「カジノ法案」って何?観光学の専門家が徹底解説

2018年7月20日、国会で「IR実施法案(別名:カジノ法案)」が成立しました。

カジノというと、治安が悪くなりそう、ギャンブル依存症になりそう……といったネガティブなイメージも少なくありません。しかし、私たちは「カジノ法案」について一体どれだけのことを知っているのでしょうか。

実際に「カジノ」とはどんなところなのか、そして法案の成立が私たちの暮らしをどう変えるのか、東洋大学国際観光学部国際観光学科の佐々木一彰准教授におうかがいしました。

観光収入の増加と地域活性化のカギとなる可能性

画像:東洋大学国際観光学部国際観光学科・佐々木一彰准教授

―「カジノ法案」とはどのようなものなのでしょうか?

「誤解されがちなのですが、カジノ法案という名前は正しくありません。正確には『IR実施法案』といいます。今回の法案は、IR(Integrated Resort)を日本で実施するための運用や経営のルールを決めるものです。

IRとは、カジノ、宿泊施設、展示施設など訪日観光客に需要のある施設を1つにした『統合型リゾート』のことを指します。ギャンブル性の高いカジノだけでなく、他の娯楽施設も含まれるのですが、言葉のひとり歩きで、これがあまり正しく伝わっていない印象を受けますね。」

―なぜその「IR」を日本に作る流れになっているのでしょうか。

「一番の理由として、景気の落ち込みを防ぐことが期待できます。現在日本では、人口減少に伴った国内市場の消費需要低下が懸念されているのは皆さんもご存知のとおりと思います。

消費需要の拡大には、訪日旅行客からの観光収入の増加と、地域活性化が不可欠であり、これらの実現には、地域一帯で消費活動が行われるような収益性の高い施設と宿泊施設の両方が必要となります。

また、2020年の東京五輪が迫っていることも理由の1つです。1964年の東京五輪は、開催後に建築雇用や観光客の消費活動の需要がなくなり、景気が低迷しました。2020年の東京五輪後も、同様の現象が起こる可能性があります。

このような理由から、継続的に国内外の観光客を呼べる観光施設としてIRが検討されています。現在、IRによる観光客の集客や、周辺の地域での消費活動を促進する計画を政府が中心になって進めている状況です。」

―日本の経済活動を活性化させる、一種の起爆剤のような役割を果たすのですね。

シンガポールの事例が示すカジノ解禁の影響

―IR実施により、私たちの生活にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

「現段階でのメリットとしては、次の4つが考えられるでしょう。

①IR施設を訪れる観光客が周辺の地域でも消費活動を行うため、地域全体に経済効果が波及する。
②施設の建設や運営を行う人員確保のために、雇用が創出される。
③事業連携を行う国内企業の社員やその家族に利益が生じる。
④カジノで生じた利益から税金を徴収し、福祉や奨学金などに充てることができる。

IRは政府の収入を増加させるだけでなく、それを財源として、雇用や福祉など私たちの生活に役立てていくことも目指しています。」

―現在カジノを解禁している国で、IRが社会全体に良い影響を及ぼしている例にはどのようなものがありますか。

「2つの政府公認のカジノが存在するシンガポールでは、次のような効果が出ています。

・インバウンド観光の増加により観光収入が6割増加した
・ギャンブル依存症患者が減少した統計も

シンガポールでは、カジノができる前からスロットマシーン、競馬や宝くじによるギャンブル依存症患者が多くいたため、カジノ解禁に対しては国民から根強い反対が起こっていました。そこで政府は、依存症患者増加への対策として治療施設を作り、現在では依存症の比率もカジノ導入前の何分の一にもなっています。

逆に、このような対策をせずにカジノを設立し、依存症患者の比率が高くなってしまったという事例の国もあります。おそらく、治療施設の導入などは、今後の日本でも大いに検討されることになるでしょう。」

日本でギャンブル依存症患者が増える心配は?

―世間では「IR実施法案」について、カジノが解禁されたら治安が悪くなる、ギャンブル依存症患者が増える……といったことを心配する声も上がっています。

「カジノと聞くと、『裏社会の人が仕切っているような賭場』という悪いイメージが強いのかもしれませんが、海外のカジノは一流企業が健全に運営している場合がほとんどです。IR設立時の制度設計を官民一体となりしっかりと行っていくことで、治安の悪化やギャンブル依存症患者の増加を未然に防ぐことができると期待されています。」

―日本では、ギャンブル依存症や治安悪化に対する具体的な対策は行われるのでしょうか?

「2016年に国会で審議・可決された『IR推進法案』がきっかけで、本格的なギャンブル依存症対策が始まっています。カジノを導入するのであれば、既存のギャンブル(パチンコ等)への依存症対策も更に行う必要があるという声が上がり、前からも行われていた電話相談の窓口の重要性がクローズアップされるようになりました。

パチンコ等に対する依存症対策はそれほど大きく取り上げられてこなかった状況の中で、IR推進法案はギャンブル依存症対策法案の審議のきっかけともなったのです。カジノ解禁に注目が集まることに比例してギャンブル依存症対策にも注目が集まり、賛否入り乱れた議論が活発化したと考えられます。

治安の悪化について、置き引きをはじめとする軽犯罪は有名な観光スポットでは多く起きてしまっていますので、必ずしもカジノ特有の現象とは言えないものもあるでしょう。ただ、治安や防犯についてはより高度な検討が行われ、何かしらの対策が具体化することに期待が集まります。」

―対策を行うことで、カジノの解禁自体が社会の負の部分を改善させる役割を担うことも期待できるのですね。IR実施に関して、具体的にどのような制度設計を行う予定なのでしょうか?

「現在、政府が検討中のIR実施にあたっては、地方自治体と民間企業にIR経営のライセンスを付与することが予定されています。そのライセンス付与の基準には、以下のようなものが挙げられます。

①反社会的組織と無関係であるか
②国や地域にとってメリットがあるか
③経済効果が期待できるか
④社会的に良いインパクトがあるか

カジノの導入にあたっては、(上記のような)厳格な基準を設け、国民の利益向上につながるクリーンな施設にすることが第一です。細かい部分の制度設計は現在議論されているところですが、すでに国内の大手上場企業もリサーチやマーケティング活動を行っています。」

IRが私たちの生活に与える影響に注目してみよう

佐々木先生のお話から、IR実施には次のメリットがあることが分かりました。

①IRを中心とする消費需要の拡大により、地域活性化が実現される。
②施設の建設や運営のために雇用が創出される。
③カジノで生じた利益を福祉や奨学金などに充てることができる。

IRの実施で私たちの社会にどんな影響がもたらされるのか、今後の動向をぜひ注目してみてください。

※記事の内容は、執筆者個人の意見に基づいており、東洋大学の公式見解を示すものではありません。

<プロフィール>
佐々木 一彰(ささき かずあき)
東洋大学国際観光学部国際観光学科 准教授

経営学を専門とし、カジノ、統合型リゾート、老舗企業などを中心に研究。博士(地域政策学)。現在、Asia Pacific Association for Gambling Studies Academic in Macau Academic Member、日本ホスピタリティ・マネジメント学会理事、IR(Integrated Resort)*ゲーミング学会理事を務める。著書に、『カジノミクス』(小学館新書)など。