変わる情報伝達の手段。大学が「オウンドメディア」を導入する理由とは?

インターネットやTwitter、FacebookなどのSNSを通じ、誰もが気軽に情報収集・発信を行えるようになった現代。「溢れる情報の中で、いかに自社を広報していくか」という問いは、広報従事者だけではなく、多くの方々が抱える共通の課題といえます。

この課題を解決するための新たな一手として、近年注目されているのが「オウンドメディア
と呼ばれるマーケティング手法。

まさにこの記事を展開しているオウンドメディアが東洋大学の「LINK UP TOYO」。そこで今回は、東洋大学広報課長の榊原康貴さんに「オウンドメディアとは何なのか」、そして「導入の理由」を伺いました。

東洋大学のオウンドメディア「LINK UP TOYO」

―オウンドメディアを導入したと伺いましたが、オウンドメディアとはどのようなものなのですか?

「オウンドメディアとは、ざっくり言うと情報発信のための独自のWEBサイトのことです。こう言うと、『これまでも大学のWEBサイトがあったじゃないか』と思われるかもしれませんね。

大学のWEBサイトとオウンドメディアの大きな違いは、『情報の形』にあると言えます。大学のWEBサイトの情報は大学からの一方的な情報発信であるため、どうしてもユーザーは受験生や在学生、卒業生、教職員などの関係者に限られてしまいます。

その一方で、オウンドメディアは世の中のニーズに合ったコンテンツ(記事)を定期的に提供します。世の中の『知りたい』というニーズのある所に『情報』を分かりやすい形で届け、ユーザーの課題を解決したり、共感を得ることで、これまで東洋大学と接点のなかった方も含めた不特定多数と直接的な関係を築いていく、これがオウンドメディアの目的なのです。」

―なるほど。これまでの大学WEBサイトとは、発信する情報の形式が違うのですね。東洋大学の「オウンドメディア」について教えてください。

「東洋大学では2017年7月から、この『LINK UP TOYO ―人と歴史をつなぎ、未来へ―』というオウンドメディアを立ち上げ、本学の教員、在学生、卒業生などへのインタビュー記事を中心に掲載しています。いくつかの大学でもオウンドメディアを導入していますが、本学のオウンドメディアは基本形というか、スタンダードなものを目指しています。たとえば、次にご紹介するのは、『LINK UP TOYO』内の記事の一つで、悪夢を見る理由や良い夢を見る方法などを社会心理学科の教授が解説したものです。
 

夢は自分の記憶から作られる?悪夢の意味や良い夢を見る方法を臨床心理士に聞いてみた」(「LINK UP TOYO」)
 

私たちは何かしらの情報を得ようとするとき、インターネットで検索して調べることが多いですよね。この場合、“悪夢の理由や良い夢を見る方法を知りたい”というニーズをキーワードとして、自然とこの記事にたどり着くことを狙っています。

このように、東洋大学の持っている有益な『知識』や『情報』を世の中の様々な興味・関心(ニーズ)に合わせた形で発信することによって、より広く、より多くの方々に本学を知っていただくきっかけをつくりたい。それがオウンドメディアならできると考え、『LINK UP TOYO』をスタートさせたのです。
 

大学に求められる社会的役割の変化


画像:卒業生の落語家・三遊亭鬼丸さんへのオウンドメディアでの取材の様子

【動画】初心者でも大丈夫!三遊亭鬼丸さんの「落語のすすめ」(LINK UP TOYO)

―「LINK UP TOYO」のターゲットは広く一般の方々なのですね。それには理由があるのですか?

「もちろんです。少しビジネス的な観点からのお話になりますが、今後、日本の18歳人口はさらなる減少が見込まれています。しかしその一方で、全国の大学数は依然として多く、国立、公立、私立を含めて782校もあります(文部科学省:『平成30年度学校基本調査』より)。

大学は『選ばれる時代』になっているのです。そのような状況で、これからの大学には『教育』『研究』に加え、その成果をいかに一般社会に価値として還元できるかという『社会貢献』の重要度が増すと言われています。

これまで以上に大学がその価値を社会に還元していくためには、もはや『大学』という限られた枠の中で完結していてはいけません。『LINK UP TOYO』のターゲットが広い理由もここにあります。私たちの広報活動も、世の中の流れに合わせて常に変化し続ける必要があると思っています。」

―大学に求められる社会的役割は多様化しているのですね。実際に「LINK UP TOYO」を運用してみていかがですか?

「立ち上げ当初は、正直戸惑うことも多くありました。というのも、企画から公開までのスピードが紙媒体の倍以上ですから、そのスピード感に慣れるのが大変でした。

しかし、企画・編集作業のスピードが上がれば、当然扱う情報の鮮度は上がっていきます。『LINK UP TOYO』を始めたことで、世の中で話題になったことや旬な情報を逃すことなく広報に役立てていこう、という意識が広報課全体として高まったことは大変良い変化だと思っています。

また、WEBは紙媒体と違い、読者の反応が見えやすいという点も我々のモチベーションになっています。読者の方からの意見や感想で気づく場面も多くあるのです。」

社会との“橋渡し役”を目指して


画像:広報課に飾られた広告や出身著名人のグッズやサインなど
―ありがとうございます。少し話は変わりますが、企業ではなく「教育機関の広報」と聞くと、失礼ながら何をしているのか分からないイメージがあります。大学広報の役割とは何でしょうか?

「そうかもしれませんね。『大学広報』の役割は、大学の情報や魅力を社会に向けて適切に発信することで、大学のブランドイメージを醸成し、それを日々守り、育てていくことだと思っています。

本学を例に考えてみましょう。みなさんは『東洋大学』にどのようなイメージをお持ちですか?受験生の親御さん世代より上だと、『文系の大学』、『男っぽい』、もしくは……『スポーツが強い』などでしょうか。しかしながら、多くの方の持つイメージとは裏腹に、東洋大学の全13学部のうち、約半分の6学部は理系であり(文理融合の学部も含む)、女子学生の比率も約42%と極めて高いのです。

このようなイメージの齟齬が生じる原因には、世の中に旧来の東洋大学のイメージがそのまま引き継がれ、刷新しきれていないことにあります。伝統を大切にしながら、東洋大学の現在の姿を分かりやすく、かつ丁寧に伝えていくことで、世の中のイメージと本来の姿の間にある乖離を少しずつ埋めていく。これが私たち、広報課の命題となっています。オウンドメディアの導入はその過程の一つとも言えますね。

―そうなんですね。広報課の皆さんは普段どのような業務を行っているのですか?

「私たちの日常の業務には、教員への取材やスポーツ関係の公開練習等でのメディア対応、学内広報誌などの制作物の作成、公式Webサイトや『LINKUPTOYO』の制作・管理、メディア媒体への広告出稿などがあります。

大学にはさまざまな学部や部署があり、広報はそれらと連携して、それぞれの魅力や価値を発信していかなければなりません。

まずは、学生数3万人、卒業生数30万人の大きな組織の中で、『どこで』『何が』行われているかを把握する努力をする。その中から価値や魅力を見いだして、最終的に関係各所とすり合わせを行いながら広報の方向性を考えていくのです。これが、広報の根幹をなす重要な仕事なんですよ。
 


画像:「LINK UP TOYO」のトップページと大学報

―広報は意外と地道なお仕事なのですね。「大学広報」ならではの魅力はありますか?

大学広報ならではの特徴であり、魅力でもある点は、やはり学生の成長を間近に見られることですね。本学には注目度の高いスポーツ選手が多数在籍しており、彼(彼女)らとは取材などで関わる機会が多いです。

例えば、2017年の陸上・日本インカレで、桐生祥秀選手(当時:法学部4年、現:日本生命所属)が100mで9.98秒の日本記録を出したときは広報課メンバーが現地の福井にも行っていましたが、その後の取材対応やメディアの出演時の随行など、対応をすることになります。高校を卒業したばかりの入学時から桐生選手のことを見てきた私たちからすると、競技者としての成長と学生としての成長を実感する機会がとても多かったです。特に、取材を受ける姿やその発言などからも一人の青年としての自覚を感じることができました。私たちもこうした取材対応を通じて、マネジメントやプロデュース力を養います。まさに彼ら彼女らと二人三脚で私たちも成長していくのです。

学生を見守る立場としては、結果はさておき、『のびのびと試合をして、怪我なく元気に帰ってきてほしい』という気持ちです。これは、運動部の学生に限らず、すべての学生に言えることです。東洋大学には元気で活発な学生が多く、彼ら彼女らのエネルギーは私たちのモチベーションにもつながっています。」

―「LINK UP TOYO」、そして東洋大学広報課の今後の展望を教えてください。

「現在は、『LINK UP TOYO』の運用を開始して1年が経過し、だんだんと安定した読者数を獲得できるようになりました。これからも効果的な運用で、本学の持つ知見を多くの皆さんの暮らしに生かしていただきつつ、東洋大学のことを少しでも知ってもらうきっかけを作れたら、と思っています。

東洋大学には、まだ世に知られていない魅力がたくさんあります。これからも社会にとってなくてはならない大学を目指し、『LINK UP TOYO』が社会と大学をつなぐ“橋渡し役”となるよう尽力していきたいです。

まとめ

オウンドメディアは、情報の形を変えてニーズに合わせたコンテンツを提供することで、多くの方々と“つながる”ための手段の一つだったのですね。教育機関でありながら積極的な広報活動で大学独自の価値を高めていこうとする東洋大学。その広報課には、これからの時代を見据える“新風”が吹いていました。
 

<プロフィール>

東洋大学 広報課
1970年11月1日、「広報調査課」として発足。1987年4月1日、東洋大学創立100周年に現在の「広報課」という名称へ。まもなく迫る2020年は、奇しくも広報課の発足50周年。
 
 


榊原康貴(さかきばら こうき)
東洋大学 総務部次長兼広報課長
東洋大学職員として、教務、入試、専門職大学院設置、就職・キャリア支援、通信教育などを経て、2012年6月より広報課へ。学校法人全体の広報活動や大学ブランディングに注力。