アニメ演出家の仕事とは?『宇宙よりも遠い場所』など、数々の名作を手がけた澤井幸次さんに聞いてみた

子どもから大人まで、多くの人が慣れ親しんでいる“アニメ”。クールジャパンの代名詞でもあるアニメは、日本が誇るべき文化として海外からも高い評価を受けています。

今回、お話をお伺いしたのは、40年以上にもわたってアニメの演出をされている、東洋大学経済学部出身の澤井幸次さん。ニューヨーク・タイムズが発表した『ベストTV 2018 インターナショナル部門』(The Best International Shows)に選出された作品、『宇宙(そら)よりも遠い場所』の演出も手がけた澤井さんに、現場で感じる業界の変化や、アニメの仕事を志望している方へのメッセージをお聞きしました。

作品と現実の境目がなくなってきた現代アニメ事情

――澤井さんは東洋大学で、どのような大学生活を送っていましたか。

「4年間在籍した“TACC”(東洋大学米会話サークル)での活動、寿司店での配達のアルバイトなど、忙しくも充実した大学生活でした。2年生くらいまでは、その傍らで漫画を描き、何度か出版社に作品を持ち込んで見ていただいたこともありました。」

――漫画も描かれていたのですね。幼い頃から絵はお好きだったのでしょうか。

「そうですね。小学校のクラス文集などで表紙の絵を描いたこともありました。この頃から、絵が好きだという思いは持っていたのかもしれません。」

――絵や漫画が好きでアニメのお仕事に就いたのでしょうか。

「いえ、私はもともとアニメに携わる仕事を志していたわけではありません。大学4年生になってから就職活動をしましたが、面接に行ったのは2社。その一つに、漫画を描いていた延長線としてアニメ制作会社の竜の子プロダクション(現タツノコプロ)がありました。たしか面接日が卒業式当日で、会場だった日本武道館からスーツのまま面接に行った記憶があります。結果として竜の子プロダクションに入社することになりました。」

――そこでアニメに携わり、演出家の道へと進み、現在はフリーランスとして活動されていらっしゃいます。

「その会社は7年勤めて退社したのですが、いろいろな経験をさせてもらったので、本当に感謝しています。ただ、その一方で『もっと外の世界でも挑戦していきたい』という思いもあり、独立に至りました。大学を卒業して以来、約40年間にわたりアニメの仕事を続けています。」

――アニメに長く関わってきた澤井さんから見て、日本におけるアニメの社会的な位置づけは変わってきたと感じますか。

「私がこの業界に飛び込んだ当時、世間一般のイメージとして『アニメは子どもが観るもの』という空気が強くありました。しかし、近年は“クールジャパン”として海外からも高い評価を受けているように、『アニメも文化コンテンツの一つ』、『登場人物の年齢やテーマ性など奥が深い』という見方に変化しているように感じます。その背景には、アニメを取り巻く環境や観ている人たちの目線などが、当時とはずいぶん異なっていることもあるのでしょう。」

――社会的にもアニメが大きな産業として成長しているように思います。アニメ作品も、時代とともに変化が起きているのでしょうか。

「デジタル技術の進歩などによって、“表現力”が圧倒的に変わってきましたね。たとえばキャラクターはデザインや演じる声優さんの技術で、表現を膨らませることができました。一方で、風や水など、自然物の表現は難しいものとされてきましたが、近年はより現実に近い表現が可能になるなど、作品の表現力が豊かになり、幅も生まれました。特に1995年から2000年頃は優れたデジタル技術が飛躍的に普及し、以降、自然表現が作品の中でどんどん投入されるようになりました。」

――たしかに、実写と錯覚するほどに美しい映像表現もめずらしいものではなくなりつつありますね。新しい技術やシステムの登場によって、制作現場に変化はありましたか。

「デジタル技術は単に作業を効率化させるのではなく、時間や場所、空間における距離を大きく縮めたように感じます。作業という意味でいえば、キャラクターが描かれたセル画と背景画を1枚ずつフィルムで撮影し、現像所で試写を行ってチェックしていた頃と比べれば、時間や場所の移動が大きく削減できています。現在は撮影を行い、その場ですぐにコンピューターで確認するというプロセスになり、削減できた時間を活用してより高い表現を行うためにスキルを磨くことも可能になりました。

ただ、技術が進歩したとはいえ、私の持っている技術や知識は、たくさんの先輩たちがこれまで積み重ねてきた表現方法や作品に対する情熱が土台となっています。それをさらに試行錯誤、継続、発展させながら新しい作品を生み出していければと思います。」

――では、ヒットする作品にも変化はあるのでしょうか。

「今は、『けいおん!』や『ラブライブ!』、『バンドリ』など音楽をテーマにしたメディアミックス作品の人気が高いように思います。これまで、ファンの方がキャラクターと同じ衣装やヘアメイクをして、楽器を弾いたり歌って踊ったりするようなことはあまりありませんでした。作品と現実の垣根が無くなりつつあるのも、現代のアニメを取り巻く環境において大きな変化といえるでしょう。」

アニメ演出家のやりがいとは?


レイアウトチェック、作成実作業中の澤井さん

――澤井さんはアニメの演出をされていますが、具体的にはどのようなお仕事なのでしょうか。

「まず、アニメはたくさんのカットやシーンによって、物語が展開していきますよね。これは『絵コンテ』という『作品の設計図』に沿って制作されています。どのような構図やカット割りにするのか。また、どのようなカットを積み重ねれば、作品やキャラクターの魅力を最も引き出せるのかといった、作品の演出面を担当することです。

演出は絵コンテをもとに芝居についてアニメーターに細かい指示を行い、限られた時間の中で絵の動きを決めていく。そして出来上がったレイアウトや線画が、背景と色をつけたセルデータとなり、撮影段階で光処理等を加えて一つの映像を作り上げていきます。」

――なるほど、演出は作品をより魅力的なものにするための役割を担っているんですね。作品によってバトルシーンやダンスなど、キャラクターの動きが複雑になる演出はやはり難しいのでしょうか。

「演出は『このシーンはこんなカットにしよう』、『この構図は、キャラクターのこんな思いが込められている』といった細かい打ち合わせをもとに行っていますので、アニメーターの方が実際に描いたレイアウトやキャラクターの芝居が絵コンテの方向性から離れていないか確認することの繰り返しです。

アニメーターの方の中にも、バトルシーンが得意な方やダンスシーンが得意な方など、得意分野を持つ方が多くいらっしゃいます。すると、演出家が想像していた以上の作品が完成し、『絵コンテで考えていたよりも、素晴らしいものになった』と思うこともたくさんあるのです。」

――お仕事の中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのようなときでしょうか。

「やはり一つの作品が完成したときは、解放感もありますし、やりがいを感じますね。製作方法や作品への関わり方が時代とともに大きく変化しても、最終的に目指しているのは作品を多くの人に届けること。だから作品ができあがったときには、喜びなどのすべての感情をひっくるめて、達成感があります。」

――お仕事をするうえで大事にしていることについてお聞かせください。

「絵コンテは、基本の積み重ねだと思っています。『何か違う表現をしよう』、『今までにないようなカットを作ろう』と考えれば考えるほど、堂々巡りに陥ることも度々ありますが、そんなときこそ、自分のしたいことがわからないまま突き進むのではなく、基本に戻ることを意識するようにしています。」

『宇宙よりも遠い場所』での演出のこだわりとは

――2018年に澤井さんが演出として携わった『宇宙よりも遠い場所』や『若おかみは小学生!』は、どのようなところにこだわりを持たれましたか。

「それぞれの作品は『小学生の女の子が、突然老舗旅館の若女将として修行する』、『高校生の女の子たちが南極に行く』という、ある種突拍子もないようなシチュエーションの作品です。しかし、いずれも共通して小学生や高校生の女の子が目標に向かって一生懸命に突き進む姿が描かれています。私自身は彼女たちと年齢や生きてきた経験が大きく異なりますが、何かに向かって精一杯生きているキャラクター像や意志の強さがおろそかにならないよう、気をつけていました。」

――『宇宙よりも遠い場所』では、主要キャラクターの友人関係について、クローズアップされているエピソードが印象的でした。これは演出でも意識された点でしょうか。

「人は、自分が話している言葉や気持ちを含め、本当の自分をさらけ出しているかというと、必ずしもそうだとは言い切れないように思います。

『宇宙よりも遠い場所』の主人公・マリには、幼い頃からずっと一緒にいた幼馴染みの友人・めぐみがいます。彼女は何でも相談できる、マリにとってお姉さんのような存在でしたが、ある日を境に、めぐみは自分がお姉さんのような目線でいたはずなのに、『知らず知らずのうちに、マリが本気で夢中になれるものを見つけていた』、『自分の知らないところで、妹のようだったマリが一歩踏み出そうとしていた』という“羨望”や“葛藤”を感じてしまいます。そうした感情の表現を、南極に向かう旅立ちの朝、向かい合ってお互いの思いを告白するシーンにおいて、自分が抱いていた本心をどこまでさらけ出して相手に語れるのか、演出として意識しました。」

――そのようなこだわりがあったのですね。澤井さんがこれまで携わった作品の中で、特に印象的だったものを教えてください。

「どの作品も印象的ですし、それぞれ思い入れもありますが、挙げるのならば劇場アニメの『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)の演出と、テレビシリーズの『らんま1/2 熱闘編』(1989年)の監督でしょうか。劇場作品に携わることや、監督としてテレビシリーズに携わることが初めてだったこともあり、今でも特に印象に残っています。」

――今後、アニメの業界はどのように変化していくと思いますか。

「技術面でいえば、今まで以上にデジタルやネットワークの技術が進むことによってさらなる製作環境の変化が起こりうると考えられます。たとえば、YouTubeでの作品配信など、新たな発表の場やプラットフォームが登場したことも大きく影響するのではないでしょうか。

アニメは制作、演出、アニメーター、美術、デジタル、撮影、編集など、それぞれのスキルを持ったスタッフが集まり、一つの作品を作り上げるのが従来の形ではありますが、ソフトウエアの進歩により、少人数や個人によって制作された作品も続々と登場しています。そして、そこから新しい作品や可能性が生まれることも大いに考えられます。」

まずは、現場に飛び込んでみる

――将来的にアニメに関わる仕事に就きたい人にとって気になる質問ですが、演出家やアニメーターなどになるために必要な素質はありますか。

「この業界には最初からアニメの仕事に就くことを目標に専門学校などで勉強されている方も、私のようにアニメとは無縁のようなところから飛び込んでいる人もいます。

ただ、どんな仕事にも言えることですが、動かないと物事は先に進みません。まずは、現場に飛びこんでみるというのも一つの方法です。『ひとまずやってみよう』という気持ちが大事です。」

――「まずはやってみよう」という思いから、一つのお仕事を40年にわたって続けられているのは素晴らしいと思います。

「大学のときもそうでしたが、私は周囲の人や、業界の先輩たちにとても恵まれています。この業界に入ったときも、漫画がきっかけではありましたが、技術に関してはまったくの素人でした。カットを動かすことはわかっていても、実際にこれはどう描くのか、キャラクターの動きはどのようにつけるのかまではわからない。右も左もわからない状態から先輩たちに指導いただいたことが、自分が今ここにいられる大きな力になっています。

また、昔、仕事をしているときに『悩むなよ、考えろよ』と言われたことがあります。たしかに、“悩む”と“考える”って、同じようでいて実際はまったく違いますよね。“考える”は「こうしたほうがいいのかもしれない」、「この方法を試してみたい」という自分の気持ちがあると私は捉えています。その言葉が自分にとって非常に的を得たアドバイスでした。」

――最後にアニメに関わる仕事を志している方にメッセージをいただけますか。

「少しでもアニメの仕事に興味があるのなら、一歩踏み出してみてください。悩んでいたときと比べて、意外と現場に足を踏み入れることによって、良い方向に動き始めることもあります。アニメの現場は、手取り足取りで教えてもらえるような機会も少ないため、大変に感じる瞬間も多いですが、“やってみよう!”という強い思いは、大事にしてほしいですね。」

――本日は数多くの貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

「やってみよう」というシンプルな想いが未来を切り拓く原動力になる

技術の進歩とともに、表現や発表の場も広がる日本のアニメ業界は世界中から注目され、これからますます発展することが期待されています。そのようなアニメに関わる仕事に就くには、「まずは現場に飛び込んでみる」「一歩踏み出す」ことが大切だと澤井さんは教えてくれました。アニメ業界に限らず、「やってみたい・やってみよう」という気持ちがあれば、アクションを起こしてみてはいかがでしょうか。

 
<プロフィール>

澤井 幸次(さわい こうじ)
1979年 東洋大学経済学部経済学科卒業
アニメ演出家

東洋大学を卒業後、アニメのスタジオに7年間勤務し、独立。現在はフリーランスの演出家として活動。『めぞん一刻』(1986年)、『らんま1/2 熱闘編』(1989年)、『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)、『.hack//黄昏の腕輪伝説』(2003年)、『宇宙よりも遠い場所』(2018年)、『若おかみは小学生!』(2018年)など、多くの作品の演出・監督を手がけている。『宇宙よりも遠い場所』は2018年、ニューヨーク・タイムズ紙において「ベストTV 2018 インターナショナル部門」に選出。

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