「骨」が未来を左右する!? 健康寿命を延ばす方法とは【専門家解説】

平均寿命の延伸により、「人生100年時代」という言葉を耳にする機会も多くなった昨今。
「人生が終わる最期の1日まで健康でいたい」というのは、誰しもが思う共通の願いですよね。

しかし、その願いとは裏腹に、「健康寿命」と「平均寿命」の間には大きな隔たりがあるのが現状です。つまり、多くの方が亡くなるまでに支援や介護が必要となる「健康ではない」期間を経験するということ。

「平均寿命」に比べ、「健康寿命」が伸び悩んでいるのはなぜなのでしょう。そして「健康寿命」を延ばすために私たちは何ができるのでしょうか。東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科で、ヘルスプロモーションの研究をされている齊藤恭平先生にうかがいました。
 

健康寿命と平均寿命


画像:東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科・齊藤 恭平先生
 
まずは、「健康寿命」の意味を押さえておきましょう。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。つまり、支援や介護を受けない健康で自立した期間ということができるでしょう。

出典:第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会(厚生労働省2018年3月9日)
 
2018年の厚生労働省による発表によれば、2016年の日本人の健康寿命は、男性で72.14歳、女性で74.79歳となっています。これを2016年の平均寿命(男性80.98歳、女性87.14歳)と比較すると、その差は、男性8.84年、女性12.35年にもなります。
 
この「健康ではない期間」が長いほど、介護をする側、される側双方のQOL(Quality of Life:生活の質)に影響するほか、医療費、介護費など経済的な負担も大きくなります。昔は亡くなる直前まで元気でいることを“ピンピンコロリ”と言いましたが、今はいかにこの「健康ではない期間」を短縮して“ピンピンコロリ”を実現するかが、個人そして社会全体の課題となっているのです。
 

<ポイント>
健康寿命とは、健康で自立した生活を送ることができる期間
平均寿命と健康寿命の差は、男性で8.84年、女性で12.35年

 

骨粗しょう症による骨折が介護の原因に


出典:平成28年「国民生活基礎調査の概況」
第15表 要介護度別にみた介護が必要になった主な原因の構成割合
 
介護が必要になる原因として多いのは、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱です。しかし、意外と思われる原因は、その次にくる「転倒・骨折」。これは女性に多い「骨粗しょう症」が引き金となって起こることが多く、女性の「健康寿命」が男性と比較し伸び悩む一因となっています。

「骨粗しょう症」とは、骨密度が低下して骨がもろく、折れやすくなる病気。年齢を重ねれば、誰しも足腰が弱くなり転びやすくなりますが、「骨粗しょう症」を患っている方は些細な転倒でも骨折のリスクが高まるのです。さらに、転倒しなくても体の重みによって背骨(椎体)が押しつぶされ圧迫骨折を起こすこともあります。

「骨粗しょう症」の恐ろしさは、骨折や痛みによって、治療が長引いたり、動きが制限されることにあります。身体は、適度に動かさなければどんどん筋力などの機能が低下していきます。その結果、「骨粗しょう症」をきっかけに、一人で立ち上がることができなくなったり、寝たきりから認知症を発症する可能性が高まってしまうのです。
 

出典:「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」2015年版(一部改変)
 
女性が「骨粗しょう症」になりやすい理由には「閉経に伴う骨量の低下」が関係しています。上の図は、経年的に女性の骨量の変化を示したものですが、20歳で最大骨量に達した後、並行に推移していた数値が閉経を機に急激な下降線を辿っていることが分かります。この急激な骨量の低下は、骨を強くする働きを持つ女性ホルモン「エストロゲン」の分泌が閉経を機に減少することに伴って起こるものです。

閉経に伴う骨量の低下は、避けては通れない問題といえます。特に私が懸念しているのは、特に若い女性に多い「ダイエット志向」です。骨量というのは、20歳頃にピークを迎え、それ以降の増加は見込めないため、青年期の過度なダイエットによって骨量が十分な値に達しないと、年齢を重ねてから「骨粗しょう症」になるリスクが高まってしまうのです。健康寿命を伸ばすためには、「まだ若いから」という油断は禁物なのです。
 

<ポイント>
・介護が必要となる原因は、認知症、脳血管疾患、老衰、骨折・転倒など
・骨粗しょう症による「骨折・転倒」は女性に多く、寝たきりや認知症にもつながる
・骨量の減少は、女性ホルモン「エストロゲン」の減少に比例して起こる
・20歳までに最大骨量を高めておくことが大切

 

健康寿命を延ばすために

健康寿命の長さは、生活習慣が大きく関係しています。最近は特に働き盛りの20代後半〜40代男性、子育てと仕事の両立で忙しい20代〜30代女性の運動不足が目立っています。さらにメタボリックシンドロームなど、食べすぎによる肥満症も問題です。健康寿命を延ばすためには、食生活と運動の両方を改善していく必要があるのです。ここからは、そのための簡単なポイントをお話しします。
 

ポイント①:肥満にならない食生活

肥満は、それ自体がさまざまな生活習慣病を引き起こす原因となります。健康的な食生活の第一歩は、まず「肥満にならないように心掛ける」ことだと言えるでしょう。そのためには、1日あたりの総エネルギー量を把握することが大切。エネルギーはインプットとアウトプットの関係なので、食べたエネルギー量よりも消費したエネルギー量が多ければ痩せるし、その逆だと体内に蓄積されるのです。

下の計算式と表からは、ご自身の「適正体重」と1日に必要な「推定エネルギー量」を確認することができます。まずは、これらの数値をもとに、毎日の食事を考えてみてはいかがでしょうか。
 
■推定エネルギー量(kcal/日)

出典:日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要(一部改変)
 
■適正体重の目安
適正体重= (身長m)2 ×22
※例:身長160cmの場合(1.60×1.60×22=56.32kg)
 
【身体活動レベル】
Ⅰ.生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合
Ⅱ.座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合
Ⅲ.移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合
 

ポイント②:骨をつくる食事

骨を丈夫にするには、日々の食事で骨をつくる材料となるカルシウムを十分に摂ることが欠かせません。一般的にカルシウムは、日本人に不足しがちな栄養素と言われ、特に骨粗しょう症を予防するには、1日に700〜800mgのカルシウム摂取が推奨されています。また、ビタミンDには、カルシウムの吸収を助ける働きがあります。ビタミンDは日光を浴びることで皮膚でも作られるのですが、こちらも不足することのないよう、食事から十分な摂取を心がけてください。
 
■カルシウムが多く含まれる食材:
乳製品、小魚、海藻、緑黄色野菜、大豆製品など
 
■ビタミンDが多く含まれる食材:
鮭、真イワシ、サンマ、きのこ類など
 

ポイント③:生活の運動化

次に、運動習慣。体を動かすことは、脂肪を燃焼したり、筋力の低下を防ぐほか、適度な刺激を与えることで、骨を強くすることにもつながります。

しかし、現代社会では多くの人が運動のための十分な時間がとれていません。私は、この問題に対して「生活の運動化」を提唱しています。これは、生活リズムを変えるのは難しいのならば、生活そのものを運動に変えてしまおうという発想です。

エレベーターを使う場面で階段を使う、自転車や一駅歩いて通勤をするなど、生活リズムを変えずとも運動量を増やす方法は色々あります。皆さんも気軽にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
 
■生活の運動化の例
・歩幅を広くして、速く歩く
・エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う
・自転車や徒歩で通勤をする
・掃除や洗濯はキビキビと行う
・テレビを見ながら筋トレやストレッチを行う
・遠くのトイレを利用する
・いつもより遠くのスーパーまで歩いて買い物に行く
・近所の公園や運動施設を利用する
参考:厚生労働省アクティブガイド2013
 

まとめ

今回は健康寿命を延ばすためにどうすれば良いのかを教えていただきました。忙しく過ごす毎日の中で、ついつい体のことは後回し……という方は多いかもしれません。しかし、体は日々の生活で少しずつ変えていけるものです。生き生きと人生を楽しむためにも、今日からコツコツ健康貯金を始めませんか?

<プロフィール>

齊藤 恭平(さいとう  きょうへい)
東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科 教授
博士(医学)、体育学修士。日本ヘルスプロモーション学会常任理事。
ヘルスプロモーション(人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス)を専門とし、多くの市町村の健康増進計画策定の支援や、地域の健康づくり活動の企画などに携わる。2016年からは、 日本ヘルスプロモーション学会誌『ヘルスプロモーションリサーチ』の編集委員長を務める。