毎日の習慣でセルフコントロールを簡単に身につける方法を専門家に聞いた

「取りたい資格があるのに、コツコツ勉強をすることができない。」

「ダイエットをはじめても、いつも3日坊主。」

やらなければいけないことがあるのに、それを行動に移したり、継続することが苦手で悩んでいる人はきっと少なくないでしょう。

今回は、東洋大学社会学部社会心理学科の准教授で、「セルフコントロール」に関する研究をされている尾崎由佳先生に、目標を達成するためのセルフコントロール術をうかがいました。みなさんの生活にも役に立つこと間違いなしです!ぜひご覧ください。

セルフコントロールとは無理なく行動に移すための“しくみ”を作ること


画像:社会学部社会心理学科・尾崎由佳准教授

―「セルフコントロール」とは、どういったものなのでしょうか?

「私たちの日常には、誘惑が溢れています。誘惑に晒されて、望ましくない衝動、抑えなくてはいけない感情・思考や行動が起こってしまいそうになる場面で、自分自身の反応をより良い方向に変えていくことを『セルフコントロール』と呼んでいます。

目標達成のためにコツコツと行動を継続するための(目標と逆行した行動をとらないための)心のはたらきと言うと分かりやすいでしょうか。」

―目標に向けて、やる気を出すためのしくみがセルフコントロールということですか?

「そういう側面もあります。しかし、誤解を招きたくないのは、『やる気がある=頑張れる=目標が達成できる』というわけではないということ。むしろ、多くの人は『やる気があり、やりたいと思っているのに実際の行動に移せない』ということに悩んでいるのです。

―目標を達成するには、やる気を起こすだけでは足りないのですね。

「そうですね。自分自身に負担をかけ過ぎることなく、目標に向けた行動を自然に行えるような状況や環境を作り出すことが、セルフコントロールを成功させるための重要なポイントです。『やる気さえあれば何でもできる』だとか、『歯を食いしばって頑張れ』という考え方とは異なった方法と言えますね。」

セルフコントロールを生活に生かす方法とは?

―では、実際の生活の中でセルフコントロールを取り入れていくにはどうすればよいのでしょう。

「それでは、物事を始めたいとき、そしてそれを継続していきたいときに有効な具体的手段をいくつかお話しますね。」
 

■目標をステップごとにブレイクダウンする

「目標というのは大概大きなものを設定していますが、その目標をステップごとにブレイクダウンしてみることで、今日やらなくてはいけないことが見えてきます。

たとえば、『何月までに○○の資格をとりたい』と考えている場合。今月は『何章までやる』から『今週は何ページまで』、さらには『今日は何ページから何ページまで』というように、なるべく小さな目標を設けます。

こうすることで着実にステップアップしていく感覚がモチベーションとなり、次の行動にも移りやすくなるのです。ブレイクダウンした目標は、To-Doリスト(やるべきことを列挙したリスト)としてカレンダーに記入したり、目につくところに貼りだしておいたりすると、さらに効果的ですよ。これによって、目標達成に向けてやるべき行動のひとつひとつが明確化されます。」

<ポイント>
大きな目標を小さなステップにブレイクダウンし、ひとつずつステップアップしている感覚をつくりだそう

 

■「If then」で自らの行動をプログラミング(自動化)する

やるべきことが明確になったら、あとは行動するだけですが、これが一番難しいですよね。なるべく意志の強さに関係なく、行動に移すための方法としては『If―then~(もし―したら、~する)』で自らの行動をプログラミングするという考え方があります。

これは、『If(もし夕食を食べ終わったら) then(30分だけ勉強する)』、『If(もし電車で座れたら) then(参考書を開く)』のように、動き出しのスイッチとそのあとに続く行動をあらかじめ決めておくというものです。こうすることで、自動的に自分の行動が導かれるような状況を作り出しやすくなり、『やらなければいけない』と悩む時間自体が減っていきます。

『If then』を設定するときのポイントは、無理のない範囲にするということと、否定形を使わないことです。

例えば、ダイエット中なら『If(もしお腹がすいても) then(冷蔵庫を開けない)』とは設定せずに、『If(もしお腹がすいたら) then(冷蔵庫を開けて、低脂肪ヨーグルトを食べる)』と設定した方が効果的です。
人間は、欲望について考えないようにすればするほど考えてしまう…そんな生き物ですので、代替となる具体的な行動を示してあげることで上手くいくことが多いんですよ。

<ポイント>
『If then(もし―したら、~する)』で、確実に行動に移すためのスイッチを作る
『If then』は無理のない範囲で設定し、否定形を使わない

 

■達成状況を「見える化」する

「さらに、自らの行動を目に見える形で記録することも目標の達成状況の理解につながり、効果的です。

ダイエットをしている方であれば、毎日体重を測って体重の変化を記録し、思い切ってリビングなど自分以外の人が見ることのできる場所にその記録を貼り出してみましょう。

こうすることで、今の自分が目標に近づいているのか遠ざかっているのかが一目で分かり、自然とモチベーションが高まります。また、他者からの社会的関心や応援が得られることで、より達成意識を高めることができます。

<ポイント>
目標に向けた行動を目に見える形で記録しよう
行動の記録は、他の人に見られる場所に貼り出して、応援してもらえる状況を作り出そう

 

■「誘惑」をそばに置かない

「そして、セルフコントロールが上手な人が徹底しているのが、あらかじめ生活の中に『誘惑』となるものを置かないことです。

欲望というのは、一度湧いてしまうと抑えるのが大変です。そこに生まれる葛藤によって疲れ、挫折してしまうこともよくあります。

試験勉強中であればTVやゲーム、ネット、ダイエット中であればお菓子など、目標達成の妨げとなる『誘惑』は、家の中に一切置かない、買わない、捨てる、鍵をかけるなどの対処で、欲望が生まれる原因をとことん減らしましょう。

<ポイント>
誘惑の原因となるものは、徹底的に生活から排除、回避する

―自らの意思を変えようとするのではなく、自然と行動できるような環境を整えることが、セルフコントロールにつながるのですね。とても参考になります。

自分の能力を自分で決めないことが大切

―ここまでは、目標が明確な場合のお話でしたが、目標自体が曖昧で、途中からモチベーションが下がってしまうこともよく起こります。目標を立てるときのコツはあるのですか?

「目標を持つことが苦手な方は、今の自分の行動が、その先の自分にどう繋がっていくのかをボトムアップして考えてみることをおすすめします。

例えば、『○○の資格が欲しい』『運動習慣をつけたい』と思い行動することは、『将来○○になって活躍したい』『生涯健康でいたい』などのより大きな目的や価値観につながっているはずですよね。

より大きな目標までを見通して、『なぜ今これをやる必要があるのか?』という目的意識を持つことで、なりたい自分の姿や目標が見えてくるかもしれません。」

―何のために取り組んでいるのか、長期的な視野に基づいた目的意識を持つことが大切なのですね。

「あとは、自分の気持ちを言語化してみるというのも良い方法です。言語には文法があり、構造を作らないと他の人に伝えられないので、とりあえずでも言語化してみると曖昧だったものが徐々に整理されたものに変わっていくのです。

言語化の手段としては、紙やパソコンに向かって書くのもいいですし、友達に相談して客観的な言葉にしてもらうのも良いと思います。」

―目標への自信が持てない場合はどうすればいいのでしょう?

マインドセットを意識してみるというのが一つの方法です。マインドセットとは、これまでの経験などから形成された物事に対する見方や思考の枠組みのことです。

例えば、困難にぶつかったとき、あなたはどのように考えがちですか?

A:『自分には素質がない』
B:『今はまだできないだけだ』

Aは『固定的知能感』と言われ、才能や能力が生まれつき決まっているという考え方からくるマインドセットです。一方で、Bは『増大的知能感』と言われ、人間の能力は努力した分だけ伸びるし、生まれつき決まったものではない。失敗をしてもそれは自分が伸びるチャンスと捉えるマインドセットです。

物事が続かない、一つの失敗で大きな挫折を感じる方は、『固定的知能感』のマインドセットに陥っている可能性があります。自分はそう考えることが多いなと感じる方は、ぜひ『失敗は成功への過程の一つである』と捉え直してみてください。目標達成においては、自分の能力や限界を自分で決めないということがとても大切なのです。

―最後に、目標を達成したいと思っている方に向けたメッセージをお願いします。

今日お話ししたように、自然に行動が導かれるような環境を整えるだけで、やる気をうまく行動に移すきっかけになることがあります。人間誰しも完璧ではありません。みなさんも、試行錯誤しながらよりよい自分と出会えることを願っています。

まとめ

今回は、セルフコントロール術について教えていただきました。目標達成のために必要なのは「やる気」だけではなく、「やる気をうまく行動に移せるような環境の整理」だったのですね。人間は誰しも、いつかやろうと思いながらできずにいることや、継続ができなかったことに対して、大小さまざまな後悔を抱えながら生きているものです。これからこのような場面に出会うことがあったら、今回ご紹介したセルフコントロール術を思い出し、少しだけ行動や意識を変えてみてはいかがでしょうか。

<プロフィール>

尾崎 由佳(おざき ゆか)
東洋大学社会学部社会心理学科 准教授
セルフコントロール、自己制御、意識と無意識の心理学を専門に研究。博士(社会心理学)。主な著書に『社会心理学―社会で生きる人のいとなみを探る―』(ミネルヴァ書房)、『社会と感情』(北大路書房)など。