若者に不足する栄養素とは?学生考案のヘルシーメニューから学ぶ、食生活の課題

さまざまな食べ物が、いつでもどこでも手軽に手に入る現代社会。

便利な時代になったと言えますが、その一方で食生活にマイナスの影響があるという指摘もされています。特に一人暮らしをしている若い方の中には、どのように食事栄養バランスをとるか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

東洋大学食環境科学部健康栄養学科では、そんな現代の若者の食生活をテーマに授業を行い、学生たち自らがヘルシーメニュー(※)を考案。板倉キャンパスの学生食堂「カパティーナ」で期間限定メニューとして提供し、人気を集めています。若者が抱える食生活の問題点、学生と学生食堂のコラボというユニークな企画を実現させた経緯、そしてメニュー作りのこだわりポイントについて、佐藤加代子教授と実際にメニューを作った健康栄養学科4年・河村薫さん、大塚朋さんに伺いました。

※ヘルシーメニューとは・・・
いわゆるダイエット食・低カロリー食ではなく、東洋大学学生の現状(アンケート調査)を考慮し、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)に基づいて、1日に必要なエネルギー・各栄養素の1/3の量をもとにした健康的な献立のこと。

欠食、カルシウム・ミネラル・ビタミン不足…。若者の食生活の問題

画像:食環境科学部健康栄養学科・佐藤加代子教授

―現代の若者の食生活を考えたときに、どのような問題点があると佐藤先生はお考えですか。

佐藤「世の中が便利になり、外食や、サンドイッチや弁当など、出来合いのものを買ってきて家などで食べる中食(なかしょく)がとても増えていますよね。そこで問題になるのが、自分の好きなものに偏った食事になりがちということです。そんな現状を把握し、栄養学を学ぶ学生にしっかりと問題意識を持ってもらうために、私の授業で生活・食生活に関するアンケートを実施しました。」

―アンケートを実施してみて、どのようなことがわかったのでしょうか。

佐藤「結果から明らかになったのは、欠食率の高さや、特にカルシウム、ミネラル、ビタミンといった栄養素の不足です。学内にある売店の市場調査を行ったところ、一番人気の商品は唐揚げで、他の人気商品も揚げ物類ばかり。野菜の摂取が非常に少なく、必要な栄養素を摂ることができていないという現状が伺えました。また、偏った食事以前の問題として、欠食でエネルギーが足りていない学生も少なくない状況です。」

―なるほど、若者の食生活の乱れが慢性化している状態が伺えますね。栄養をバランス良く摂取しないと、どのような問題が起こるのでしょうか。

佐藤「私は小児栄養学が専門で、ある特定地域の小学5年生全員を対象に調査をしたことがあるのですが、やる気が出ない、片頭痛や肩こりといった体調の不調を訴える子が半数以上に達して驚きました。その主要因を解析すると、朝食を食べなかったり、夕食後のおやつであったり、そもそも食事が楽しくない、といったことに絞られたんです。食事を含めた生活リズムの乱れは、体調不良となって現われるため、改善する必要があります。」

アンケートから課題を設定!学生による、学生のためのヘルシーメニュー考案

画像:奥から、健康栄養学科4年・河村薫さん、健康栄養学科4年・大塚朋さん、佐藤加代子教授

―現代の若者は栄養を十分に摂取できていないというのが、さまざまな客観的データからもわかるのですね。授業を通じてヘルシーメニューを作ることになった経緯を教えてください。

佐藤「健康栄養学科では、20代を対象とした健康づくりについて考える授業を行っています。大学を“東洋大学村”というひとつの地域と仮定し、そこに暮らす人の健康を10年計画で考えていくというものです。10年先にどのような健康状態でありたいのか、そのためには学生の現在の生活状況をどのように改善し、また食環境整備を進めるのか。その具体的なアプローチとして、実際に考案した料理を提供することが、学生食堂の協力によって実現しました。今年で2年目になります。」

―どのような流れでメニューの開発を行ったのですか。

河村「まず、学科の3年生と2年生を対象にアンケートを実施し、食事や生活習慣、身体状況について調査しました。その結果を集計し、分析して、今の学生が抱える問題点について皆で話し合い、班ごとにそれを改善するためのメニューを作り上げました。」

佐藤「計12班で役割を分担し、それぞれ目標を立てて、メニュー作成や情報提供に取り組んでもらいました。学生の欠食率が高いので、それを改善するために比較的喫食率の高い昼食にターゲットを絞り、6つのメニューを10月初めから6週連続で週に1日ずつ提供しています。班によって得られたデータから着眼するポイントも異なるのが面白いんです。」

―そのようなデータの検証から考案されたメニューの一つが『豆乳担々麺』ですね。このメニューがどのようにして生まれたのか教えていただけますか。

画像:学生たちが考案したメニュー『豆乳担々麺』

大塚「アンケート結果から、いわゆる“痩せ願望”の人が多いことがわかりました。痩せることを意識するあまり、必要な栄養素がとれていないのは良くないこと。そういった人たちに栄養素をしっかりと摂取してもらうことで、食事の内容を改善してもらいたいという願いを込めたメニューです。また、カルシウム不足傾向というデータもあったため、乳製品をとれる献立を考え、その中でも女性が好みそうな豆乳を使ってみました。それでも不足する分は、デザートのヨーグルトで補っています。」

河村「いくら『栄養バランスが整っている』とアピールしても、食べたくなるかどうかはまた別だと思うんです。そこで、ヘルシーそうに見えて、実はしっかり栄養がとれる豆乳担々麺のレシピを考えました。麺類にしたのは、学生がみんなきっと好きだろうなと思ったのと、自分も食べたかったからです(笑)。」

―栄養価は高くても、そのメニューが美味しそうでなければ食べてもらえませんもんね。「自分が食べたいもの」であれば、メニューを考えやすそうです。

佐藤「まず自分が食べたいものを作ってみなさいと指導しました。食べた人が喜んでくれるメニューを開発するには、大切な視点ですよね。また、実際に食堂で提供するために、値段のことや、調理室の設備についても考えながら進めてもらいました。栄養バランスを考えるポイントは、厚生労働省が定める『日本人の食事摂取基準(2015年版)』を考慮に入れていることですね。」

画像:『豆乳担々麺』の栄養価と、日本人の食事摂取基準(2015年版)との比較

―必要な栄養素をしっかり摂取できるのがいいですね。お二人は自分たちが考えたメニューが食堂で実際に提供されることになって、どのような感想を持ちましたか。

河村・大塚「考案したメニューを食べている方を見たときは、とてもうれしい気持ちになりました。授業の中だけで終わるのでなく、実際にいろいろな人に食べていただけるので、とてもやりがいを感じます。」

佐藤「ヘルシーメニューはなかなか評判がいいんですよ。限定20食としていますが、毎回早々に売り切れてしまうので、食堂では多めに作って用意してくれているようです。食堂のチーフもこのコラボを楽しまれていて、食器もメニューにあわせて特別なものを使ってくださっているのです。」

―掲示等(情報媒体)でメニューの説明がされているのも親切ですね。

大塚「媒体による情報提供も、授業の一環なんです。たとえば“適性体重”と言われたときに、私たち『栄養』を学ぶ者はすぐにわかりますが、よくわからない人も多くいると思います。そこで、ポスターやPOPを使って、ヘルシーメニューに関する情報をわかりやすく伝えるように心がけています。私たちの活動を通してたくさんの学生が、健康な食生活について考えるきっかけになってくれたら嬉しいです。」

カット野菜や缶詰を活用して、まずは手軽なメニューから

画像:食堂内にある学生が作成したヘルシーメニューの紹介コーナー

―最後になりますが、現代の若者が健康な食生活を送るうえでのアドバイスをいただけますか。

佐藤「まずは、食生活のリズムを整えること。そして、料理をしない人も多いかと思いますが、カット野菜や缶詰、お惣菜などを上手に利用して、手軽なメニューから始めてみてはいかがでしょうか。カット野菜には失われている栄養素もありますが、それでも食べないよりは食べたほうがいい。朝食も、おにぎり1個でも、まずは食べることが大切です。栄養学においては、主食・主菜・副菜を基本としているので、いつもおにぎりを食べている方は何らかの主菜なり、副菜をプラスワンしてみる。主菜を食べている方は副菜をプラスワン。ぜひそんなふうに考えてみてください。」

いつもの食事を見直してみることから始めよう

「食」は、人が生きるための基本です。そこを見直すこと、あらためて意識してみることの大切さを、学生の作ったヘルシーメニューが教えてくれました。このような実践的な授業を通して、高いスキルを持った栄養管理のスペシャリストが、これからもたくさん育っていくことでしょう。

栄養バランスのとれた食事ができていないと感じる方は、いきなり自炊で凝った料理に挑戦するのではなく、まずはコンビニやスーパーで買うものを利用するなどの工夫をしてみてはいかがでしょうか。自分に足りない栄養素を把握してそれを補うなど、ちょっとした心がけの積み重ねが、健康な食生活を送る第一歩なのです。

<プロフィール>
佐藤 加代子(さとう かよこ)
東洋大学食環境科学部健康栄養学科 教授
専門分野は、公衆栄養学、小児栄養学、小児保健学。学士(家政学)。
おもな著者は『公衆栄養学』(共著)南江堂、『三訂 公衆衛生学』(共著)建帛社、『子どもの食と健康』(共著)医歯薬出版。