【ガーデニングに凝ると空き巣が減る?】犯罪心理学者に聞く、防犯対策

一昔前に比べ、監視カメラGPSによって、防犯に役立つテクノロジーが発達した現代。しかし、ニュースをみれば毎日のように誰かが犯罪に巻き込まれており、物騒な事件は後を絶ちません

安心して安全な毎日を過ごすためには、私たち1人ひとりが自分や大切な人を守るための防犯に関する知識を身につけておくことが必要不可欠です。

では、日常生活でできる防犯対策とはどのようなものなのでしょうか。
今回は、犯罪心理学者であり、東洋大学社会学部社会心理学科教授桐生正幸先生犯罪心理学に基づく防犯術についてお聞きしました。

異常な犯罪者の心理を考えるだけじゃない?犯罪心理学とは?

そもそも、犯罪心理学とはどのような学問なのでしょうか。
どのような観点から、防犯に繋げることができるのでしょうか。

社会心理学科教授の桐生正幸先生の写真

「犯罪心理学というと、猟奇的な事件を起こした犯罪者の心理を研究しているというイメージを持つ人が多いと思いますが…。そういった事件は平常な精神状態ではない人が起こしており、そのようなケースは犯罪心理学の中でも、司法精神医学という学問の研究分野になります。

しかし、世の中の大半の事件は、普通の価値観を持つ人が何かの拍子に起こしています。
なので私は、“私たちと同じ人間が”同じ考え方を持った上で、選択肢のひとつとして犯罪という行動を選んだという考えのもと、犯罪者の心理を研究しています。」

ー確かに、犯罪を起こしたことがなく、絶対にやってはいけないと思っている人間からすると、“犯罪者の思考回路は自分とは違う”というイメージを持ってしまいがちです。しかし、犯罪者の大半は特殊な思考回路を持っている訳ではなく、私たちと同じ価値観を持っているんですね。

では、私たちと同じ価値観を持った人は、何がきっかけで犯罪を起こしてしまうのでしょうか。

「私たちと同じ価値観や行動パターンを持った人間が犯罪に走る時、必ず犯罪を起こすことができる環境があります。

例えば、痴漢犯がいたとします。痴漢犯は、自分1人だけだったら痴漢を行うことができません。痴漢犯対象者、つまり加害者被害者がいるから痴漢行為が成り立つのです。

さらに、痴漢を行うには、そこに監視者という第三者の存在や、いつ、どこで行うかという時間場所の要素も加わります。」

ーつまり、例えば性欲を持て余した人が1人でいるだけでは痴漢は起きないけれど、そこに痴漢の対象となってしまう人(被害者)がいて、監視者(第三者)の目が届きにくい時間場所が揃うと、痴漢が起こる可能性が高いということですか?

それらの条件が揃ったものが朝の満員電車ということですね。

「そうです。私たちと同じ人間が犯罪を犯すことは、特別なことではありません。犯罪を行動に起こすことができる環境が揃っている場合が多いのです。

犯罪心理学に基づいて防犯を考える時、犯罪者の心理だけを考えていてはいけません。加害者・被害者・監視者・時間・場所という5つの要素から犯罪が起こる可能性や、原因を考えなければならないのです。」

これらをもとに痴漢のケースを考えると、痴漢犯というのは精神的に異常な状況にある人とは限りません。言い換えれば、ほぼ全ての人が、環境さえ揃えば痴漢犯になり得る可能性があるという発想が必要です。

犯罪心理学に基づいて防犯を考えると、犯罪者の心理を考えるだけでなく、“いかに犯罪が起きない環境を作るか”ということが大切なことが分かります。

ガーデニングが防犯につながるって本当?空き巣の防犯対策

ガーデニングの様子写真

犯罪者の心理だけでなく、被害者・監視者・時間・場所を加えた5つの要素から成り立つ犯罪心理学。実際に防犯対策を行うためには、どうすれば良いのでしょうか。

まずは、1人暮らしの人も、家族と一緒に住んでいる人も気になる、空き巣の防犯対策についてお聞きしました。

「実は近年、空き巣や殺人などの犯罪は減っているんです。防犯カメラが増えたことで、先ほどの5つの要素でいう“監視者”の役割を、人がいなくても機械で果たすことができるようになり、犯罪を行動に移すことができる環境が減ってきたのかもしれません。また、マンションなどはオートロックの建物も増えているし、監視カメラがついているところが多いですから。

しかし、周りに他の家がない一軒家などになると、危ないかもしれないですね。
そういった場合は、庭のガーデニングに凝ったりすると良いですよ。」

ーガーデニング…?花を見ると犯人の心が休まるということですか…?

「違います(笑)。

ガーデニングに凝ると、家や付近に注意を示すことが多くなります。そうすると、“あの家は庭にも注意を配っている”というイメージになり、空き巣の人が狙いにくくなるんですよ。」

ーなるほど。注意が行き届いている家に、空き巣も入りたくないですよね。

「逆に言うと、人の注意があまりいないことうかがわれる家や、人目につかずに放置されている場所は犯罪が起こりやすいです。

例えば、地方の無人駅の駅前の駐輪場自転車が盗まれる事件が多発していたことがありました。そこで、駐輪場にプランターをいくつか植え、花を植えるようにしたんです。

すると、花の手入れをする人が立ち寄るようになったのはもちろん、散歩中の子供達街の人々花を見に立ち止まるようになり、駐輪場に人がいることが増え、自転車があまり盗まれなくなったんです。」

露出度の高い人よりも、大人しそうな人が狙われる!?性犯罪への防犯対策

性犯罪防犯のイメージ写真

意外にも、近年減ってきているという空き巣
では、近年増えてきているのはどのような犯罪なのでしょうか。増加傾向にある犯罪の防犯対策についてお聞きしました。

「近年増えている犯罪は、性犯罪です。とくに、性犯罪の中でも強制わいせつや痴漢の被害にあっている人は想像以上に多いです。」

ーそうなんですね。どのように対策をすれば良いのでしょうか?

「まず、電車や道端で知らない人が近づいてきたら、どんな人であれ“性犯罪を起こし得る可能性がある人”と考え、危機感を持って距離を取る。それくらいの意識も時には必要でしょう。」

ーなるほど。
でも、満員電車など、物理的に距離を置きたくても置けない環境ではどうすれば良いのでしょうか?

「満員電車で痴漢をする人の多くが“自分が痴漢をしたとバレたくない”という心理を持っています。だから、満員電車という環境を選ぶわけです。

そうなった時に、性犯罪者は声を上げない、大人しそうな人をターゲットにします。これは他の性犯罪にも共通していることで、過去の研究を調べると、若い人や露出の激しい人が多い訳ではないことがわかっています。そうではなくて、大人しそうな、被害を申告することができなそうな人が多いんですよ。」

ーつまり、派手な女性よりも、控えめで大人しそうな女性の方が狙われやすいんですね。
しかし、服装や雰囲気は個性でもあるので、なかなか変えることができませんね…。

「そうですね。
なので、ちょっとでも“これって触られてる…?もしかして痴漢!?”と思ったら、ここには勇気が要りますが、すぐに相手に“私は知っているぞ!”と伝えることが大切だと思います。」

ーでも、そうすると“本当は痴漢ではなく、ただ手が触れてしまっていただけだった場合など、自意識過剰だと思われないかな…。”と不安になってしまい、なかなか言い出せない人も多そうですが…。

「現に、本当に痴漢をしているのに、指摘されたら“お前なんか触るわけないだろ!”と開き直る人もいますからね。でもそういった人に負けず、声に出す勇気を持って欲しいと思います。でも、それがなかなか難しいですよね。

言い出しづらかったら“あの、何か荷物当たってませんか?どけていただけますか?”くらいでも良いと思います。要は、痴漢犯かもしれない人に“自分は痴漢をされたらちゃんと申告できる人間なんだぞ”って時にはアピールすることが大切なのです。」

地域が一体となって、犯罪が起きにくい人間関係作りを!児童ポルノの防犯対策

通勤や通学で日常的に満員電車に乗る機会がある人は、気をつけておきたい痴漢
さらに、痴漢以外に近年増えている犯罪と、その防犯方法についてもお聞きしました。

「近年右肩上がりで増えている犯罪は児童ポルノですね。
なんの知識もない子供達が、声をかけられ連れ去られてりして、淫らな写真や動画を撮られる事件が増えています。」


出典:「児童ポルノ事件の送致事件に係る被害児童数(平成27年)」(警察庁)(https://www.npa.go.jp/hakusyo/h28/data.html)

ー小さいお子さんを持つ保護者の方からしたら気が気でないですね。

「そうですよね。本屋さんのそういったコーナーに行けば分かると思うんですが、今、児童ポルノを題材にした漫画や雑誌、DVDが本当に多いんです。
それだけ売られているということは、需要があるというわけで…。児童ポルノを嗜好とする人って、世の中のごく一部だと思われがちですが、たくさんいるんですよ。」

ー自分の子供が児童ポルノや性犯罪に巻き込まれないために、保護者はどうすれば良いんでしょうか?
最近、GPS付きの携帯電話を子供に持たせる親が増えていますが、ああいった対策は効果があるんでしょうか?

「確かに、GPSで居場所を確認することができますが、子供が持っているものなので、犯人がそれを見つけて電源を切ってしまったり、携帯電話自体をどこかに捨ててしまったりしたら意味がないですよね。
なので、道具に頼ると同時に地域コミュニティに参加したり、近所とのネットワークを作ることも重要です。」

ー地域の人や近所の人とコミュニケーションをとると、どんな良いことがあるんでしょうか?

「自分と子供の顔を覚えてもらうことによって、何かあった時に情報を集めやすくなります

また、共働きの家庭などは特に、子供が事件に巻き込まれそうになった時に現場に居合わせることが難しいですよね。そういった時に、近所に顔見知りの家があれば、子供はそこに逃げ込むことができます。

地域ぐるみで防犯体制をとることによって、個人の力だけでは見過ごしてしまう犯人の行動を監視する環境を作ることができ、犯罪が起きにくい地域にすることができるんです。」

生活圏内の犯罪が起こりやすい場所をリサーチしておこう!ひったくりの防犯対策

最後にお聞きしたのはひったくりの防犯対策
ただ街を歩いているだけでもターゲットとなってしまうひったくりから自分の身を守るためには、どうしたら良いのでしょうか。

社会心理学科教授の桐生正幸氏の写真

「ひったくりが起きる場所には、ひったくりをしやすい環境があります。例えば、監視カメラが設置されていなかったり、ある時間になると人通りが少なかったり、走って逃げる動線が確保されていたりと。

なので、できるだけその時間にその場所へ1人で行かない、通勤や通学で通らないといけない場合は遠回りをするなど、徹底的にその環境に行くことを避ければ、ひったくり被害に合う確率を下げることができるでしょう。」

ーどうしてもその場所を通らないといけない場合は、どうすれば良いでしょうか?
よく、夜道に女性が1人で歩く場合は、電話をしながら歩くと良いと言いますが、それは本当なのでしょうか?

「うーん…。電話はあまり防犯にはならないと思いますよ。
話に気を取られてしまって、誰かが近づいてきている気配に気づきにくくなってしまうというデメリットもありますし。

電話をしながら歩くよりは、防犯ブザーなどを見えやすい位置につけておくと良いでしょう。“何かあったら大きな音を出せるんだぞ”っていうことを分かりやすくアピールするんです。」

ー実際に使用しなくても、そういった警戒の意味で防犯ブザーは役に立つんですね。
ちなみに、自分の生活圏内で犯罪を起こしやすい場所・時間を知るにはどうしたら良いでしょうか?

自分が住んでいる地域の事件を常にチェックすると良いと思います。
警察からの犯罪情報配信や町内新聞などがある地域は、しっかりと目を通しましょう。こまめにチェックしていると、犯罪が起きやすい場所や時間が見えてきます。

犯罪が起こりやすい場所や時間を知って、その場所や類似場所に近づかないようにするのが1番の防犯対策です。」

1人ひとりが“犯罪の起きにくい環境作り”を意識し、犯罪者を生まない社会へ

犯罪心理学に基づいた防犯を行う上で大切なのは、犯罪が起こりにくい環境を作ること。そのために、日常生活でできる防犯対策はたくさんあります。
今回の桐生教授のお話をおさらいすると、

1.空き巣の防犯対策
周りに他の家がない一軒家に住んでいる場合は、庭のガーデニングや周辺のメンテナンスに力を注ぎ、建物に注意を配っていることを表現すると良い。

2.痴漢の防犯対策
痴漢が起こりやすい環境に行くことはできる限り避ける。
通勤・通学の電車の中で仕方がない場合は、少しでも触られている気がしたら声に出す勇気を持つ。自分は、被害にあったら申告できる人間だとアピールする。

3.児童ポルノの防犯対策
親世代が近所の人と積極的に挨拶を交わしたり、地域コミュニティに参加したりして、知り合いを増やしておく。
いざという時に助け合える人間関係を、地域ぐるみで構築し、犯罪が起こりにくい地域を作る。

4.ひったくりの防犯対策
自分の生活圏内で犯罪が起こりやすい場所・時間を把握しておき、その時間にその場所や類似した場所に近づかないようにする。
目立つ位置に防犯ブザーをつけ、いざという時は大きな音を鳴らすことができることをアピールする。

という、4つの防犯術を知ることができました。

個人でできることを実践するのはもちろん、現代社会において希薄になりがちな地域の人とのコミュニケーションも大切にし、自分の周りで犯罪が起きにくい環境とネットワーク作りを心がけましょう。

1人ひとりの防犯に対する意識と地域作りが、安全で住みやすい、犯罪の起きない社会を作っていくのです。

 

<プロフィール>

社会心理学科教授の桐生正幸氏の写真

桐生 正幸(きりう まさゆき)
東洋大学社会学部社会心理学科 教授
専門分野は、犯罪心理学。博士(学術)。
2006年まで、科学捜査研究所で犯罪心理に関する検査や分析を行っており、ほぼ全罪種の犯罪現場を観察し、関係者と面談した経験がある。
TV出演や映画の監修など、さまざまなメディアでも活躍している。

動画で見るWeb体験授業:http://www.toyo.ac.jp/nyushi/column/video-lecture/20151117_03.html