多様化する女性の「働き方」。産業カウンセラーに聞く女性の悩みと、自分らしい生き方の選択

結婚、出産、育児など、ライフステージが変わっても働き続けることを選択する女性が増え、女性の「働き方」は多様化しています。

そのなかで、生活環境や価値観、仕事への思い入れなど、働く女性たちの考え方もまた、個人によって十人十色。自分の「働き方」を模索する女性たちは、どのようにして自分の進むべき方向性を定めていけばよいのでしょうか。

今回は、APC朝日パーソナリティ・センター心理相談室長であり、「女性のメンタルヘルス」を専門に産業カウンセラーとして活動する 東洋大学文学部教育学科出身の阿久津まどかさんを訪ね、働く女性の悩みや、課題を解決するヒントを伺いました。

『仕事』に悩む新社会人。女性に多い悩みの特徴とは?


画像:APC心理相談室長 阿久津まどかさん

「ここ数年、女性からの相談でもっとも多いのは、人間関係での悩みです。女性は男性に比べると“協調”を重視する傾向にあり、『職場の上司・同僚との関係がうまくいかない』といった悩みがよく聞かれます。特に20代からは、『職場にうまく適応できない』という相談がほとんどで、最近は人間関係が原因で鬱状態になり、休職してしまう方も少なくありません。

社会に出ると、周りから求められる『自分らしさ』や『女性らしさ』に息苦しくなることが増えます。自己主張をすると『女性らしくない』という反論があったり、“周りから求められている自分”と“本当の自分”との間に違和感を覚えてしまうことが要因としてあります。」

――それは多くの女性が感じていることかもしれませんね。

「そうですね。さらにそうした悩みは、ライフステージが変わるごとに悩みの種類が変わっていきます。結婚したら家庭に専念するのではなく、今は仕事を続ける選択も一般的になりました。そうして選択肢が増えることで、今度は『選択』という新たな悩みが生まれるのです。」

30代からの「働く女性」が抱えやすい悩み

「30代頃から次第に女性が悩むようになるのが、『選択』です。結婚するかしないか、結婚するなら子どもの出産時期を考えたり、産後のキャリアをどうやって継続させていくかなど、結婚・出産・キャリアの将来を悩みはじめます。やはり結婚・出産というライフステージの変化は、女性にとって“生活”や“キャリア”にも大きく影響してくるものだからです。

最近は『結婚』を機に仕事を辞める方は少ないですが、『出産』を機に辞める方は相変わらず3〜5割程度いらっしゃいます。社会が変わってきているとはいえ、その背景には仕事を継続したくてもできない状況があります。」

――いわゆる、『待機児童』や『ワンオペ育児』などと言われていることですね。

「はい。こうした問題の背景には“女性が家事・育児の中心になっている”という現実があります。仕事に出たとしても、家庭を優先してパートなどの非正規雇用で働いている方も多いですよね。

そうかといって、正社員で働いていても、その環境の中で仕事をするには『時短勤務などで仕事をセーブせざるを得ない』という状況があって、仕事も子育ても中途半端になってしまうのではないかというジレンマで悩んだり、子どもを預けて働くことに後ろめたさを感じてしまう場合もあります。『出産』によるライフステージの変化で、女性はさまざまな面で危機的状況に直面しやすくなるんです。」

40代からの「働く女性」が抱えやすい悩み

「40代になると、仕事を続けている方の中には役職に就く方もいらっしゃいます。家庭や職場など、どこに行っても中心的な人物にならざるを得なくなり、家庭と仕事の両立にプレッシャーを感じることが増えます。

また、この年代からもっとも増えるのが、子育てがひと段落したときに『これから自分が何を軸に生きていくか』という悩みです。女性は出産から子育てまで、ものすごいエネルギーを費やしているわけですが、子どもは成長しそのうち親から自立していきます。そのとき、自分が寄って立つものがなくなると、いわゆる“空の巣症候群”という一種の鬱状態になってしまう場合もあるのです。

――年齢に限らず、『選択』できることに悩むのですね。

「『選択できること』『自由であること』は、一見するとメリットのように思われがちですが、多くの選択肢から何かを選ぶのは、実はものすごくストレスフルなことなんです。良くも悪くも選択肢が少なければ、選ぶことは簡単です。

かつては、女性は早くに結婚して子どもを産んで、出産する子どもの人数も多かったので、子育てに人生のたくさんの時間を費やす方が多かったと思います。現代は寿命が伸び、出産する子どもの人数も減ったので、子育てにかかる時間は少なくなってきています。そして、『自分の時間をどのように過ごすか』という新しい課題・悩みが、ここ数年で一気に増えているのです。」

悩むのは大きな飛躍の第一歩。答えは必ず“自分の中”にある

――私たちは多くの選択肢のなかから、どのように『選択』していけばよいのでしょうか。

「『自分がどうしたいのか』を考えることが重要です。当たり前のことのように感じますが、私たちは『普通は』とか『みんなは』とか、他者と比較して自分の外に理想を見がちですが、大事なのは自分の内側を見ることです。内に秘めている自分の欲求に気がつくことが大事であり、その答えは自分の中にしかありません。

それも目先のことだけではなくて、『自分がどんな生き方をしたいか』『どんなメッセージを届けたいか』など、人生の“大目標”を自分で考え、意識することが大切です。」

――まずは、自分の生き方を考えることが大切なのですね。

「そうですね。この目標が決まれば、あとは『その目標に到達するために、どういう選択をするか』という手段だけが残るので、『選択』の負担は少なくなるはずです。

たとえば選択する際にも、『仕事で夢を実現させたい』という大目標がある子どものいる女性でしたら、夫婦間で『私はこうやって働きたいと思っているけれど、どう思う?』という、目標を達成させるための話し合いを行い、自分と相手との希望をコミュニケーションで擦り合わせていくことが、とても大切です。」

――人生の『大目標』を考えるタイミングは、どういうときなのでしょうか。

「悩んでいるときに考えるのだと思います。悩みがなくて順風満帆なときは、何も考えることがありません。悩んで立ち止まったときに、自分が本当に何を求めていて、何が大事なのかを見出していくことが多いのです。

人間関係で悩んで休職したとしても、自分の意思が明らかになればまた歩き出せるようになります。だから、そうして立ち止まる時間もマイナスではありません。悩んでいる時間は、次に大きくジャンプをするために、屈んで力を溜めている段階なのです。」

――ひとりで考えても答えが出ないときは、どうするのがよいのでしょうか?

「悩んでいるときは、どうしても視野が狭くなって、ひとつの結論しか見えなくなってしまいがちです。そうしたときは、自分のことをオープンに話すことが大切です。あとは行動してみること。行動すると視野が広がるので、新たに見えてくるものがあると思います。」

――行動とは、たとえばどのようなことがありますか?

「人に会うのもそうですし、思い切ってカウンセリングにいくのもひとつの方法です。そのほかにも自分の好きな音楽を聴きに行く、映画を観に行くなど、本当に身近なことでかまいません。

そうした行動を起こすきっかけにしてほしいのが、自分の心と体の声です。眠れなかったり、倦怠感があったり、身体の不調もSOSのひとつです。そうした身体のSOSを見逃さないようにすること、そして些細なことでも信頼できる人に自分のことを話すことを普段から意識してほしいですね。」

『みんな、同じように悩んでいる』。女性産業カウンセラーに学ぶ「女性の働き方」

――阿久津先生は、ライフステージの変化で悩まれましたか?

「もちろん悩みました。私の場合はキャリア(仕事)を中心に結婚・出産を考えたので、相手に求めた結婚の条件も“協力してくれること”と“共感してくれること”、この2点だけです。でも、この答えに辿り着くまでにはかなり自問自答を繰り返しました。

結婚後は夫に相談しながら擦り合わせをして、ひとつひとつ障壁をクリアにしていきましたが、それでもやっぱり悩みましたし、いまだに悩むことはあります。しかしながら、それも自分ひとりの問題ではないので、上司や夫、母など周りを頼りながらなんとかやってきている状態です。」

――周りを頼るのも大切なのですね。

「やはりひとりでは時間も体力も限られてしまいます。真面目で一生懸命な人ほど『家事も育児も仕事もすべて完璧に!』となりがちですが、ひとりでは限界があるので、ある程度割り切って周りの人に頼ることは大切ですね。」

――阿久津先生は、自分の大目標をいつ決めたのですか?

「30代のときでした。私は40代で子どもを産んでいるので、30代に自分ひとりで考える時間がすごく長かったんです。そのなかで、私自身も『皆は結婚して子どもがいるのに、自分は……』と悩みました。ですが、自分の生き方の大目標が決まってからは、『周りがどうであれ自分はこうしたい』とか『私はこれでいいんだ』と思えるようになりました。

子育てもこれに似ていると思います。ネットにはいろいろな情報が流れているので、教育方針などに迷ってしまうことがあるかと思います。でも、自分の子どもに『最終的に、これさえ身につけてもらえればいい』『こう育ってほしい』というものが伝わればそれでいいのだと思います。」

――阿久津先生の大目標を教えてください。

「『すべてに意味がある』ことを伝えたいと思っています。カウンセリングには、本当にいろいろな方がいらっしゃいます。親に愛されなかった方やイジメに遭われた方……。皆さん自らを振り返っては『こんな人生なんて』と否定されるんです。

けれど、『そういう経験をしたからこそ見える世界がある』と思うんです。これはもちろん簡単に言えることではありませんが、だからこそ『自分が自分で良かった』と思ってもらえるように、それを伝えられる人になりたい。そして、自分もそれを感じながら生きていきたいと思っています。」

――最後に、すべての『働く女性』にメッセージをお願いします。

「悩んだら、まず行動することと、信頼できる人に自分のことを話してみることを意識して、『自分の答え』を探してみてほしいと思います。そうして『自分の答え』がみつかったら、あとは周りの人といかに擦り合わせていくかが大切です。しかしながら、年齢や性別が違えば、自分の当たり前は相手にとっての当たり前ではありません。そこをコミュニケーションで擦り合わせていくことが重要です。

女性ならではの良さのひとつに、『柔軟性』があります。私たち女性は『ひとりの社会人』として、そして『妻』『嫁』『母』と境遇によっていろいろな顔を短い時間の中で使い分けなくてはいけません。それができるのも女性ならではの良さであり強みなので、周りとうまくコミュニケーションをとって、自分らしい働き方を選択してほしいと思います。」

<プロフィール>

阿久津 まどか(あくつ まどか)
1996年 東洋大学 文学部 教育学科 卒業

APC朝日パーソナリティ・センター心理相談室長として、心理カウンセリングを行うほか、学院講師として後進の育成に力を注ぐ。また、企業や団体などでの講演活動も行っている。プライベートでは一児の母。日本女性心身医学会会員、中央労働災害防止協会登録心理相談員、(社)日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー