ビジネススキルを高める!プレゼンテーション・スピーチを上達させる3つのポイント

資料は完璧だったけれど要点がうまく伝えられずにコンペで敗北……。緊張のあまり受け答えがしどろもどろになってしまって、お客様の反応がイマイチ……。そんな経験からプレゼンテーションに対して苦手意識を持つ人は少なくありません。

自分の考えや思いを伝え、聞く人の心をつかむプレゼンテーションやスピーチは、ビジネスマンにとって大切なスキルのひとつです。そこで今回は、企業コンサルティングの専門家として、東洋大学大学院経営学研究科ビジネス・会計ファイナンス専攻で中小企業診断士登録養成コースの教鞭を執る木下潔教授に、プレゼンテーションスキルとスピーチ力を高めるポイントをお伺いしました。

プレゼンテーションの上手い・下手の違いは「基礎」の差にある


画像:経営学研究科 木下潔教授

――プレゼンテーションやスピーチが上手になる方法はあるのでしょうか?

「一般的にプレゼンテーションスキルやスピーチ力は、『慣れ』や『場数』で決まるとよく言われます。『センス』が必要と言う人もいますね。しかし、私は一概にそうとは思いません。プレゼンテーションやスピーチは、技術でカバーできるからです。たとえ口下手だとしても、きちんと伝えるプレゼンテーションの基礎が身についていれば、一目置かれるようなプレゼンを行うこともできるようになります。」

――「プレゼンテーションの基礎」とは、具体的にどんなことなのでしょうか?

「ひとつは構成力です。プレゼンテーションをする際に、内容を大きく以下の3つのパートに分けて展開します。

①Overview(概要、導入→結論)
②Body(本論、問題定義・分析・解決→結論)
③Summary(要約、まとめ→結論)

『Overview』とは、概要のこと。全体像を手短に伝えることで、どういう内容のプレゼンテーションをするのかを相手に理解させます。このとき重要なのが、相手がもっとも知りたい結論を最初に伝えることです。『御社の問題点は○○だと考えますので、●●を提案します』と、結論を先に伝えるのと伝えないのとでは、相手の耳の傾け方が大きく変わります。」

――なぜ先に結論を伝えたほうがいいのでしょうか?基本的な作文の構成に、起承転結という流れがあるように、結論は最後に伝えるものと考えている人も多いと思います。

「そうですね。小学生や中学生の頃、作文など国語の授業で『起承転結』を学びます。この教えから、大人になってもプレゼンテーションの場でこの手法を使う人は多いです。

しかし、ビジネスシーンにおけるプレゼンテーションや営業の現場では、結論を最後まで言わないのは効果的ではありません。なぜならば聞き手は基本的に時間がなく、役職が上になればなるほど、長いプレゼンテーションよりも要点を整理した内容を聞いてなるべく早く決断したいと考えるからです。」

――結論を先に伝えることで相手の関心を引く、ツカミのような位置づけということですね。

「そうです。先に結論を伝えることで、まずは前のめりに話を聞いてもらう状況をつくることが最初のポイントです。

次に『Body』を展開します。Bodyとは本論のこと。問題提起や分析結果をただ説明するのではなく、写真や数字、グラフなどを取り入れながら説得力を持たせた説明を順序立てて話していきます。そして、『Overview』で触れた結論までたどり着いたら、最後は『Summary』で締めます。『Summary』は要約という意味で、『Overview』と『Body』で話したことをもう一度、まとめとして結論を伝えます。」

――1回のプレゼンテーションの中で、3回も結論を言及するのですね。

「はい。これくらい繰り返して伝えないと、相手の記憶には残りません。この『Overview』『Body』『Summary』の3つの基礎をきちんと身につけるだけで、プレゼンテーションやスピーチは格段に上達します。プレゼンテーションに苦手意識を持っている方はもちろん、プレゼンテーションが得意だと思っている方もこの基礎を今一度、徹底して意識してみると、上達を実感できるようになるでしょう。」

心を動かし、行動に移す「共感」を得る

――要点を整理して結論を言及する基礎を身につけても、興味を持って話を聞いてもらえないことがありますが、スピーチ力や話術の問題でしょうか。相手を引きつけるようなプレゼンテーションを行うコツはありますか。

プレゼンテーションやスピーチの目的は、相手の行動を変えることにあります。企業コンサルティングでは、たとえばある会社の問題点が『ルールに則って仕事を進めていない』という内容だったとき、相手が社員や部長、社長であっても『きちんとやってください』と説得しなければいけません。しかし、そういう場面ではいくら饒舌に説明がうまくできたとしても、相手は簡単には行動に移さないものです。原因は『共感』が欠けているケースが多いからです。

相手が『この状況が続くと会社は潰れてしまう、あなたの言うとおりだ』と本気で思ってくれれば、初めて行動を変えようとします。その意志を引き出すには、『共感』を得られるか、ということがとても大事になってきます。

――お客様の心を動かし、行動を変える共感を得るには、具体的に何を意識すればよいのでしょうか?

「たとえば、数字をたくさん見せるだけのプレゼンテーションはメッセージとして冷たさが感じられ、無機質な内容になりがちです。そこに『私自身も御社のような業界で働いたことがあります』『僕自身も社員の教育で同じような経験をしたことがあるので』といった、自分自身の経験や境遇を具体的に描写したり、人の心に訴えるような内容を入れていくことで共感を得られやすくなります。数字やグラフなども大事ですが、同じくらい聞く側の共感を引き出すことが、プレゼンテーションをより効果的なものにしてくれるのです。」

――共感を得るのが上手な人ほど、プレゼンテーション上手になれるということでしょうか。

「そうです。プレゼンテーションの成否は、この共感を得られるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。同じようなプレゼンテーション内容でも下手な人は一方的に話しているケースがほとんど。自社や自分のすごさを話していることが多いんですね。それではいつまで経っても共感は得られません。

一方、プレゼンテーションが上手い人は、聞き手主体で話を進めます。そして話の中に調味料のように『御社の支店の前を通るときにいつも思うことがあって』とか『あるとき御社の商品を使っているウチの妻がこんなことを言っていて』など、共感を得られるような話を盛り込んで相手の行動を変える確率を高めていきます。プレゼンテーションが上手な人は、この共感を引き出すコミュニケーションに長けているとも言えるでしょう。」

緊張せず冷静を保つコツは、自分を「客観視」すること

――「基礎」や「共感」を意識できても、プレゼンテーションやスピーチでは緊張したり、お客様から想定外の質問をされたとき、頭が真っ白になったりすることがあります。そんなときに、どうすれば冷静さを保って話すことができるのでしょうか?

「私は以前勤めていた会社で海外赴任をしていた時期がありました。そのとき、アメリカのメーカーの部長とお話ししたことがあって、彼に『プレゼンテーション上手ですね、緊張しないんですか』と聞いたら、『いつも緊張するよ。ただ、どうやったら緊張していないように見えるかを考えて振舞っているんだ』と答えました。私はその言葉に、とても納得したんですね。

ようするに、彼はプレゼンテーションしている自分を演じていたんです。プレゼンテーション中の自分を客観視しているから、常に冷静でいられる。この『客観視』ができていれば心持ちが違いますから、想定外の質問が来たとしても頭が真っ白になるようなことが少なくなるかもしれません。」

――なるほど。自分を客観視することで、冷静に対応することができるというわけですね。では、自分自身の緊張をほぐすために、プレゼンテーションやスピーチ前に冗談を言われる方もいらっしゃいますが、それも効果的なのでしょうか?

「いわゆるアイスブレイクですね。ツカミで冗談を飛ばせるくらいに慣れている人にはいいと思いますが、慣れていない人がやって場がしらけてしまったら逆に緊張が増してしまいます。普段から軽い冗談を言うことが得意でなければ、無理してやらないほうがいいです。

もしもアイスブレイクを入れるなら、その場で考えることはやめましょう。私は、プレゼンテーションを行う日は、よく会場に向かう電車の中で考えます。電車に乗っていて目につくものをアイスブレイクのネタにするのです。ポイントは、『別にウケしなくてもいい』くらいの“ほどほど”の気持ちでいることですね。」

――確かに行きの電車の中で気軽に考えるくらいが精神的負担も少なさそうですが、完璧に準備しないと不安で仕方がないという人もいます。それでも、準備は“ほどほど”のほうがいいのでしょうか?

「はい。みなさん100点を目指したがりますが、80点主義でいいと私は思っています。以前、私の授業にスピーチが上手な学生がいました。前の晩から一生懸命に練習して、当日は完璧な状態に仕上がっていると。でも、プレゼンテーションを聞いてみるとまったく面白くなかったんですね。普段その学生と話しているときはとても面白いのに、なぜそうなってしまったのか原因を探ってみたら、プレゼンテーションする内容を全部紙に書いて暗記したそうです。つまり、本番ではそれを読んで発表することが目的化してしまい、相手に伝えようとする意思が希薄だったということ。だから聞いている側は話に引き込まれなかったのです。

いくら完璧にプレゼンテーションができたとしても、相手に伝わらなければ行動を変えることはできません。どういう流れで、どんな話をするかといった骨組み程度を決めて臨むくらいが、本番ではきちんと伝わるプレゼンテーションだったりします。大切なのは、『話す準備』を完璧にするのではなく、『伝える準備』をすることなのです。そのことを理解するだけで、緊張せずに伝わるプレゼンテーションになっていくと思うので、ぜひ意識してみてください。」

「基礎」「共感」「客観視」がプレゼンテーション・スピーチを変える!

プレゼンテーションやスピーチの「基礎」となるOverview、Body、Summaryの構成力を身につければ、誰でもプレゼンテーションやスピーチは上達すると木下教授は言います。そしてプレゼンテーションやスピーチの目的は、“相手の行動を変える”こと。そのためには、どれだけ「共感」を得られるかがとても重要なポイントになってきます。また、本番で緊張しない方法として、自分自身を「客観視」することを教えてくれました。

この「基礎」「共感」「客観視」の3つのキーワードを意識して、プレゼンテーションやスピーチに臨んでみてください。きっと結果も変わってくるでしょう。

 
<プロフィール>

木下 潔(きのした きよし)
東洋大学大学院 経営学研究科 ビジネス・会計ファイナンス専攻 教授

多数の経営コンサルティング実務に携わる中小企業診断士。中小企業経営、コンサルタントの思考法などを専門とし、東洋大学大学院経営学研究科の中小企業診断士登録養成コースで指導に当たる。大学院生の経営診断実習における講義評価基準や、コンサルティング能力基準を策定。中小企業診断士登録養成コースの院生が獲得したコンサルティング・スキルに関するコンピテンシーを“見える化”するためのツールを開発した。著書に『企業価値を高める』(日本経営協会)、『経営学検定公式テキスト④マーケティング・IT経営』(中央経済社)などがある。