【保存版】介護のプロに聞く、データから読み解く「老人ホーム」の選び方

2017年、日本の総人口に占める高齢者人口の割合は27.7%となり、高齢化率は過去最高となりました。90歳以上の人口は206万人で、初めて200万人を超えています。

今から約50年後の2065年には高齢化率が38.4%に達し、約2.6人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上の時代が来るといわれています。高齢化が進む時代、シニア世代の老後を見守る「老人ホーム」などの施設の需要は、ますます高まっています。

大切な家族を安心して任せられる信頼性の高い老人ホームを選ぶには、どのような点に注目したら良いのでしょうか? 高齢者の介護問題に関する研究を行う、ライフデザイン学部生活支援学科准教授の高野龍昭先生にお話を伺いました。

施設見学だけでは、老人ホームの良し悪しは分からない

画像:東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科・高野龍昭准教授

—近年、老人ホームでの傷害事件や身体拘束といった問題を、ニュース等で目にする機会があります。利用者の立場からすると、自分の家族をそのような事件の起こる可能性がある施設へ入居させてしまうかもしれないことに、不安を覚える方もいらっしゃることでしょう。事前に注意をしておくべき点などはあるのでしょうか?

「残念ながら、老人ホームで職員による虐待が行われてしまうというケースがあることは事実です。『不適切な人が介護職員になるから虐待が起きるのだ』などと思われることが多いのですが、私は、職員個人の問題ではなく、施設の運営方法や職員教育の問題だと考えています。

たとえば、最近起こった老人ホームでの殺傷事件の容疑者は、『どのように介護をしたら良いのか分からなかった』と発言しています。厚生労働省の調査によると、介護職員が虐待をしてしまう一番の要因は、介護技術が未熟である、あるいはしっかりと教えられていないことだと分かっています。

職員の介護技術について積極的に研修を行っているかどうかは、施設見学に行くだけでは分かりません。そこで注目してほしい方法があるんです。」

「介護サービス情報の公表」を活用しよう

—どんな方法で知ることができるのですか?

「全国の施設からの報告をもとに、職員研修の有無や平均勤続年数、入居者数などの情報を都道府県ごとに開示している厚生労働省のWebサイトが存在します。『介護サービス情報の公表』と検索をすると誰でも見ることができますよ。

画像:厚生労働省の介護サービス情報公表システム

全都道府県が、この情報を集めることを義務付けられており、国が定めた情報のほかに都道府県がオプションで設けた約50項目の情報を公表し、年に1回はそれを更新しなければならないのです。このシステムを確認するだけで、『利用を検討している施設の職員が研修に参加しているか』『事故防止対策が適切にとられているか』といった情報を知ることができます。

このデータは誰でも見ることができるので、いくつかの施設を比較するときの参考にもなります。」

—なるほど、安心して家族を任せられるか、多角的に検討できそうですね。

「施設で働く職員に着目すると、勤続年数が10年以上のベテランがいる施設もあれば、勤続年数が3年以下と経験の浅い職員のみで構成されている施設もあります。一概に、勤続年数の長短で施設の良し悪しを判断することはできませんが、職員の勤続年数の割合も参考にしてみてください。」

【観点①】「質」
職員の対応が丁寧というだけで選ぶのは危険!?

—「介護サービス情報公表システム」からは、他にどのようなことが分かるのでしょうか?

「実は、このサイトのデータから、サービスの『』を読み解くこともできるんです。

ありがちなのが、見学に行った際の職員の言葉遣いが丁寧で親切、建物が綺麗、食事が美味しそうというだけで「感じのよい施設だ」と選んでしまうというケース。もちろんこれらの要素もサービスの質を表しているので重要ですが、『介護サービス情報の公表』からも読み取ることのできる以下の項目に注目してみてはいかがでしょう。」

・職員が研修を受けることができる環境や制度があるか
・介護福祉士など有資格者がどれくらいいるか
・職員1人あたりの入居者数は何人にあたるか
・離職率が平均と比べて低いか
・入居者の退所率や死亡率は平均と比べて正常か
・医療的ケアを行っているか
・第三者評価を受けているか

「これらを見るだけで、より良い施設を選べる確率は大きく上がります。都道府県によってはこれらのすべての情報が公表されていない場合もありますが、各施設の相談担当者に尋ねると、ほぼ答えてくれます。それでは、いくつかの項目について詳しく見ていきましょう。」

—まずは、離職率や退所率について教えてください。

「1年間あたりの介護職員の離職率(全国平均)は、17~18%です。25%を超えている施設は、何かしらの問題があるのかもしれません。

また、何らかの理由(病院や別の施設へ移ったり、お亡くなりになったり)により、施設から離れていく割合を『退所率』と言いますが、これは、年間入居者数の20%くらいが通常です。30%を超えていると、これも何かしらの問題がある可能性を示しています。一方で、あまりにも割合が少ない場合、手のかからない利用者ばかりを選んでいるかもしれないという懸念もあります。」

—これらは、「介護サービス情報公表システム」で確認することができますね。「医療的ケア」には、どのようなものがあるのでしょうか?

「これは本来、医師や看護師でないとできない処置なのですが、指定の研修を受けた介護士もそれを行うことができます。例えば、口の中の痰を吸い取ったり、胃ろう(口から食事が摂れない人に対して胃に直接管で栄養を入れるもの)で栄養を入れたり、床ずれ処置をしたり。

老人ホームに長く入居すると、次第に医療的ケアが必要になっていくことが多々あるので、見学の際に実施しているかを必ず聞くようにしましょう。『実施している』とはっきり答える施設は、おそらくその分野に注力しています。

老人ホーム選びは、結果的に『終(つい)の住処』となるケースが多いです。徐々に身体が衰えていく中で医療的ケアを実施できないと、また別の場所に移らなければならないということにもなりかねないので、じっくりと選ぶ必要があるでしょう。」


—「終の住処」として、そのようなケアに注力している老人ホームもあるのでしょうか?

緩和ケア(終末医療・看取り介護)ってご存知ですか? がんの治療を積極的に行わず、痛みだけを取り除いたり、食事が取れなくなってもチューブで無理に栄養を与えたりすることはせずに、自然に穏やかに見守るという治療や介護です。

死にゆく人のケアというのは非常に難しい課題です。このような『看取り(みとり)』に積極的に取り組んでいる施設は、質の良いサービスを提供している場合が多いでしょう。これらの情報も、介護サービス情報公表システムに載っている場合もありますし、施設見学の際などに確認することができます。」

—質の良い老人ホームに入居したことで、逆に症状が改善されるということもあるのでしょうか?

「たとえば、病気になってからまだ日が浅い人は、リハビリテーションの専門職(理学療法士や作業療法士など)がいる老人ホームに入ることで、潜在する能力が引き出されるということも珍しくありません。

また近年では、認知症の方の認知機能を維持・改善し、徘徊したり不潔な行為をしたり、不穏な状況にしないように対処する介護方法が確立されています。そのような対応をきちんと行っている施設は安心ですね。

数年前からは、老人ホームに歯科衛生士を配置して、ひとりひとりの入居者の『口腔ケア』に取り組む施設も増えてきています。

そうした施設では、抜けたままの歯を義歯にしたり、口腔内をきれいに保つことで、栄養状態の改善や肺炎の予防に効果をあげています。

そして、平成30(2018)年4月の制度改正で、褥瘡(床づれ)の予防対策排泄機能の向上(排泄の失敗を減らしトイレに行って用を足せるようになるなど)の取り組みをしている特別養護老人ホームには、政府の定める介護報酬で加算が上乗せされることになりました。

こうした取り組みの有無は、利用相談の際、施設側に説明の義務がありますので、情報収集をして検討材料にすると良いと思います。」

ー老人ホームの質の見極めの際、「介護サービス情報の公表」の他に、参考になる情報はあるでしょうか。

「施設のなかには『第三者評価』を受け、その結果を公開しているところも増えてきました。

これは、都道府県が認めた『第三者評価機関』によって、定期的に介護サービスの内容の評価を受けるものです。たとえて言うと、飲食店ガイドブックの『星』のようなものですね。それを受審しているかどうか、その評価結果はどうなっているか、確認することも大事だと思います。」

【観点②】「環境」
明るい雰囲気の施設を選ぶのが吉

—質に関しては、本当に様々な観点から見る必要があるのですね。立地や施設の雰囲気は、一般の方でも気が付くことが多いと思うのですが、注意するポイントはありますか?

「老人ホームには、認知症の方や車椅子の方など、様々な症状を抱えた方がいらっしゃいます。それでも、雰囲気が明るかったり、賑やかな施設は、高齢者の意欲や体に残された力をできる限り引き出していこうとする方針があることが多い施設と言えます。

また、日中はベッドから離れてデイルームなどで過ごし、食事は食堂でとるといったスタイルを取り入れていることも大切です。食事の風景は特に重要で、できる限り職員の目が行き届いている環境が理想でしょう。」

—立地に関してはどうですか?

「高齢者にとって、住んでいる環境が極端に変わると体に悪影響を及ぼすことがあります。軽度の認知症で入居した方が、老人ホームに入った途端に今まで出来ていたことも出来なくなった、というのはよくある話です。

良さそうだからといっても、極端に今の住まいから遠い所など、急激な環境の変化は避けた方が良いでしょう。

老人ホーム選びは、必要に迫られた状態となってから探し始める方がほとんどです。焦って決めるということにならないように、利用者ご本人が元気なうちから、どのような場所に住むかを家族で検討しておく方が安心です。」

【観点③】「種類」
多様な種類があるからこそ、しっかり見極めよう


画像:東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科・高野龍昭准教授

—一言で老人ホームと言っても、様々な種類のものがあります。それぞれ、どのような特徴があるのかお教えいただけますか。

「まず、介護が必要な高齢者が入居する老人ホームを4つの種類に分けてご紹介します。」

①特別養護老人ホーム
・行政もしくは社会福祉法人が運営し、公的な施設と言える
・多くは4人部屋。個室(ユニット型)のある施設もある
・原則として要介護3〜5の方しか入ることができない
・職員1人あたり入居者3人以下の基準で職員配置が行われ、看護師・機能訓練指導員なども必ず置かれている
・所得等の少ない入居者の場合、利用料の減免措置がある

②介護付き有料老人ホーム
・ほとんどは民間法人(株式会社など)が運営している
・開設の際は各都道府県の許可が必要なので、監視の目が最低限行き届いている
・基本的にはすべて個室
・リーズナブルなものから高級なものまで、様々な費用の施設がある
・入居費や居住費、食費などは自費だが、介護そのものに関する費用は介護保険から支出される
・介護サービスの内容は①とほぼ同等

③サービス付き高齢者向け住宅
・「住宅」という形を取っており、介護サービスは原則として提供されない
・安否確認サービス、相談対応の担当者は配置されている
・介護が必要な場合は、外部のデイサービスや訪問看護などを利用する

④認知症高齢者のグループホーム
・認知症の高齢者限定
・認知症の方は、大規模な集団生活だと混乱する場合もあるため、小規模で運営(入居者は最低で9名・最高で27名)することが義務付けられている
・すべて個室(ただし老人ホームの個室と比べると狭い)
・掃除や料理、買い物など、利用者自身もできることは職員と一緒に行うスタイル

認知症の症状を抱える方は、①か④を中心に選ぶと良いでしょう。重度の方は設備が整っている①がおすすめです。②の中でも、認知症への対策を積極的に取っているところもあるので、幅広く見ていくことが重要です。

②は、幅広いサービスを提供する高級な施設やリーズナブルな施設など、様々な形態のものがあります。また、③はあくまでも住宅という形を取っているので、比較的症状が軽度で、自立した生活を送れる方であると安心でしょう(ただし、24時間の訪問看護・訪問介護を行う事業所を併設しているところもあり、そうであれば重度の人でも対応可能です)。」

—これらご紹介いただいた4種類の施設は、費用面でも差がありますか。

「老人ホームの費用は、基本的に『介護サービス費用』『居住費』『食費』の3つで構成されています。介護サービスの費用は要介護度によって変わり、重度の方が高い仕組みです。

目安となる金額は、以下のとおり。


画像:老人ホームのタイプ別金額の目安

ただ、②の介護付き有料老人ホームは施設やサービスによって金額にも大きく差があります。

4~5年前までは、特別養護老人ホームのベッド数は全国で50数万人分で、それと同等数の待機者があり、社会問題化していました。しかし、最近では上記のような様々な選択肢が増えたことで待機者数が30万人ほどにまで減少しています。

特別養護老人ホームだけが選択肢ではないので、焦って決めずに、しっかりと情報収集した上で利用者のタイプに合った老人ホームを探すのが大切です。

—費用も、サービスによって大きく変わってくるのですね。本当に、様々な観点から情報収集をして選ばないといけないということが身に沁みて分かりました。

「老人ホームの紹介業者もたくさんありますが、一部は特定の施設と近い関係にある業者もあり、公平な紹介をしてくれないケースもあるようです。

その意味では、公的な高齢者介護の相談機関である地域包括支援センター(すべての市区町村で地域内に設置)に相談に行くのも1つの手段かと思います。ただ、どれだけ相談をしても、最終的に決めるのは利用者とそのご家族です。

『終の住処』となるかもしれない場を選ぶのですから、個人個人がリテラシーを高め、後悔しないような老人ホーム選びをしてください。」

あなたが選ぶのは家族の「終の住処」かもしれない。前もって慎重に情報収集を始めよう

サービスの質、職員への待遇、雰囲気や立地、施設の種類、必要経費など、様々な選択肢がある老人ホーム。大切な家族の「終の住処」だからこそ、利用者本人が活き活きと過ごせる場所を選びたいものです。

まずは、元気なうちに施設見学へ足を運び、様々な観点から情報を収集してみるのも良いかもしれません。困った時は、専門家に相談するというのも一つの方法です。

<プロフィール>

高野 龍昭(たかの たつあき)
東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科准教授

医療ソーシャルワーカーと高齢者分野の社会福祉士の業務を経て、ケアマネジメントが日本に導入される萌芽期に介護支援専門員(ケアマネジャー)として務める。相談援助の現場実践を重ねた後、東洋大学で教員に転じ、高齢者のケアマネジメントにおける援助方法と高齢者介護の制度・政策のシステムを専門分野として研究。著書『これならわかる〈スッキリ図解〉介護保険』(翔泳社)など。