発達障がいを正しく理解しよう。専門家の大学教員が症状や特性などを解説

近年、「発達障がい」という言葉をメディアなどでもよく耳にするようになってきましたが、どのような障がいなのかをきちんと理解している人はまだ少ないのではないでしょうか。

「発達障がいとは何か」「どのような症状が現れるのか」……。さらには、発達障がいを取り巻く現状や周りができる対応などについて、特別支援教育や障がい児・者福祉などを専門とする東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科生活支援学専攻の是枝喜代治教授にお話を伺いました(インタビュー:2020年5月12日オンラインにて実施)。

発達障がいのある子は1クラスに1人〜2人の割合で在籍


画像:東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科生活支援学専攻 是枝喜代治 教授

――最初に、是枝先生のご専門分野やこれまでの研究について教えてください。

「専門分野は『障がい児や障がい者の福祉』を中心に、知的障がいや病弱、肢体不自由(※1)のある子どもたちを対象とする『特別支援教育』などの研究をしています。ほかに、遊びや軽い運動を通して子どもの発達を支援する『ムーブメント教育・療法』というアプローチをもとに、障がいのある子どもたちの地域支援や家族支援にも携わっています。」

(※1)……先天的、後天的に関わらず、四肢や体幹の機能障がいにより日常の生活動作が困難であること

――「発達障がい」の分野の研究を始めたきっかけは何ですか?

「大きなきっかけは、大学卒業後に特別支援学校の教員として勤務した経験です。障がいのあるお子さんと日々関わるなか、保護者からの相談を受け、一緒に考える機会が数多くありました。その後、特別支援教育に関する国立の研究機関で発達障がいの研究を行いました。また、一般校に在籍する発達障がい児も多いので、学校コンサルテーションにも関わっています。そうした経験を通し、専門職からの助言によって状況がよくなる事例などを体験したこともあり、重点的に研究していこうと思いました。」

――最近ではメディアなどでも取り上げられるようになり、注目や関心が高まっているように感じます。発達障がいのある人は、国内にどのくらいいらっしゃるのでしょうか?

「文部科学省の調査によれば、発達障がいのある子は1クラスに約6.5%。つまり25人ほどのクラスに1人〜2人の割合で在籍していることになります。知的障がいや病弱児を対象とした特別支援学校の高等部では、近年、発達障がいのある生徒が増加している傾向にあり、支援の在り方が議論されています。」


発達障がいとは?原因と特性


――発達障がいとは、どのような障がいなのでしょうか?

「脳の一部の軽い損傷を起因とする、先天性の障がいを発達障がいと言います。以前は、家庭での育児環境などを要因とする心因説も見られましたが、今は脳科学などの研究が進み発達障がいは先天的な脳の損傷による特性だと判明しています。損傷といっても、MRIやCT検査ではわからないほど軽微なものです。そのため、身体的な障がいはなく、知的障がいとも異なり、日常生活を普通に送ることができる人も大勢います。外見からは障がいが見えにくいので、誤解を受けやすく、生きにくさを感じている人も少なくありません。」

――つまり、「病気ではない」ということでしょうか?

「はい。病気ではないので、治療によって治るものではありません。しかし、周囲の対応や配慮の仕方で症状が改善したり、本人の経験値が増すことで生きにくさが軽減される場合や、適切な服薬が効果を示す場合もあります。

発達障がいの詳しい特徴については、2005年に施行された『発達障害者支援法』(厚生労働省ホームページへのリンク)という法律に規定されています。『発達障がい』とひと括りにしてもさまざまな特性が見られますが、大きく分けて学習障がい(LD)、注意欠陥・多動性障がい(ADHD)、自閉症スペクトラム障がい(ASD)の3つの代表的なタイプがあります。」

■学習障がい(LD)

「学習障がいは、たとえば表裏が逆転した文字を書いたり、文章を読む際に一文字ずつ拾い読みや行を飛ばしてしまうなど、読み書きや計算など学習上に困難さが見られたり、物事を順序立てて説明することが苦手だったりといった状態が主な特性です。小学校に上がってから、一生懸命努力しているのになぜか、『漢字が覚えられない』『作文が書けない』『音読が苦手』などの様子が見られ、教師が障がいを疑って発見されるケースが一般的です。なかには、学齢期には気づかず、大人になって職場でわかることもあります。

効果的な周囲の対応として、たとえば、漢字にルビをふったり、学習を補助するソフトの入ったタブレットの使用を認めたりするなどの配慮をしてあげるとよいでしょう。『できた』という経験によって学習意欲が向上することもあります。逆にサインを見過ごしていると、『がんばってもできない。わからない』などと悩み、不登校になったり、情緒や心理的な問題へと発展したりすることもあるので注意が必要です。」

■注意欠陥・多動性障がい(ADHD)

「注意欠陥・多動性障がい(ADHD)は、行動上に特性が表れる障がいです。“忘れ物が多い”、“整理整頓が苦手”といった『不注意』の傾向や、つい動き回ってしまう『多動性』、急に大声を出すといった『衝動性』という症状が代表的な特性です。3つの症状が混在するケースが多いですが、なかには不注意優位型や多動性優位型なども見られます。

この障がいは、『集団のなかでほかの子に比べて落ち着きがない』といった様子から顕在化しやすい障がいです。児童精神科医による18の診断基準があり、多くは就学前の7歳頃までに判定されます。不注意の傾向は大人になっても残りやすいですが、多動性や衝動性は成長するに従って落ち着いていくことも多いです。」

注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の診断の基準
※この基準による診断は、少なくとも1グループにおける6つの症候が以下の条件を満たす必要がある
<条件>
・しばしば6ヶ月以上認められる
・患児の発達水準から予測されるよりも著しい
・少なくとも2つ以上の状況(例:家庭および学校)でみられる
・12歳前に(少なくともいくつかの症状が)みられる
・家庭、学校、または職場での機能を妨げている
【不注意】
・細部に注意を払わない、または学業課題やそのほかの活動を行う際にケアレスミスをする
・学校での課題または遊びの最中に注意を維持することが困難である
・直接話しかけられても聴いていないように見える
・指示に従わず、課題を最後までやり遂げない
・課題や活動を順序立てることが困難である
・持続的な精神的努力の維持を要する課題に取り組むことを避ける、嫌う、または嫌々行う
・しばしば学校の課題または活動に必要なものを失くす
・容易に注意をそらされる
・日常生活で忘れ物が多い
【多動性・衝動性】
・手足をソワソワと動かしたり、身をよじったりすることが多い
・教室内またはそのほかの場所で席を離れることが多い
・不適切な状況で走り回ったり高い所に登ったりすることがよくある
・静かに遊ぶことが困難である
・じっとしていることができず、エンジンで動かされているような行動を示すことが多い
・過度のおしゃべりが多い
・質問が終わる前に衝動的に答えを口走ることが多い
・順番を待てないことが多い
・他者の行為を遮ったり、邪魔をしたりすることが多い

引用:MSDマニュアル プロフェッショナル版『注意欠如・多動症(ADD、ADHD)』


■自閉症スペクトラム障がい(ASD)

「かつては広汎性発達障がいと呼ばれていましたが、主に対人関係における障がいです。診断の基準は、主に3つあります。1つ目は人との関わりや集団生活が苦手なこと。2つ目は言葉でのやりとりが難しい言語・コミュニケーションの問題。たとえば、言われたことをそのまま繰り返す『オウム返し』とも呼ばれる『エコラリア』なども特徴的です。

3つ目は興味や関心の対象が限定的という特性です。何かをはじめると途中でやめられず、強いこだわりを見せます。でも、この特性は視点を変えると、強みとも言えます。『このテーマなら誰にも負けない』『集中力高く取り組める』など、人より抜きんでた能力にもなり得るのです。

3つの特性とも、基本的には3歳くらいまでに診断がつけられる障がいで、1歳児健診で特性があるかどうか大枠をつかむことができます。ただし、ASDはかなり幅広くとらえられている概念で、約8割の人は知的障がいを伴うと言われたり、一方で、言葉の遅れなどはないものの、ほかの子に比べて少し異なる行動が認識される程度のアスペルガー(障害)症候群と呼ばれたりする人もいます。」



発達障がいの正しい対応とは


――それぞれ幅広く、さまざまな特性があるのですね。もし、そうした特性に気づいた場合、周囲はどのように対処したらよいでしょうか?

早期発見、早期療育とも言われ、早めに医師の診断を受けて対処すると予後がいいと言われます。というのも、ADHDは服薬などで症状が治まることもあるからです。なかには小学校高学年くらいで障がいがわかり、『もう少し早く気づいてあげられればよかった……』というケースもあります。

ただ、明らかな身体障がいなどとは異なり、保護者に病院の受診を勧めたとしても『自分の子には障がいなどない』とおっしゃる場合が多いです。確かに私の経験から言っても、子どもにはさまざまな個性や特性が見られることが普通ですから、医師の診断を急ぎすぎないほうがよい面もあるでしょう。」

――なるほど。一見わかりづらいからこそ、親御さんにとってはなかなか受け入れにくいのかもしれません。

「そこで私はまず、保護者に対して参考となる本やDVDなどを紹介します。最近は、当事者が自身の経験を綴った回顧録なども多数出版されています。また、相談に応じて指導や助言を提供する福祉サービスもさまざまあります。たとえば、発達障がいのある人の日常生活をサポートする『発達障害者支援センター』は全国に97カ所(2020年4月現在)ありますし、学齢期の子なら各自治体の教育センターなどに相談部門が、また保育園や幼稚園児なら保育所等訪問支援(※2)などの制度もあります。」

※2……保育所等に通う障がいのある児童について、通い先の施設等を訪問し、障がいのある児童及び保育所等のスタッフに対し、集団生活に適応するための専門的な支援や支援方法等の指導等を行う福祉サービス(改正児童福祉法/1992年 4 月 1 日施行)

――なるほど。情報を集めたり、サポート制度などを利用することはご本人にも周囲にもプラスになりそうですね。保護者や教師などの対応方法には、何かアドバイスはありますか?

身近な大人たちが特性を理解し、行動をただ叱るばかりでなく、よい面を見つけて褒めてあげるなどの対応をとることが大切です。配慮の仕方次第で、多動性や衝動性が目立たないようにしてあげることもできます。たとえば、あえて資料配布係を任せたり、クラスの中でできるだけ頑張りを認めてあげたりすることで、周りの子どもたちの認識にも変化が見られたりします。

また、本人の声を聞いてあげることも大事です。たとえば、目が届きやすいようにとADHD傾向の子を前方の席に座らせる先生も多いと思いますが、一例として、前方の席に座らせたことで授業中に何度も後ろを振り返るようになったため、本人と話して後方の端の席に移したら落ち着いたということもあります。

あるいは、衝動性のある子に対し、担任教師が『今学期はお休みせずにがんばっているね』など、短い手紙を書いた例がありました。1学期に3通くらい送ったところ、生徒は『先生が褒めてくれた』『認めてくれた』と担任に心を開くようになり、落ち着いた態度に変わっていったそうです。この手紙のように、本人が行動を変えるきっかけとなる働きかけも有効ですね。」

――身近な存在としては、お友だちなどクラスメイトの理解も大切だと思います。

「年齢によって、伝え方に工夫が必要でしょう。外からは見えにくい障がいなので、小学生低学年には理解が難しいかもしれません。まずは、イラストや紙芝居などを使って、よく見られる特性を伝えるとよいでしょう。高学年になれば、発達障がいの啓発ビデオなどを見せるのもよいですね。

周囲への理解を深めるという意味では、クラスの父兄に対する啓発も必要です。クラスに障がいのある生徒がいると、『その子のために、我が子の学習が進まない』と考えてしまう父兄も少なくないからです。そこで、学習の遅れはその子が要因ではないことはもちろん、発達障がいのある方は25人に1人はいるので、社会共通の課題としてとらえる必要があると知ってもらうことも大事です。このように、子どもたちと大人たち、両面へのアプローチが大切だと思います。」

――学齢期の子どもたちの例だけでなく、最近は大人になってから発達障がいだとわかるケースも少なくないと聞きます。大人の場合、どのような形で気づくことが多いのでしょうか。また、大人の発達障がいの特性などあれば教えてください。

「発達障がいは外から見えにくいので、長い間、本人も気づかず、周囲からも見過ごされているものも多いのが現状です。ある程度成長してから発達障がいに関する授業やセミナーなどを機に、『自分の特徴に似ている』と気づく人も多いようです。あるいは、職場で報告書作成に時間がかかったり、伝票への記載ミスが多かったりなど、仕事の効率が悪いと感じていたら実は学習障がいだったと判明するケースもあります。

しかし、このように長年発達障がいを見過ごされてきたとしても、さまざまな苦労した体験を積み、自身の特性を知ったうえで独自の『世渡り術』や『日常生活マニュアル』のようなものを身につけ、適応している人たちもいます。職場なら自身の特性を伝え理解してもらったうえで、配置場所や業務などに配慮してもらったり、音声で入力したデータを文字化できるソフトなど便利なツールを上手に使ったりすることもひとつの方法でしょう。

この場合は、身近に関わる社員すべてに理解してもらうことが大事です。周囲のサポートがうまく受けられないと、仕事でのトラブルが重なり退職に追い込まれ、それがトラウマとなって復職がなかなかできないケースも見られます。」

――大人にしても子どもにしても、それぞれの特性をしっかり見て周りが理解することが大切なのですね。

「そうですね。本人の努力も大切ですが、周囲が状況を理解して、認め、対応することで、うまく社会適合することができる障がいだと思います。たとえば、障がいのある人が職場に適応できるようサポートする“ジョブコーチ”のような専門職をうまく活用するのもよいと思います。その人の個性を尊重しながら、少しずつ丁寧に取り組むことで、いろいろな成功事例が見られます。あきらめずに積み上げることがなによりも大切でしょう。」



【プロフィール】

是枝 喜代治 (これえだ きよじ)
東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 生活支援学専攻 教授
博士(教育学)。専門分野は、障がい児者福祉、特別支援教育、学校ソーシャルワーク。神奈川県立藤沢養護学校、同横浜南養護学校などでの約17年の教諭生活、国立特殊教育総合研究所で情緒障がい教育や教育支援の研究職、東京福祉大学教授を経て、2012年から現職。著書に『特別支援教育に役立つ実践事例集』(学研教育出版)、『ムーブメント教育・療法による発達支援ステップガイド』(日本文化科学社)などがある。

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