順位です。これは日本の英語力が低下しているというよりも、シンガポールをはじめとするアジア圏の国の英語力がどんどん上がっていることによる影響も考えられます。」

――この状況を改善すべく、今回の学習指導要領改訂により小学校教育から大きく変えていこうというわけですね。小学校で外国語科が正式に採用されると、これまでの英語教育はどう変わるのでしょうか?

「これまでも英語を母語とする先生を補佐役として招くALT(Assistant Language Teacher)制度などを活用するなど、2011年から外国語活動として英語に触れる機会が小学校でも実施されてきましたが、これからの大きなテーマとしては、“グローバル人材の育成”という観点がより強く意識されるようになるでしょう。

そのために、まずは必修の時間が現在の年間50単位時間から、2020年度より年間70単位時間に増えます。内容についても、これまでは英語4技能(『聞く』“Listening”、『読む』“Reading”、『話す』“Speaking”、『書く』“Writing”)のうち、『聞く』と『話す』がメインでしたが、これからの外国語科の授業では『読む』『書く』のスキルも重要視されます。」

幼少期から英語を学ぶことにメリット・デメリットはあるのか?

――幼少期から本格的に英語を学ぶことでのメリットはあるのでしょうか?

「ある程度大きくなってから英語を学ぼうとすると、外国語に対する拒否反応が出やすくなると言われています。そのため、何事も素直に受け入れやすい感性が柔軟な幼少期から英語に積極的に触れることで、より“使える英語”を身につけやすいというメリットが考えられます。脳に与えられた刺激が最も効果的に現れる“臨界期”は8歳までという説があるように、幼ければ幼いほど知識や情報の習得率は良いことはさまざまな事例で実証されており、早い年齢から英語を学ぶことには意味があると言えるでしょう。

たとえば、リスニングを例に挙げると、多くの大人はわからない言葉がひとつあると全体が聞けなくなる傾向にあります。しかし、子どもは会話全体をまとまりとして聞き、『こんなことを言っている』という大枠でとらえることができます。これは、子どもが英語を知識ではなく、感性で学んでいることによる違いです。また、英語の流暢な発音も調音器官の柔軟性から幼少期のほうが身につけやすいでしょう。その結果、将来的に英語をコミュニケーションツールとして活用できるようになる可能性が高まり、国際舞台でファシリテーターや発言者として、流暢な英語で対等に議論に参加したり、発表したりする。そうした日本人が増えることは国際競争力の向上にもつながるはずです。」

――幼少期から英語に触れることで、さまざまなメリットがあるのですね。逆に、幼少期から本格的に英語を学ぶことでのデメリットはあるのでしょうか?

「研究の観点から考えると、よく欧米は個人主義的なライフスタイル志向であるのに対し、日本は集団主義的なライフスタイル志向であると言われます。どちらが良い悪いということではないのですが、この日本人としてのアイデンティティにもつながる集団主義文化に少なからず影響があるのではないかと分析しています。

国ごとのアイデンティティの違いは言語にも表れていると私は考えるため、英語を幼少期から学ぶことで、子どもの考え方にも変化が現れる可能性があります。十分な対策、準備のないまま幼少期の英語教育を推進すると、この変化が加速する要因にもなるのではないかと思います。」

――それでは、子どもの英語教育の効果を最大限に発揮するためには、どのような体制が必要なのでしょうか?

「小学校の英語教育を推進していく一方で、母語の教育とのバランスも同時に配慮していくべきだと考えています。日本では英語の授業では一切、日本語を使わない、というケースが増えてきています。でも、海外では外国語で授業を行いながらも、決して母語の介入を否定したりはしないのです。まず母語をしっかりと操ることができなければ、外国語は身につかないということですね。

もちろん英語の授業内容そのものも大切ですが、より効果的な英語教育にはこうした関連要素も同時に考えていく必要があるということです。

そのほか、これまで中学との連携ばかりが声高に叫ばれてきましたが、今後は高校・大学での英語教育ともいかに連動させていくか、という視点も重要な課題として考えていく必要があります。現在、小学校で行われている外国語活動は、“英語の授業は楽しい”という声が多く聞かれるように、子どもたちからは好評だという調査結果が出ています。現場の先生たちの努力の賜物です。

小学校のうちから芽生えた語学に対する興味が、中学・高校で決してトーンダウンしないように、授業内容やカリキュラムに工夫を凝らす一方で、大学ではそれらの努力が実るように、多様なアウトプット場面を用意していくことが重要です。」

子どもにどうやって英語を教える?


――小学生が英語を習得するうえで、効果的な教え方、学び方はありますか?

「今、私は帰納的言語学習法を推奨しています。私たちは単語の意味はひとつだと思いがちですが、特に英語の単語は複数の意味やニュアンスを持っているケースがほとんどです。しかし、現代に暮らす多くの人たちはスマホや電子辞書で調べて、最初に画面で遭遇する意味で言葉を覚えてしまいがちです。実際に一度、辞書で3番目くらいに記載されている意味を使って問題をつくったら、1番最初に出てくる意味で訳そうとするので、意味の通らない訳で回答する人がたくさん生じました。

そのような問題をおこさないためにも、個々の単語の意味を1対1と決めつけて理解するのではなく、いろいろな表現や活動から帰納的・総合的に学ぶ方法が有効であると考えています。そのヒントになるのが、児童英語教育の場で今話題の『CLIL(クリル):Content and Language Integrated Learning(内容言語統合型学習)』という教育方法です。社会科や理科などの題材をさまざまな言語活動と絡めて学ぶことによって、4技能のスキルを高めることができるばかりでなく、言語のもつ多様な『幅』への気づきが生まれ、英語を帰納的に理解できるようになるので、応用力も自然と身についていくことが期待できます。」

――今後は各家庭でも、親が子どもに英語を教える場面が増えてくるかもしれません。その時に、親が意識すべきことはありますか?

「小学校の段階では“英語を勉強する”という意識で学ばせないようにすることが重要です。小学校のときに“英語が嫌い”という意識が芽生えてしまうと、なかなか英語は身につきません。

具体的には、とにかく褒めてあげてください。言語教育では聞くことだけでなく、発信することも大事なので、自ら積極的に英語を話したくなるようなシチュエーションやシーンをつくってあげることが大切です。“英語で話すことが楽しい”と子どもに感じてもらえれば、自ずと英語力はどんどん伸びるでしょう。」

――“習うより慣れろ”ということですね。

「英語で言えば、“Practice makes perfect!”といいますよね。英語の”practice”には「実践する」という意味があります。実際にアウトプットというアクションをおこす環境をつくることは重要です。この場面がないと、なかなか体に馴染んでいきません。本当の意味で使える英語を身につけるためには、“Do you have a pen?” “Yes I do.”という文語の正しい文法を繰り返して覚るのではなく、“Do you have a pen? ”“Here you are!”という日常会話の活きた場面の中から英語を学んだほうが、まちがいなく実用英語を身につけられるはずです。

そのほかにも、たとえば会話の中で、“Why?”を多用して、子どもの意識や考えを引き出してあげる工夫もひとつの効果的な方法です。答えそのものが大切なのではなく、なぜその答えに至ったのか、それは人それぞれに異なります。“What color do you like?”という質問に対し、“Yellow!” “Red!”と答えて終わりではなく、“Why do you like that color?”と、深掘りしていくと子どもは一所懸命、話そうとします。こうした子どもの発信力を引き出し育む、という意味でも、英語教育にはとても大切な役割があるのです。

子どもの英語教育は、『褒めて、楽しませること』。このふたつが、大切なキーワードになるのはまちがいありませんが、と同時に『もっと英語にふれてみたい』と思えるような、温かな英語学習環境づくりが大切であると思います。」

<プロフィール>

淺間 正通(あさま まさみち)
東洋大学 ライフデザイン学部 健康スポーツ学科 教授

教育学修士。言語学、教育学を専門とし、情報社会論、国際理解・異文化理解、心の教育などに関する研究を行う。異文化間情報連携学会(CINEX)会長、静岡大学名誉教授。海外の語学教育にも造詣が深く、実用英語を学ぶにはどうすればいいのか、教材、プログラム、体制などさまざまな角度から研究する。2020年度より外国語科が小学校の教科に正式に採用されることを受け、「小学校英語教科化を鳥瞰したキヴァプログラム援用型小中英語ウェブリエゾン教材の開発」(科学研究費助成事業 基盤研究(C)採択)なども推進する。著書に『グローバル時代のコア・ベクトル』(遊行社)、『実践TOEICコンパクト演習』(英宝社)、『世界を歩く君たちへ』(遊行社)、『小学校英語マルチTIPS』(東洋館出版)などがある。

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