INDEX

  1. 見どころ①:青学・東洋・東海の「三強対決」
  2. 見どころ②:白熱のシード権争い
  3. 見どころ③:「箱根から世界へ。」東京五輪世代の活躍
  4. 【東洋大学】5年ぶりの王座へ。スローガンを体現する走りを
  5. まとめ

INTERVIEWEE

石井 安里

ISHII Ari

2001年 東洋大学社会学部応用社会学科図書館学専攻[現・メディアコミュニケーション学科]卒業。フリーライター。 東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を8年間続け、フリーライターに。「陸上競技マガジン」(ベースボール・マガジン社)への寄稿のほか、著書に「魂の走り」(埼玉新聞社)など。

見どころ①:青学・東洋・東海の「三強対決」

▲左から青山学院大学4年 森田歩希選手, 東洋大学4年 小笹椋選手, 東海大学3年 館澤亨次選手(©Kaede.H)
   
青山学院大学、東洋大学、東海大学の3校が「三強」と目される今年度。10月の出雲駅伝と11月の全日本大学駅伝ではいずれも青山学院が優勝を飾り、東洋・東海が2、3位を分け合う形となりました。両校とも、先の2つの駅伝ではベストメンバーを組むことができませんでしたが、箱根までにはケガをしていた選手も復帰し、万全の状態で青山学院大学との勝負に臨めるはずです。「三強対決」からは目が離せないでしょう。
    
注目はやはり、すでに「学生駅伝三冠」に王手をかける青山学院大学。さらに今回の箱根駅伝は、長い歴史のなかでも中央大学と日本体育大学しか達成していない「5連覇」がかかっています。
   
青山学院大学の強みは、第一に選手層。今年度のチームは、キャプテンの森田歩希(ほまれ)選手、前回大会で最優秀選手に選ばれた林奎介(けいすけ)選手など、4年生が充実しています。また、「山を制する者が箱根を制す」と言われる箱根駅伝において、5区の山上り、6区の山下りの2区間にも絶対の自信を持っています。
    
もう一つは、レースでの崩れない安定感。初出場の選手であっても区間賞を取る、選手全員が任された区間で上位の走りをする。日頃のトレーニングで鍛え上げられていること、激しいチーム内競争を勝ち上がってメンバーに入ったからこそ成せる業でもあります。前回大会は往路を東洋大学が制し、青山学院大学は翌日の復路で逆転しました。6区、7区、8区で大差をつけましたが、今大会もこの3区間が最大のポイントです。ここで後続の大学を引き離せば、一気に勝利に近づくでしょう。「学生駅伝三冠」と「箱根駅伝5連覇」、2つの偉業を同時に成し遂げることはできるのでしょうか。  
          
前回の箱根駅伝では、初出場の1、2年生が7人というフレッシュな顔ぶれで臨んだ東洋大学。1区西山和弥選手(現2年)の区間賞で波に乗り、その後の3区山本修二選手(現4年)も区間賞の走りで一度も首位を譲ることなく、4年ぶり6度目の往路優勝を果たしました。当時のメンバーは9人も残っています。今大会も先手を取って、必勝パターンに持ち込みたいと考えているはずです。
    
4月には今西駿介選手、渡邉奏太選手(共に3年)、西山和弥選手(2年)の3人が、スイスで行われた世界大学クロスカントリー選手権に日本代表として出場し、渡邉選手が4位。6月に山口県で開催された日本選手権では、10000mで西山選手が4位、相澤晃選手(3年)が8位、3000m障害で小室翼選手(3年)が8位に入り、日本のトップ選手がそろうレースで3人が入賞。チームは大いに活気づきました。さらに、夏合宿を経て各選手がそれぞれ力をつけてきました。
   
2009年の第85回大会で初優勝して以来、90回大会までの6大会で4度の総合優勝を飾っている東洋大学。前回まで10年連続で総合3位以内に入るなど、本番での強さは他大学や駅伝関係者の誰もが認めるところです。酒井俊幸監督が就任10年目の節目であり、再び黄金期を築くための1年と位置づける今回、出雲駅伝と全日本大学駅伝では、「レース本番で力を発揮できる」という長所が生きませんでしたが、箱根では本来の力を見せてくれることでしょう。
   
そして、速さに加えて強さが備わった東海大学これまで、出雲駅伝と全日本大学駅伝の優勝経験はありますが、箱根駅伝では2004年の第80回大会の2位が最高で、悲願の初優勝に挑みます。1500メートルの日本代表として今夏のアジア大会に出場した館澤亨次選手など、3年生にトップランナーが多くそろい、注目を集めています。短い距離を得意とする「スピード型」のチームとしての前評判が高いのですが、今大会に向け、1区間20㎞以上の距離に対応できるトレーニングを積んでいます。
    
この4年間、最終的には青山学院大学の圧勝で幕を閉じていますが、今大会は終盤までもつれるレースを期待しています。
   

見どころ②:白熱のシード権争い

▲2018年10月に行われた第95回箱根駅伝予選会の結果(©Kaede.H)
    
箱根駅伝では、優勝争いのみならず、10位までに与えられるシード権争いにも注目です。シード権を取れなかった大学は、10月に行われる予選会から出直します。予選会を控えていると、そこに一度ピークを合わせることにもなり、予選会があるのとないのとでは、年間のスケジュールが大きく変わってきます。
    
前回大会では“平成の常勝軍団”と称された強豪・駒澤大学がまさかの12位で、この秋は9年ぶりに予選会から勝ち上がってきました。今大会は青山学院大学、東洋大学、東海大学の三強に続き、その駒澤大学や、出雲駅伝と全日本大学駅伝で共に5位に入った帝京大学の上位進出が有力視されているものの、実力伯仲。大混戦が予想されています。中位~シード権争いの渦中にいる大学の監督からは、「5~6番もあれば、15番くらいもあり得る」という声も聞かれるほど、各大学の差が無い状況です。  
    
▲2018年 箱根駅伝予選会で圧巻の走りを見せる駒澤大学陣(©Kaede.H)
   
8年前の第87回大会では、ゴール直前まで8位から11位の4校が争う稀に見る大接戦のなか、10位の国学院大学と11位・城西大学の差は大会史上最少の3秒でした。前回大会も、10位の中央学院大学と11位の順天堂大学の差はわずか14秒。トータル200㎞以上をつないで、秒差で明暗が分かれることもある過酷な戦いです。
   
十数校がひしめくシード権争いから抜け出すポイントとなるのは、山の2区間と、復路終盤の長距離区間である9区、10区です。いずれも、差がつきやすい区間です。特に9区、10区の順位変動はそのままチームの最終順位につながるので、最後まで目が離せません。それぞれの大学が5区と6区、9区と10区をどんな状況で走っているのか、個人記録、前後の大学とのタイム差、位置関係を把握しながら観戦するのもいいかもしれません。
   

見どころ③:「箱根から世界へ。」東京五輪世代の活躍

▲全日本インカレ3000m障害で4連覇を達成した順天堂大学4年 塩尻和也選手(©Kaede.H)

1920年、世界と戦える選手の育成を目指し金栗四三(かなぐり しぞう)によって創設された箱根駅伝。2018年は、過去に箱根を駆けた2選手がその思いを繋いだ1年となりました。2月の東京マラソンで設楽悠太選手(東洋大学卒→HONDA)が、その後、10月のシカゴマラソンで大迫傑選手(早稲田大学卒→NIKE)が相次いでマラソン男子日本記録を樹立。16年間止まっていた時計の針を動かしたのです。
   
年が明けて2019年を迎えると、東京五輪の開幕があと1年に近づきます。今回の箱根駅伝にも2016年リオデジャネイロ五輪代表だった塩尻和也選手(順天堂大学4年)をはじめ、東京五輪を目指す選手たちが出場します。「花の2区」での各校のエースの競演も楽しみにご覧ください。
         

【東洋大学】5年ぶりの王座へ。スローガンを体現する走りを

▲2018年 全日本大学駅伝での東洋大学3年 相澤晃選手(©Kaede.H)
    
東洋大学が最後に優勝したのは、2014年の90回大会。優勝を知る世代はもういません。時は巡り、追う立場となり、再び黄金期を築くためのチーム作りが始まっています。総合3位以内を10年も続けながらも、まだ発展途上にあるといえるでしょう。
    
総合優勝を果たすためには、レースの主導権を握ることが大前提です。前回大会の往路は完璧に近いレース内容であり、4区終了時に2位の青山学院大学に2分以上の差をつけました。ただ、相手の陣容を考えても、今大会は山に入る前の段階でそこまでの大差をつけることは難しい。酒井俊幸監督が「秒数を重ねていきたい」と話すように、1区間につき1秒でも、5秒でも、10秒でも重ねていけば、じわりじわりと差を広げることにつながり、相手には堪えるはずです。  
     ▲2018年 出雲駅伝で激走する東洋大学2年 西山和弥選手。その腕には「怯まず前へ」の文字が。(©Kaede.H)  
   
東洋大学は2011年の第87回大会で早稲田大学に史上最少差の21秒差で敗れて以来、一人ひとりが“1秒”を大切にしようという思いから「その一秒をけずりだせ」というチーム・スローガンが誕生しました。5年ぶりの王座奪還に挑む今大会は、まさにそのスローガンを体現するような走りが求められます。
    
過去の優勝時には、各選手がチームの指針である「怯まず前へ」を胸に刻み、どんな状況でも攻めの走りをしてきました。そうしたひたむきな選手たちの姿に大学のカラーを感じるファンの方も多いことでしょう。そして、画面を通じてでも伝わるメッセージがあるのだから、諦めない姿勢を見せる――これこそが酒井監督の就任以来、東洋大学が目指してきた選手像であり、東洋大学らしさの象徴です。今大会もハイレベルな戦いが予想されますが、酒井監督は「高いレベルで戦えるチャンスだと思って臨みます。これまでにも東洋大学が優勝したときには、高いレベルのレースをしてきましたし、箱根駅伝の優勝とはそういうものです」と、選手たちと心を一つに高い壁に挑みます。  
     ▲2018年 出雲駅伝での東洋大学4年 山本修二選手(©Kaede.H)  
    
各大学には、「カギとなる区間、選手」が必ず存在するものですが、今大会の東洋大学はまさに全区間、全選手がキーマンです。副キャプテンの山本修二選手(4年)、相澤晃選手(3年)、西山和弥選手(2年)といった学生でもトップレベルの「三本柱」を擁していますが、キャプテンの小笹椋選手(4年)を中心に、「主力に頼らないチーム」を目指してやってきました。エース区間も、つなぎ区間もない、鉄紺・東洋のチーム力に注目してください。
   

文・石井安里
     

まとめ

毎年、たくさんのドラマが生まれる箱根駅伝。チームのために、応援してくれる家族のために、そして何より自分自身に勝つために――。長く辛い練習を続けてきた若者たちの放つ一瞬の輝きは、多くの人の心を掴んで離しません。沿道で直接応援するもよし、テレビやラジオで応援するもよし。皆さんも今回の「見どころ」を参考にして、思い思いに箱根駅伝を楽しんでください。
   
東洋大・山本修二 父に贈るぞ区間賞(特集:第95回箱根駅伝)|「まるごと大学スポーツサイト『4years.』」で掲載中    
    

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