『俳優インカレ2018』優勝者、佐藤弥央さんに聞く、学生演劇の魅力とは?

東洋大学の演劇サークル、劇団「曙」に所属する佐藤弥央さん。2018年9月に行われた学生俳優の日本一を決定する「全日本大学生俳優選手権 俳優インターカレッジ2018 」(以下:俳優インカレ)に出場し、見事、優勝を飾りました。

高校から演劇を始めた佐藤さんは、入学後も演劇に打ち込んだ学生生活を送り、「演劇のおかげで、今が楽しくて仕方がない」と言います。

佐藤さんは、なぜそれほどまでに演劇に惹かれるのでしょうか。彼女が所属する東洋大学で70年近く続く伝統ある劇団「曙」の活動について、そして演劇の魅力について、伺いました。

学生俳優日本一を決める「俳優インカレ」とは!?

――学生俳優日本一おめでとうございます。俳優インカレとはどんな大会なのでしょうか?

「インカレには『演劇インカレ』と『俳優インカレ』のふたつの大会があります。『演劇インカレ』には今回14団体が出場して、それぞれ15分の作品が発表されました。

私が今回優勝した『俳優インカレ』は、役者個人の技術や力量が試される個人戦になります。最初は出場することを考えていなくてエントリーしていなかったんですが、インカレ当日の盛り上がりと、その場の雰囲気に押されて出場することを決めたのですが、まさか優勝できるなんて……。自分でも驚いています。」

――「俳優インカレ」は個人戦とのことですが、どのように勝敗が決まるのですか?

「まず出場者40人で4人のグループをつくり、グループごとに台本を持ってその場で演じます。グループからひとりずつが選ばれ、選ばれた10人はふたりずつに分かれ、また演技を審査されます。シェイクスピア戯曲の暗いシーンを演じることになったのですが……。私が相手にひどく怒るというシーンで、個人的には苦手な役でした。ただ、相手役が偶然にも仲の良い後輩だったこともあり、彼がうまく演じてくれたおかげで、私も役に入り込めたんだと思います。

というのも、私はよく周りの人たちに“ミラー”と言われるんです。自覚はないんですが、どうやら私は、相手の演技によって自分の演技がすごく変わるらしいんです。相手がいて、それに自分が影響されて存在している。今回の結果は、これがうまく働いたのかなと思います。」

――初めて出場したインカレは、どんな大会でしたか?

「多くの学生俳優の演技を観賞したり、お話できたことが私にとっては嬉しかったですね。ふだんは会えない人たちばかりですし、みんなでワイワイと盛り上がるパーティみたいで。 “演劇”という共通言語で大学を越えて仲良くなれる。そんな大会でしたね。

東洋大学としては、演劇インカレのほうに演劇ユニット『はくぼの』として出演できたことがとても良い経験になりました。というのも『はくぼの』はインカレのためだけに結成した、東洋大学内の劇団『曙』と劇団『白芸』による混合ユニット。同じ大学なのですが、これまであまり交流がなかったふたつの団体がコラボした、とても貴重なユニットなんです。」

――なぜ『曙』と『白芸』はコラボすることになったんですか?

「私は『曙』に所属していますが、『曙』と『白芸』はふだん公演用のスタジオや倉庫を共同で使っている以外に、あまり交流がなかったんです。同じ場所をシェアしているということで、お互いになんとなく気を遣っているところもあって……。でもせっかくだから仲良くしたくて、前から『いつかコラボしたいね』と話していました。

そんなときに、タイミングよくインカレに出場することになって、有志を集めて『はくぼの』を結成したというわけです。残念ながら『はくぼの』はひとまず今回のインカレで解散ですが、機会があればまた集まるかもしれません。」

学生演劇サークルで活動するということ

――佐藤さんは、劇団『曙』でもふだんから俳優をされているんですか?

「はい。年3回公演があって、そのすべてに俳優として出演しています。俳優以外の照明や音響もやってみたいんですけれど、スタッフの担当を決めるより先に出演者オーディションがあって役が決まるので、配役されると他のスタッフワークはできないんです。幸いなことにずっとオーディションに受かっているので、結果的に役者ばかりやっています。

でも、年間の演劇公演とは別で活動する機会もあって、そこでは宣美(宣伝美術)を担当しています。中学のときに美術部だったこともあり、チラシをつくったりするのは得意なので。」

――劇団『曙』は、2020年には70周年を迎える歴史の長い大学生劇団ですね。佐藤さんはなぜ『曙』に入ったのでしょうか?

「高校の演劇部での活動がとにかく楽しかったので、大学でも演劇サークルに入ることを決めていました。でも、大学では最初、友だちもいなくて、サークルを選ぶにもどこに行けばいいのかわからず……。サークルのボックス(部室)に行ってみても誰もいなかったので、SNSで検索したら『東洋大学には演劇の公演をやる“黒部屋”という施設がある』ということがわかって、突撃しに行ったんです。そこにちょうどいたのが、劇団『曙』。どんな劇をする団体かも知らなかったけれど、雰囲気がすごく良かったので、すぐに入団することを決めていました。」

――「雰囲気が良い」とは?

「まず、楽しそうだったこと!私は楽しいことが大好きなので、みんなが笑顔で仲が良さそうなことに惹かれました。演劇も賑やかで派手なのが好き。とにかく明るく笑っていたいんです。

でも実際に『曙』の稽古に参加してみると、楽しいだけでなく真面目で、演劇に対する意識の高さがわかってきました。たとえば、稽古のウォーミングアップで、円になって隣の人に拍手を回す『拍手回し』というゲームがあります。一見遊んでいるように見えますが、回すスピードを上げるためには気を抜くことができず、拍手をもらう相手や回す相手、拍手がどこを回っているかなどを意識しなければなりません。これを行うと、感覚が研ぎすまされていくように感じます。高校演劇のときは難しいことを考えていなかったのですが、『曙』に入って『なぜそれをやるのか』『なにを意識してやるのか』ということを教えてもらうと、どんどん自分が成長していくのを実感し、『すべてのことには、ちゃんと意味があるんだな』と知りました。

そうした楽しさをベースにしつつも、ちゃんと深く、真面目に取り組む姿勢が『曙』の特長でもあります。」

――同じことをしていても、意識的に取り組むことでより自身の成長につながることを学んだんですね。ほかにも、高校の演劇部と大学の演劇サークルでの違いはありますか?

「一番は、集まるメンバーが違いますね。高校ではみんな授業が同じだし、登下校にかかる時間もそれほど変わりません。でも大学では、みんな違う。出身も年齢も違うし、専攻科目も違う。近所に住んでいる人もいれば、通学に片道2時間かかる人もいるので、23時ぐらいに部活が終わると家が遠い人は大変です。そんなふうに生活環境も背景もバラバラな人たちが集まっているので、何げない会話の中にもたくさん発見があるんです。私は社会福祉学を専攻していますが、同じ学科の人はひとりもいないんですよ。だから日々の会話からでも、たくさんのことを教わっています。

――いろいろな人が集まって、ひとつの演劇をつくる……大変だけれど、おもしろそうですね。しかし大学生といえば社会に出る前に、授業や課題などやらなければならないことも多いと思います。そのなかで演劇をやる魅力はどんなところにありますか?

「学生って、授業を受けて、バイトして、家に帰って、宿題して……と、やることはいっぱいあるので、自分から行動しない限りそんな毎日の積み重ねです。私は飽きっぽくてずっと同じことを繰り返す生活ができないので、生活に刺激が欲しいんです。演劇では、同じことをしていても毎回感じることが違います。もちろん舞台を観るだけでも楽しいのですが、自分たちでつくるとさらに刺激的です。目の前の人と向き合っていると、新しい発見があって、いろいろなことを考えなければいけない。それが楽しくて好き。これまでやめたいと思ったことは一度もないです。」

――活動は、具体的にどのようなことをしているんですか?

「サークル活動としては、毎週月・水・金の放課後に稽古をしています。まずウォーミングアップをして身体をほぐしたり、体幹を鍛えます。ストレッチ、ラジオ体操、先ほどお話しした『拍手回し』などをしてから台本を読むのですが、放課後は1時間くらいしか活動できないので、かなり慌ただしいですね。そのぶん、春休みや夏休みには集中して稽古をします。

とくに年3回の公演前はバタバタです。4月の新入生歓迎公演、10月の公演では、自分たちでステージと客席を組み立てるので、演劇の稽古以外にも時間がかかります。11月の大学祭は演劇だけに拘らなくてもいいので、昨年は役になりきって給仕するカフェをやりました。毎日演劇のことばかり考えて、忙しいけれど、それが楽しいです。

――演劇サークルに入ったことで、学生生活が充実しているようですね。

「そうですね。何より『曙』の仲間に出会えたことが一番良かったです。『曙』の先輩も同期も後輩も、演劇に限らず、今まで知らなかったことをどんどん教えてくれて、私にはなかった考え方や発見ができるので、人に恵まれているなと思います。

それに演劇って、みんなでひとつのものをつくる作業で、何かをつくるには話し合いが大事だから、そのためにもみんなが積極的に仲良くなろうとします。とくに俳優は、役によって物理的にも精神的にも距離が近づかなきゃいけないこともあるから、仲が良いほうがより良い作品ができるはずだと私は考えています。そのためにも、自分から相手に近づいていきたいんです。結果的に仲が深まって居心地の良い場所になっているので、『曙』に入ったおかげで大学生活はとても充実していますね。」

“楽しくない”こともある。けれどいつも最後には“楽しい”が勝つから演劇はやめられない

――そもそも演劇を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

「小さい頃から目立ちたがり屋だったんですけれど、子どものときはそれがうまく人前で出せなくて……。表現することは好きだったので、中学は美術部に入っていました。人前に立ちたい気持ちが一気に爆発したのが、高校に入ってから。演劇部に入りたいという友だちを誘って、一緒に入部してからずっと演劇漬けです。もちろん、楽しくないときもあるんですが、最後はかならず“楽しい”ほうが勝つので、やめられないですね。」

――演劇のどういうところが楽しくて、どういうところが楽しくないですか?

誰かと一緒に演技しているときが楽しいですね。演技は、セッションだと思うんです。事前に『どういう演技にしよう』とプランを考えてきても、相手の演技が変わったら、自分の演技も変わる。それが演劇は“生モノ”とか、“生きてる”と言われる理由だと思います。私が事前に考えてプランをつくることが苦手だというのもあるんですけれど(笑)。だから、ひとりで台本を読み込んで役のことを深く考えていると、よくわからなくなってしまうことがあります。そういうときは楽しくないですね……。

でも舞台に立つと、目の前には演技の相手がいる。そこにお客さんの反応が加わって、演劇ができあがっていきます。それがやっぱり楽しいので、台本を読んでいる時間が苦手でも、また舞台に立ちたくなるんです。」

――演劇は目の前で生身の人たちがつくるライブだからこそのおもしろさがあるんですね。

「そうした自然体が好きなんです。“演技しているぞ”というわざとらしさがなくて、そこで“生きている演技”がいいなと。

ライブだからこそ、もしかしたら大きな失敗もあるかもしれません。それでも緊張せずに安心して舞台に立てるのは、何かあっても仲間がカバーしてくれるという信頼が大きいです。お互いに高め合える関係だから、舞台上でも信頼して自分の演技ができる。それも、演劇の魅力のひとつなのかなと思います。」

――演劇の話をしているときの佐藤さん、本当に楽しそうですね。卒業してからも演劇を続けたいですか?

「続けたいですね。でも実際にはわからないです。仕事が忙しくて疲れたらできないかも……(笑)。でも、なんだかんだ離れられない気がしています。私は演劇が好きだから、楽しくないことがあっても、どんなに忙しくてもやっぱり演劇は続けているんじゃないかなと思っています。」

――大学での専攻は社会福祉ですね。将来はその道を?

「まだ、はっきりとは決まっていませんが……。実は、子どもに演劇を教えられたらいいなと思っています。子どもが好きで社会福祉を学んでいることと、演劇が好きでずっと舞台に立ち続けていること。いつかこのふたつを融合させられたら素敵だなと思っています。」

 

 
<プロフィール>

佐藤 弥央(さとう みお)
東洋大学 社会学部第2部社会福祉学科 3年

高校時代に演劇と出会い、大学では劇団『曙』に入団。2018年、2年生のときに出場した「全日本大学生俳優選手権 俳優インターカレッジ2018 」で見事、優勝を果たす。劇団『曙』は、東洋大学白山キャンパスを拠点に活動する演劇サークル。年3回の本公演を行う。今年、70年周年を迎える古い歴史を持つ。
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