【対談】トップ走り続ける桐生祥秀選手vs10代戴冠へ一直線の藤井聡太四段

今年に懸ける思いを文字にした色紙を手にする藤井聡太四段(左)と桐生祥秀選手(古厩正樹撮影)

昨年、陸上界と将棋界で大記録が生まれた。桐生祥秀選手(22)が日本学生対校選手権100㍍で9秒98の日本記録を樹立し、日本人で初めて「10秒の壁」を破った。史上最年少棋士の藤井聡太四段(15)はデビュー以来負けなしで、30年ぶりに将棋界最多連勝記録を更新する29連勝を達成。

陸上界と将棋界の〝2人の若き天才〟に、今年に懸ける思いや2020年東京オリンピック、そして、女性観について語り合ってもらった。(司会 産経新聞論説委員・森田景史)

――新年おめでとうございます。偉大な記録を達成されて迎えた新年です。

桐生「陸上界ではこれまで、10秒を切るのは誰か、という話題が一番でした。次の話題は何だろうと、自分の中でも楽しみができました。桐生という名だけになるのか、他の方々が出てきて勝負するのかという楽しみもあります。頑張りたい。」

藤井「昨年はたくさんの貴重な経験をさせていただき、大きく成長できた一年でした。気持ちを新たに、一歩一歩強くなることを目指していきたいと思います。」

――お互いの大記録をどう感じますか。

    画像:「今年は社会人1年目。しっかり成績を残したい」と話す桐生選手(古厩正樹撮影)

桐生「すごいと思いました。私は日本選手権で2連覇もしたことがないのに〝29連覇〟なんて。藤井さんは連勝中、例えば10連勝のとき、ちょっと余裕があるような気持ちはあったんですか。陸上は予選があり、ちょっとここで休憩しても勝てるな、とか。」

画像:「10代のうちにタイトルを取れるだけの実力をつけないと」と抱負を語る藤井四段(古厩正樹撮影)

藤井「将棋は一局一局の勝負で、最終的に勝ち負けは決まります。それまでの一手一手の積み重ねが勝ち負けにつながってくるので勝敗は意識せずにやってます。桐生さんの9秒98は、今まで10秒の壁というのがずっと破られていなかったので、とても偉大な記録だなと思いました。」

――桐生さんでいえば、予選、準決勝は相手によって流すことがある?

桐生「体力というより、気持ちの部分です。これが一番の勝負だというとき、『予選、準決勝でセーブしたから、まだまだ余裕があるぞ』と、自分のために残しておくんです。」

藤井「将棋は一局が長いので、多少、相手の手番のときは集中を緩めたりすることはあります。」

――桐生さんは10秒間で持っているものを全部出さなければいけない。

桐生「好きでやっているので厳しいとは思っていません。予選が終わって決勝まで2、3時間空くと、陸上のことをあまり考えないです。」

藤井「将棋は一手のミスで、それまで積み上げてきたものが一瞬にして崩れ去ってしまいます。ただ、最初から結果というものを認識していますので、一つ一つの局面で最善を追求していきます。特にプレッシャーは感じていません。」

――自分が速くなっている、強くなっていると感じますか。

画像:リオ五輪2016陸上男子400メートルリレー・決勝 日本が銀メダル

桐生「陸上はスポーツの中で一番分かりやすいんです。サッカーをやっていたんですが、サッカーは自分がうまくなったのか分からない。陸上はスタートしてゴールしたらタイムが出ちゃう。自分の成長が一番分かりやすい。それが僕自身、楽しいです。」

藤井「読みの正確さを上げるために詰め将棋などは毎日、解いてます。陸上のように数字で出るわけではないですが、自分の感覚として、前より良い手が指せているなということはあります。」

――ニュースの主役になっています。

桐生「自分を注目していただいているということはうれしいです。いろいろなライバルがいて、自分が大きく報道されるとうれしいですし、逆にもっと大きく報道してほしいとか考え、頑張りたいのもあります。」

藤井「自分でそんなに取り上げられているという実感はなくて。でも、将棋に興味を持ってくださる方が増えてくれるのはうれしいです。」

―桐生さんは、平成25年に10秒01を出され、9秒という期待が高まった。その間、けがをして、ライバルが出てきました。

桐生「けがをしたときは、またあのフィールドに戻りたいという気持ちがあります。勝手に自分の中でドラマをつくるんです。日本人って、良いときがあって、逆に下がってしまうというのが好きじゃないですか。『どん底でも、また上がったらニュースになるんじゃないか』と考えたりしてモチベーションを保つとか。」

――藤井さんはスランプは経験していないのでは?

画像:最年少の藤井四段が最年長加藤九段と対局

藤井「長く指していれば負けが込むということもあると思います。そのとき、偶然に負けが込んでいるだけなのか、精神的な要因がかかわっているのか、なってみないと分かりません。そのとき、切り替えや心の持ちようが大事になってくると思います。」

――桐生さんはサッカーでゴールキーパーもされていました。

桐生「サッカーもやってましたし、肩も強い方で、90㍍以上は投げられます。水泳以外はできる自信はあります。泳ぐのだけはだめなんです、陸専門なんで。水泳は25㍍ぎりぎり泳げるかどうか。」

――勝負の中で力を出し切るために大切なことは?

桐生「僕、気分屋なんです。自分でも分かっています。テンションが良いときと悪いときで差が激し過ぎて。テンションをずっと上にすることは難しいですが、その差をだんだん狭めていければ。」

藤井「将棋は自分の実力以上のものは出ないというか、どうしてもミスはしてしまいます。ミスをしたときにどう立て直すかという力が問われてくると思います。」

――トップならではの苦しみや、目指している人は?

桐生「日本で9秒98を出し、タイム的にはトップですが、日本人だけでやる競技ではないんです。海外の選手が主役になっている種目なので、まだ、トップに立っている自覚はない。スタートラインにやっと立った。苦しみより、まだまだ伸ばしたいというのが多いです。」

藤井「羽生(善治)棋聖が目標ではあります。まずは本当に自分の力を上げていかなければ活躍ができません。連勝の過程で多くの方に注目をいただきましたが、まだ実力的にはトップには及ばないので、その差を埋めるように頑張っていきたい。自分の中で実力を高めていきたいというのが強いですね。」

桐生「ところで藤井さんは女の子とか、恋愛とか興味ありますか? 女の子は好きなんですか?」

藤井「(笑いながら)す、すごい質問ですね。」

桐生「モテたいという男なら誰しもある感情は。」

藤井「(口ごもりながら)まあ、あ、あ、でも、自分は人間的にも…。まずは将棋に強くなることを…。」

桐生「私は少しはありますね、モテたいとか。藤井さんは初恋もまだしていないんですか(笑い)。逆に中学生って普段、将棋を除いた場面で何をしているんですか。」

藤井「うーん、そうですね…。将棋以外で、すごい変わったことはないです。ごく普通の(中学生です)。学校が終わったら家に帰って将棋をしています。

桐生「それはすごいな。僕は陸上がない日は陸上、全くやらないです。遊びに行くのも好きなんです。藤井さんは家に帰ったら将棋なんですね。」

藤井「そうですね、駒と盤さえあればできますし。駒がなくても頭の中で考えることができるので。」

桐生「すごいな、頭の中でできるんですか。無限にできるんですね。」

――試合で移動中、どう過ごしているんですか?

桐生「飛行機、新幹線では映画を見てます。タブレット端末にダウンロードして。地元の関西に帰るとき、新幹線は2時間半なので映画の時間とピッタリなんですよ。コーヒーを買って、お弁当を買って、映画を見るのが恒例になってます。」

――お2人は平成30年は環境が変わります。期待や不安はありますか?

桐生「陸上を仕事としていくので、いいかげんにはできない。自分で練習時間も決められるので、いいかげんにやろうと思ったらいいかげんにできる。でも、それに甘えず、しっかりやっていかなければならない。自分自身を改め、もっとコントロールしないといけない一年になると思います。

藤井「高校に進学することにしました。時間的制約があると思いますが、どんどん強くなっていくことはできると思う。時間を有効に使って一日一日、強くなれるように頑張っていきたいです。

――藤井さんブームで将棋めしが注目されています。食へのこだわりがありましたら。

桐生「好き嫌いを直す。1人暮らしで自分で作るとなるとその(嫌いな)食材を買わないパターンもあるじゃないですか。それに甘えずにちゃんと料理しようというのが今年の目標です。」

画像:報道陣からのインタビューを受ける藤井聡太四段

藤井「対局中の食事は話題にしていただきましたが、食事はその日の気分で。毎回、同じ物を頼まれる方もいるんですが、ちょっとした気分転換として選んでます。」

桐生「何でも食べていいんですか? 鉄板のステーキが欲しいって言ったら来るんですか。ちょっと、肉をそこで焼いてくださいとか。」

藤井「将棋会館ですと、出前できる店の中から注文するんです。でも、ステーキを食べられる方もいらっしゃいますね。メニューにないフグちりを頼まれた方もいらっしゃいます。」

――2020年の東京オリンピック。桐生さんはメダルが目標ということになります。

桐生「平成30年は社会人1年目のシーズンなので、しっかり成績を残したい。世界陸上、オリンピックがないので、海外遠征できればいいかな。それと、200㍍でも記録を残したいんです。100㍍と200㍍で活躍できる選手になれば東京オリンピックでの幅が広がります。東京オリンピックは僕が生きている中で最後になると思うので、メンバーに選ばれないと出られない。まずは日本人の中で勝負していきたいと思います。」

――具体的なタイムは?

桐生「これから自分がどれだけ伸びるか分からないので自分自身の可能性を信じたい。今、自分の自己ベストを0.01でも更新すると日本記録というプラスの面もついてくる。そういう面でも楽しんで自分の中で記録を伸ばしていきたい。」

――藤井さんは最年少記録が残っています。最年少タイトル挑戦、最年少タイトル、最年少名人…

藤井「最終的にどれだけ強くなれるかが一番大切なので、そこを目指して頑張っていきたい。自分のイメージは、将棋ですと20代前半がピークになるかな、という思いがあります。そのためにも10代のうちにはタイトルを取れるだけの実力をつけていないといけないと思っています。」

桐生「ピークって20代なんですか。」

藤井「はい、20代の前半かな、と。」

桐生「イメージ的にはもっと大人になってから強くなるイメージですが。」

藤井「囲碁の世界トップは中国の柯潔(かけつ)九段ですが、この方も20歳です。」

画像:将棋を指しながら談笑する桐生祥秀選手(右)と藤井聡太四段(古厩正樹撮影)

――お互いにエールを。

桐生「連勝、また頑張ってください。僕も連覇できるように頑張ります。」

藤井「2020年にはここ千駄ケ谷(東京)の国立競技場がメイン会場で東京オリンピックが開かれますが、2年後、その年にはタイトルに絡むような活躍をしたいと思っています。桐生さんに負けないように頑張ります。 」

※2018年1月4日(木)産経新聞全国版朝刊 掲載記事を全文転載
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<プロフィール>

藤井 聡太(ふじい そうた)
2002年7月19日生まれ。愛知県瀬戸市出身。
プロ棋士デビュー後に29連勝し、将棋界最多連勝記録を更新。
2018年2月、史上最年少(15歳6か月)で六段に昇段した。

 

 

桐生 祥秀(きりゅう よしひで)
東洋大学法学部企業法学科4年
1995 年12 月15日生まれ。滋賀県彦根市出身。
2017年9月の日本インカレ男子100m決勝において、日本人初の9秒台となる9秒98の日本新記録を樹立した。