INDEX

  1. 飲食業界にのめり込んだ大学時代。『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』誕生秘話
  2. 『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』、開店。
  3. チーズ喫茶店主が語る、チーズの『通な食べ方』。
  4. チーズ喫茶店主に聞いた、チーズの通な食べ方

INTERVIEWEE

松田 洋輔

MATSUDA Yosuke

2011年 東洋大学 社会学部 メディアコミュニケーション学科 卒業
1988年、千葉県生まれ。さまざまなジャンルの飲食店で経験を積み、チーズの楽しさを伝えるお店として2013年にチーズ料理専門店『チーズレストランDAIGOMI』、2015年に2号店となる国産チーズ料理専門店『チーズレストランDAIGOMI minamiaoyama』をプロデュース。2016年に独立。新しいチーズの可能性を探すため合同会社KARMANを立ち上げ活動する中、チーズと喫茶を融合させた『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』を2018年オープンさせる。

チーズ喫茶 吾輩は山羊である

飲食業界にのめり込んだ大学時代。『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』誕生秘話


画像:東洋大学社会学部出身、『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』の店主・松田洋輔さん

── 松田さんは、東洋大学でどのような学生生活を送っていたのでしょうか。
「1、2年生の頃はボランティアサークル、軽音楽サークルなどさまざまなサークルで活動をしていました。中でもメインで活動していたのがオールラウンドサークル。みんなで旅行したり、遊びに行ったり、自分たちで企画をして何かをすることが楽しくて当時は夢中になっていました。だけど授業にはしっかり出席していましたし、真面目に学生生活を送っていたほうだと思います。」

──その頃から、飲食店の経営には興味があったのですか?
「入学当初の目的は、メディアの勉強をしてラジオに携わる仕事に就くことだったんです。中学生の頃からラジオが好きで、社会学部のメディアコミュニケーション学科に入学して、効果音などの勉強をしていました。飲食に携わるようになったのは、大学2年生の途中からしたひとり暮らしをきっかけに、飲食店のアルバイトを始めてからです。多いときは7つほど掛け持ちしていたので、それからは大学の授業と飲食店でのアルバイトがメインの生活を過ごしていました。

両立は大変でしたが、それよりも飲食店で働いて、お客さんと話したりする時間がとても楽しくて、飲食業界に興味を持つようになったんです。そして就職活動を行う時期になって、進路についてメディア業界に進むのか、それとも飲食業界に進むのか悩みましたが、最終的に飲食業界に進もうと決めました。」

── 飲食業界に進んだ後、現在のお店を始められるまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか。
「大学卒業後にあらためて飲食関連の専門学校に通ったり、どこかのお店で修行したりすることは難しいと思ったので、居酒屋、カフェ、レストラン、ケータリング、バーなど、幅広くいろいろな店舗で働きました。その中で、パーティースペースを持つお店で社員として働くことになったのですが、そこで『今のお店をリニューアルして新しい飲食店を始めたいから、何か新しい店舗を考えてみて』と任され、プロデュースしたのが『チーズレストラン DAIGOMI』です。ちょうど私が24歳のときでしたね。」

──チーズ専門のお店にしようと思ったのはなぜですか?
「当時、飲食業では特定のメニューや食材を専門に取り扱うことがブームでした。その流行をもとにどんなお店にするかを考えているとき、偶然見ていたチーズのカタログで新たな発見がありました。私はブルーチーズは全部ゴルゴンゾーラだと思っていたのですが、カタログに掲載されていた3種類ほどのブルーチーズは、どれもゴルゴンゾーラではなかったんです。

『飲食で働いている自分でさえも知らなかったということは、一般の方も気づけていないかもしれない。これをやったらおもしろい』と思い、業者の方にチーズをいくつか納品してもらいました。そうしたら予想以上にさまざまな形や味、原産地の違うものが集まりました。その後も40種類ほど集めたのですが、集めたチーズはまだまだ一部に過ぎず、『種類も味も豊富に存在するチーズを、多くの人に伝えたい』と思うようになりました。」

──そうした経験から、2018年に『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』を立ち上げたのですね。自ら独立・起業したのには、何か想いがあったのでしょうか。
「会社にいた頃は、社員教育を任されていて、接客の現場に入ることが少なくなりました。『人と接する現場が好きだから飲食店の世界に入ったのに…』と、当時少し葛藤する部分もあって。だから今のお店をオープンさせたんです。」
    

『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』、開店。


画像:『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』外観

── 当時、チーズの専門店は珍しかったのでしょうか。
「種類に関わらず、チーズを使ったメニューを取り扱っている店舗は多くありましたが、専門店としては、都内にチーズとワインが好きな人たちが訪れるような、価格帯が少し高めの1店舗のみでした。24歳だった私にも敷居が高いように感じられたので、もっとカジュアルで、20代の人も気軽に行けるようなチーズ専門店を作りたいと思ったのが根本にありました。」

── 気軽にチーズを楽しめるお店を目指したのが、きっかけなのですね。『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』というユニークな店名は、どのように決められたのでしょうか。
「『今の時代、喫茶は何をできるか』を考えたとき、まずは新しい称号をつくろうということで『チーズ喫茶』が出てきました。そして喫茶のメインであるコーヒーとチーズは、それぞれ歴史上で誕生した際に山羊が関わっているんです。

コーヒーは、山羊が興奮して飛び跳ねている原因を調べたところ、山に実っていたコーヒーの実を食べていたことから広まったと言われています。チーズも、砂漠を旅する人が羊の胃袋を干してつくった水筒に山羊のミルクを入れて持ち歩いたとき、時間の経過とともに胃で作られる酵素(レンネット)と熱が加わり、できたものがチーズの発祥と言われているんです。 そんなときにたまたま目にした夏目漱石の『吾輩は猫である』のタイトルにあやかって、『これで良いのでは?』というノリで決まりました(笑)」

── 現在、『チーズ喫茶 吾輩は山羊である』の人気メニューはなんですか?
「『チーズ喫茶のカスタードプリン』が人気です。ちょうどプリンブームが到来していることも幸いして、雑誌などでプリンについて特集が組まれるときに取り上げていただいたりして、ビールやコーヒーよりも注文が多いですね。」
    

画像:チーズ喫茶のカスタードプリン 480円(税抜)

「ほかのお店でもクリームチーズを使ったプリンはよく提供されていますが、当店ではチェダーチーズの中でもコクが引き立ちやすいレッドチェダーを使っています。また、チーズ喫茶ということで、ブランデーに漬けこんだコーヒー豆をカラメルソースと一緒にして、ほろ苦い大人の味わいに仕上げました。加熱することでアルコールは飛ばしているので、幅広い世代に楽しんでもらえる一品になっていると思います。」

── チーズとプリン好きにはたまらない、とても魅力的なメニューですね。お店を運営するうえで、特に意識していることはありますか?
「当店では、来店された際にお客さまの好みや来店されるまでに食べたもの、何軒目のお店なのかをお聞きします。それは、その時のお腹の具合によって、提供の仕方や提案するチーズを変えているからです。たとえば、比較的、お腹がいっぱいぎみな人は、乳脂肪分の多いチーズではなく、固いタイプのチーズを薄くスライスし香りを引き立てて提供するなど、チーズの種類とカットの仕方を工夫して、量や味わい、香りなど、一番美味しく感じてもらえる状態で提供しています。」

──チーズコンシェルジュのようですね。
「そうですね。もともと私は料理人というより、厨房の外でずっと接客を中心にやってきたこともあって、お客さま一人ひとりに合った提供法を常に心がけているところです。」
     

チーズ喫茶店主が語る、チーズの『通な食べ方』。



── チーズ専門店の店主として、多くの人に伝えたいチーズの通な食べ方はありますか?
「チーズにはいろいろな楽しみ方があると思っていますが、私の中での一番は日本酒と合わせることです。とくに甘くて飲みやすいタイプの日本酒との相性がとても良いですよ。」

──チーズに合うお酒というとワインをイメージする方が多いように思いましたが、違うのですね。
「そうですね。ワインはチーズを食べた後に一度口の中をリセットする目的で飲むのが適していると思います。ワインは味や風味が強いものが多く、チーズが負けてしまうんです。ですが、日本酒であればチーズの味とのバランスが取れるため、口の中でチーズとのマリアージュが楽しめます。また、日本酒とチーズにはアミノ酸が豊富に含まれているので、味わいが近いという面もありますね。」

── なるほど。食材でいうと、どんなものがチーズに合うと思いますか?
「アミノ酸由来のものであるという理由から、チーズと発酵食品の相性は良いですよね。チーズはイタリアンやフレンチのイメージが強いので、塩コショウとオリーブオイルで味付けする方が多いのではないかなと思いますが、私の中では『酒・味噌・醤油』を使うことをお勧めします。最近では、居酒屋でも『クリームチーズの味噌漬け』というメニューを見かけることがありませんか?発酵食品というと幅が広いので、キムチとかを使ったチーズダッカルビなどもありますが、『酒・味噌・醤油』といった日本由来の発酵食品はとてもチーズとの相性が良いんです。」

──松田さんは、チーズを探しに海外に行くこともありますか?
「いいえ、行きません(笑)。海外では『チーズとワイン』の組み合わせで提供されていることが多いため、その考え方に染まってしまうと、新しい発想でのチーズの楽しみ方ができなくなってしまう気がするからです。だから、あえて行かないようにしようと思っています。 今は日本にいても海外から仕入れることができるので、取り寄せることはありますが、今は国産のチーズに注目しています。日本でもチーズの生産は増えていますが、まだそれを販売のほうにうまく乗せられていない現状があるんです。だからまずは、日本の良いチーズを知ってほしいという気持ちが大きいですね。」

── 松田さんがこれまで食べたなかで、もっともおいしかったチーズを教えてください。
「これまでだいたい3000種類くらいのチーズを食べてきていますが、ひと通り食べてきたなかで一番おいしいと思ったのは『さけるチーズ』なんです。」

── 外国に行かなければ手に入らないような貴重なものではなく、コンビニやスーパーでも購入できる『さけるチーズ』とは、意外です。
「もちろん、海外で手に入るおいしいチーズもあります。しかし、私の思う『おいしい』は、手に入るまでに多くの時間を費やしたり、高いお金を払って手に入れるものではないと思っているんです。むしろ、身近にあって、すぐに食べられるからこそ、『おいしい』という感情につながるのかなと。

それにさけるチーズは、価格も手頃なだけでなく、“さく”という楽しさもあります。海外で似た商品をつくろうとしても、あそこまで細かくさけるものが作れないということも聞きます。これは日本の技術があったからこそ。さらに味のレパートリーも豊富など、さけるチーズには魅力的なポイントがたくさんあるのです。」

── 最後に、松田さんが思う、チーズの最大の魅力とは何でしょうか?
「かれこれ6年ほどチーズに関する仕事をしていますが、それでもまだまだ知識が足りないことを実感しているところです。チーズは副食材をつけたり、お酒と合わせたり、なかにはコーラと相性の良いものまであったりと、まだまだ奥が深い。いろいろな組み合わせを試したり、アレンジをしたりしているなかでも、本当にさまざまなアイデアが浮かんでくるんです。その可能性は尽きることがなく、無限に広がっていくもので、終わりがないことがチーズの一番の魅力だと考えています。」
    

チーズ喫茶店主に聞いた、チーズの通な食べ方


  
インタビュー後、松田さんに家庭でも気軽にチーズを楽しめるレシピを紹介してもらいました。松田さんが「これまで食べたチーズのなかで、もっともおいしい」とお話しされていた“さけるチーズ”と、チーズとの相性がピッタリだという発酵食品の“味噌”を使った、家庭でも簡単につくれる一品です。
   

〜自宅で簡単、『アボカドとトマトの味噌焼きカプレーゼ』レシピ〜

     
    
【材料】

・アボカド……1/2個 ・トマト……1/2個 ・さけるチーズ……1本 ・味噌……大さじ1 ・みりん……小さじ2 ・酒……小さじ2 ・黒胡椒……少々 ・オリーブオイル……大さじ1


【作り方】

①.トマトはヘタを取った後、湯むきをして一口ほどの大きさにカットする。
②.アボカドの種を取り除き、中身を一口ほどの大きさにスプーンでくり抜く(アボカドの皮は取っておく)。
③.さけるチーズの半分は1センチ幅にカット。残り半分は適当な大きさに割いておく。
④.味噌、みりん、酒、オリーブオイル、黒胡椒をボールの中でよく混ぜる。
⑤.④のボールの中にアボカド、トマト、さけるチーズの1センチ幅にカットしたものを入れてよく混ぜる。
⑥.耐熱皿にアボカドの皮を置き、⑤を盛り付ける。
⑦.盛り付けた具材の上に残りのさけるチーズを乗せる。
⑧.⑦を230℃で余熱したオーブンで5分焼き上げ、完成。

    
【ポイント】

調理のポイントは、③の工程でさけるチーズを半分さいておくこと。ある程度細かくさいておくことで、焼いた後にチーズの香りがより引き立つようになるそうです。



画像:『アボカドとトマトの味噌焼きカプレーゼ』出来上がり写真 

このメニューは、味の相性だけではなく、味噌・アボカド・トマトと美肌効果のある食材をふんだんに使っているので、女性にも喜ばれるレシピなんだとか。加熱することでチーズがまろやかになり、野菜は甘く、身体も温まります。彩りも豊かなので、ホームパーティや、晩酌の肴としても活躍しそうですね。

『チーズとワイン』という確固たる組み合わせに限らず、チーズには実にさまざまな楽しみ方があります。固定概念にとらわれることなく、チーズをさまざまなスタイルで楽しむ、松田さんおすすめの『アボカドとトマトの味噌焼きカプレーゼ』。ぜひ、ご家庭でもお試しください。
    

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