友人関係に悩むすべての人へ。心理学から考える“友だちとの関係づくり”

楽しい時間を共有したり、悩み事を相談したり、時にはケンカをしたり……。家族とも恋人とも違う“友人”というかけがえのない存在によって、人生が豊かになったと感じることは少なくありません。しかしながら、その友人関係に悩む若者がいま、増えています。

2018年10月の文部科学省の発表によると、小・中・高校生のいじめの認知件数は過去最多を更新(※1)。また、「成功や独立」を求める海外の若者に比べ、日本は「より良い友人関係」を求める傾向にあると言われ、現状の友人関係に満足できていない、または、友人づくりが苦手だと感じている若者が多いようです。

そこで今回は、発達心理学・臨床心理学が専門で、青年期の友人関係について研究している東洋大学文学部教育学科の榎本淳子教授に、より良い友人関係とは何かについて伺いました。

※1:「平成29年度(2017年度)児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」より

相手の気持ちを考えられるのは小学生から。中学生は“同質性”が友人関係構築のきっかけに

――榎本教授が専門としている心理学は、友人関係を築くうえでどう関係してくるのでしょうか?

「心理学とは、人の心や行動をターゲットにした学問ですが、その中でも発達心理学は、人がどのように成長していくか、胎児期から大人になって亡くなるまでの老年期を含めたプロセスをさまざまな側面から見ていくものです。対人関係はその側面のひとつで、発達心理学において非常に重要な項目です。対人関係は、周囲をどのようにとらえるかという“認知の発達”とつながっています。そして、認知の発達は心理学のさまざまな分野の土台となっています。

たとえば教育心理学は、教育において効率的な学習や人格形成についてを研究していくもので、発達心理学とつながる部分が多いです。具体的に示さなければわからない年齢の子に抽象的な教え方をしても通じませんよね。このように年齢に合った教え方を考えていくのも教育心理学のひとつです。」

――周囲(他者)をどうとらえるかという認知能力は、年齢によって変わってくるということでしょうか?

「はい。そのことをわかりやすく示したスイスの心理学者・ピアジェによる、同じコップに入った同じ量の水を細長いコップに移し替えるという有名な実験があります。水の量自体に変化はありませんが見た目のかさが増して見えるので、小学校に入る前の幼稚園・保育園児に聞くと、多くの子どもたちは『細長いコップのほうが水の量が多い』と答えます。この時期を“前操作期”といいます。この頃の子どもたちは、物事を論理的に考えるのが難しいので、見た目やイメージで判断したりします。また、自分の視点でしか物事をとらえられないので、相手の立場になって考えたり、行動したりすることは苦手です。つまり、“前操作期”の子どもに『友だちの気持ちを考えて行動しなさい』と言ってもなかなか難しく、具体的に『友だちには〜してあげましょう』と伝えたほうが、どうすればいいのかがわかります。

それがもう少し成長して7〜12歳くらいになると“具体的操作期”といって、少しずつ相手の立場に立って物事がとらえられるようになり、具体的に示せば論理的な思考も身についてきます。先ほどの実験も、『細長いコップに入っていても水の量は同じ』と答えられるようになります。

そして、12歳からの“形式的操作期”という時期になると論理的な思考だけでなく、抽象的に物事がとらえられるようになります。同時に、それまでは自分のやりたいようにやって他者から嫌がられたとしてもなぜ嫌がられているのか漠然としかとらえられなかったのに、他者から自分が嫌われたということが明確にわかるようになり、『どうしてなのだろう』と考えるようになります。認知能力的には、“他者の目を通して、自分を映し出すことができるようになる”と言えます。

私の研究では、ちょうど中学生くらいのこの時期は、女の子の場合は同じ物を持ったり、同じテレビの話題で盛り上がったりという“共通のモノ”で、男の子の場合は一緒に遊んだり、一緒に登下校したりという“行動を共にすること”で、絆が強くなる傾向が見られました。“同質性”を中心に、同じものでまとまっていくという関係性が築かれていきます。同じもので支えられている関係性と言うこともできます。」

良い友人関係は、互いに理解しようとすることが大切

――ということは、中学校時代は友人と同じでなければ仲間外れにされる、ということでしょうか?

「同質的な友人関係から考えると、その可能性、確率が高いということになります。実際に中学時代が一番いじめの件数が多いんですよね。この時期は他者を通して自分というものに気づくことができるようになるのですが、まだ自分を知って自分を表現する力がないので、“他者と同じ”ということを基盤に人間関係が築かれています。すると、他者に同じではない箇所を見つけて、簡単に排除することができてしまうのです。誰かひとりが排除されると、自分が排除されるのは怖くて、それ以外の人たちは凝集性が強くなるので、より一層、同質性が高まっていくことになります。

高校生くらいでいじめの件数が落ち着いてくるのは、みんなと同じということに息苦しさを感じるようになり、他者を排除したところで何のメリットもないということを認知していくからではないでしょうか。進学するのか社会にでるのか、将来について考える時期なので、必然的に自分に目を向け、自己を確立していかなくてはなりません。

そして大学生くらいになるといじめがほとんどなくなるのは、他者と自分は違うということをお互いに理解し、それで良いと思うからで、その違いをぶつけていくことで自らを成長させていく時期に入るからです。いろいろな考え方があることを認知し、広がった世界の中に自分を置くことができるようになってきます。」

――なるほど。成長の過程によって認知能力が異なるため、それが対人関係にも影響してくるということですね。そうなると、より良い友人関係とは、一体どういう存在を指すのでしょうか?

「高校から大学にかけての青年期であれば、真の友人というのは、自分の意見をきちんと伝えること、そして伝えられた意見に対して相手に思いやりを持った返答ができるということではないでしょうか。そのためには、お互いを理解しようとする土壌、すなわち相手を尊重する姿勢があることが重要です。異なる意見を交換し合っても、互いを理解しようとすることができるのが友人であることの良さと言えるかもしれません。」

無理に友だちをつくる必要はない。友人関係で悩む子どもたちに大人ができることとは?

――でも、大学生になるまでには長い過程があります。もしその前に、人と同じということに違和感を覚えて、友人から仲間外れにされてしまったらどうすればいいのでしょうか?

「大人であれば『友人がいなくても何とかなるよ』と言えてしまうのですが、この時期の子どもにとっては、友人がいないことが自己評価を下げることや自尊心を傷つけることにつながってしまいます。だからこそ、一概には回答できない難しい問題ですね。

うまく友人がつくれない状況に陥ってしまったときは、たとえば学校以外のことで経験を深めていくのもいいのではないでしょうか。地域のボランティアやスポーツ活動に参加してみたり、そのほか、好きな本を読んだり、映画を観たりするなどして、学校以外の環境でも何か自分がとどまるところを見つけることで、先々の希望につながっていくきっかけになることがあります。」

――それでも友人をつくるのは苦手だと感じる場合、悩んでまで友人関係の構築に努力する必要はあるのでしょうか?

「そういった相談を受けたときに私がアドバイスするのは、重要なのは“社会に出る道を的確に選べること”だということです。つまりは、友人関係で悩むことの多い学生時代を社会に巣立っていく準備をする場であると考えると、社会に出たときに自分に合った社会生活を選択できればよいわけです。たとえば、対人関係が苦手で友人との関係がうまく構築できなかったとしても、コミュニケーション力に関係なく活躍できる職業はいろいろとあります。ただ、そのように『自分はこれに向いていない』と理解するには、学生時代に少しでも他者と接している必要があります。小・中・高校生時代に友人関係を体験することで、自分は何が苦手か、他者と接して初めて自分の向き・不向きに気づくことも多いのです。」

――それでは、友人関係で悩んでいる子を見たときに周囲の大人ができることはありますか?

「発達心理学は、成長の過程で起こることが理解しやすくなる“物差し”のようなものです。もちろんすべてが当てはまるわけではありませんが、この時期はこんな感じの発達段階だという物差しがあれば、うまく適応できていない子を見たときに、役立つことがあるかもしれません。

たとえば、同質性が高まる中学校時代に周囲とは異なる趣味や考え方を持っている子が仲間外れにされていたとしたら、“あなたは周りより少し大人だね、高校生になったら周りが追いついてくるかもしれないね”と声をかけてあげれば、少し気持ちがラクになるかもしれません。また、そうやって将来へのビジョンに視点を移してあげることで先々が見えるようになり、いまの苦しい時期を乗り越えることができようになります。」

――周囲の大人が無理に友だちをつくらせようとする必要はないと。

「私はそう思います。子どもに友人がいないと大人は無理やり友だちをつくらせようとすることがありますが、大事なのは見守ること。そして、友だちがいなくても何とかなるという楽観的な道を提示すると、視野が広がることがあります。もちろんその子の性格や状況を見て声をかける必要はありますが、親や周囲がどうあって欲しいかではなく、子ども自身がどうありたいかという視点で見ることが大切なのではないでしょうか。」

<プロフィール>
榎本 淳子(えのもと じゅんこ)
東洋大学 文学部 教育学科 教授

博士(教育学)。発達心理学、臨床心理学を専門とし、青年期の友人関係などについて研究。最近は、慢性疾患を持った人の社会的適応についての研究も行っている。主な著書・編著(共著)に『青年期の友人関係の発達的変化』(風間書房)、『幼児・児童の発達心理学』(ナカニシヤ出版)、『必携:生徒指導と教育相談』(北樹出版)などがある。

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