3戸に1戸が空き家に!?これからの住まい選びの指針とは【専門家解説】

人口や経済が右肩上がりに成長を続けていた時代から、“マイホーム”を手に入れることは長らく人生のゴールの一つとされてきました。

しかし今、その人生観に問いが投げかけられています。すでに国内にある住宅の数が全世帯数を上回り、空き家率は年々上昇の一途をたどっているのです。これまでの“住宅の常識”が通用しなくなる時代に、私たちは何を羅針盤にして住まいを選んだら良いのでしょう。

お話を聞いたのは、日本の住宅が抱える課題を浮き彫りにした『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』(講談社現代新書)の著者で、都市計画がご専門の東洋大学理工学部建築学科教授 野澤千絵先生です。
これからの住まいについて一緒に考えてみませんか?

つくり続ける病と空き家の増加


画像:東洋大学理工学部建築学科教授 野澤千絵先生

―まず、現在の日本の住宅事情について教えてください。

「現在、日本の世帯総数は約5,245万世帯ですが、国内には既に約6,063万戸もの住宅が建っています。つまり日本は、住宅過剰状態にあるのです。なぜこのようなことが起こるのか。その背景には、戦後から高度経済成長期にかけて住宅の数が極端に不足していたために、政府主導で新築・持ち家を重視した政策が推し進められてきたことが背景にあります。

豊かさの象徴としての“マイホーム神話”が生まれたのもこの頃です。結果として、住宅供給戸数(住宅ストック数)は1973年頃に世帯総数を上回ったにも関わらず、建築は止まることを知らず現在に至るまで45年以上も積み上がり続けているのです。


画像:国土交通省社会資本整備審議会第36回住宅宅地分科会資料(2015年4月21日)より作成(一部改変)
―なぜ十分な数に達したにもかかわらず、住宅建設が止まらないのでしょう。

「住宅の建設には関連する業界が多いため、経済成長の一端を担う『ギア』としての役割を果たしており、相変わらず、『新築のマンション・戸建て』が売れ続けているからでしょう。日本では、住宅を資産と捉える傾向が強い上に、住宅ローン減税などの優遇措置もあるため、『住宅は買った方が得をする』という考え方が未だ根強くあります。人口は減少に転じているにも関わらず、新築戸建てやマンションの着工数は常に世界トップレベルを維持しているのです。

これに伴って、問題となっているのが“空き家”の増加。ある調査(※)によれば、このままの状態が続けば、2023年には約1,400万戸、2033年には約2,150万戸もの空き家が生まれると試算されています。これはつまり、3戸に1戸が空き家になるという驚愕の未来が待ち受けているということです。」
※野村総合研究所「News Release」2015年6月22日

空き家が住環境を壊す!?

―空き家が増えることは、なぜ問題なのでしょう。
「よく問題視されているのは、長らく放置された空き家が朽ち果てて台風で倒壊したり、植物が鬱蒼と茂って景観を害したりして、治安や衛生、安全を脅かすという理由からです。現在は、このような周辺に悪い影響を与える空き家は『特定空き家』に指定され、解体などを含めた行政による措置の対象となります。

しかし、新たに増加しているのが『特定空き家』のように極端に状態が悪いわけではないけれど、仏壇や荷物がある、相続の問題、遠方に住んでいるなどの理由で長期間にわたって適切な処置が行われることなく放置されている空き家です。これを私は『問題先送り空き家』と呼んでいます。

『問題先送り空き家』」がいけないのは、『街の流れを止めてしまう』という点でしょう。街とは本来、家に人が住んでいることを前提として設計されています。空き家の増加はその土地の再利用を不可能にし、人やサービスの健全な循環を妨げてしまうのです。結果として、人口減少によりスーパーや民間の様々な生活サービスが撤退に追い込まれるなど、“住みやすさ”が失われる事態が日本のあちこちで起こっています。

私がよく遭遇するのは、相続した実家を約20年間放置していたというパターン。住む予定もなく放置してきたけれど、子供に迷惑をかけたくないからとやっと重い腰を上げる。しかし、20年という年月は残酷で、実家はすでに売るに売れない状態になってしまっていて、固定費だけは掛かり続ける……。このような物件は『負動産』なんて呼ばれているんですよ。」

―空き家は個人的な問題だけではなく、街自体の機能を低下させてしまうのですね。

「そうですね。しかし、街全体に影響を与えるような事態を招いているのは、空き家だけには限りません。今後、深刻な状況を招くと懸念されているのが、都市部郊外に多い『新築住宅のバラ建ち』です。これは、中心部の空き家の売却や再建築が進んでいないにも関わらず、農地を虫食い的に潰しながら、新たな住宅地が拡大していく現象。

この傾向が今後も続くことになれば、(一定のエリアに対する)人口密度は低下し、道路や下水道などのインフラ、学校・病院などの公共施設、ゴミ回収などのサービスが非効率化します。そうなればコストの増加は免れず、将来的に『税金』となって住民一人ひとりにのしかかることになるのです。

街の中心部から離れた土地は安く、駐車場のことなどを考えると若い世代に人気があるのも分かりますが、その土地にはその土地の役割があります。効率的で暮らしやすい住環境には、ある程度の『街のまとまり』が不可欠であると考えます。」

住宅選びは「長期的な視野」を持って

―それでは、これから住宅を買おう考えている方はどのような物件を選ぶべきなのでしょうか。
「人にはそれぞれ違った価値観とライフスタイルがあるので、一概にこれというものをおすすめすることはできません。今回は、日本の住宅事情を考慮した上で、これからの住宅選びに大切な視点をいくつかお話しします。

① 歳をとっても暮らしやすいか

「家を買う時は、ついつい近い未来の欲求が先行しがちですが、『歳をとっても暮らしやすいか』というのは重要な視点です。若い時には気にならなかったスーパーや病院までの距離も、年齢を重ねるにつれ負担になる事もありますし、車利用を前提とした住宅立地は車に乗れなくなった際に自立した生活が送れなくなる可能性もあります。『高齢者が暮らしやすい』ということは、全世帯にとって暮らしやすいということですから、一つの基準になさってはいかがでしょうか。

② 将来売却する可能性を考慮する

「人生、何があるかは分かりません。家を買う際は、売却する可能性を考慮する必要があります。中でも重要な視点なのが、『高齢者世帯』に売れる住宅であるかどうか。これからの時代、総世帯数の減少に伴って住宅の需要自体は縮小しますが、逆に高齢者世帯は増加するからです。戸建てでも、マンションでも、しっかりと次にバトンタッチできる住環境と物件を選ぶようにしましょう。」

③ 立地を見極める

「現在、多くの市町村では人口増加施策の一環として住宅地の過剰な規制緩和が行われています。中には、活断層の上や津波被害が予想される土地にさえ住宅地が誘致されることもあります。

住宅購入の際は、多くの市町村で策定が進む立地適正化計画(都市再生特別措置法)における「居住誘導区域」内に立地している物件がおすすめです。これらは、災害やインフラ整備の問題を考慮した上で、人口密度を維持し、各種生活サービスや、コミュニティが維持されるように計画されたエリア。安全面に加え、居住地面積を無秩序に増やして街をスポンジ化させないためにも、その土地が住宅の建設にふさわしいか、ご自身の目で見極めてください。」

④ これまでの常識に捉われすぎない

「やはり将来的には、新築を購入したい思う方は多いと思います。それももちろん選択肢の一つではあるのですが、個人的には、中古市場を見ないのは非常にもったいないと感じます。多少古くても立地が良ければ、今後もそれなりの需要が見込めるうえ、リノベーションなどでご自身のスタイルに変えていくこともできるからです。

そして、人や物がより流動的になるこれからの時代、『住宅を買わない』というのも大きな選択肢の一つです。賃貸は『追い出されたら……』などリスク面に焦点が当たりがちですが、職場や学校の立地、ライフステージなどに合わせて住まいをいつでも変えられるというのは大きなメリットではないでしょうか。」

⑤ 「相続」や「合意形成」を意識して

「日本の住宅は買い放しの傾向が強く、建て替えや改修など次世代へのバトンタッチや、長く住み続けるための認識・枠組みが不足しています。実家などの相続が発生した際には、できる限り早い段階で売りに出すなど、速やかに住宅と土地が次のステップに進むための手続きに移ることが、個人資産と住環境を守ることにつながります。

また、近年人気の高い高層マンションなどの集合住宅は、戸数が多ければ多いほど建て替えや改修に伴う住民の合意が取れにくいという問題を抱えています。住宅を選ぶ際は、『合意形成』のリスクを含めて検討されることをおすすめします。」

終わりに

これからの住宅選びに必要なのは、これまでの住宅の常識に捉われない長期的な視野と住宅終末期の“出口戦略”であることが分かりました。次世代に負の遺産となるような住宅を残してしまわないか、自分たちの街が長期的に成り立つことができるか、我々一人ひとりが住まいと街への意識を高めていく必要がありそうです。

今回お話を聞いた野澤千絵先生の新刊、『老いた家 衰えぬ街~住まいを終活する』(講談社現代新書)が2018年12月18日に発売されます。本書は、「様々な住宅問題を抱える日本の中で、今後老いた家をどうしたらよいのか、道しるべを提示したい」という思いから著されたもの。ご興味がある方は、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか?

<プロフィール>

野澤千絵(のざわ ちえ)
東洋大学理工学部建築学科 教授
博士(工学)。専門は都市計画、建築・都市計画法制度、住宅政策。ゼネコンにて開発計画業務等に従事後、複数の研究期間を経て2007年より東洋大学理工学部建築学科准教授、2015年に同教授に。主な著書に『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』(講談社現代新書)、『老いた家 衰えぬ街~住まいを終活する』(講談社現代新書)共著に『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』(学芸出版社)、『都市計画とまちづくりがわかる本』(彰国社)など。