初の長編『少女邂逅』が異例のヒット。映画監督・枝優花さんの生き方の選択

二人の少女の邂逅———。
2018年6月末に全国公開された映画『少女邂逅』。数ヶ月が経過した現在も注目を集め、国内外問わず上映されているこの作品は、主演に「ミス iD2016 グランプリ」の保紫(ほし)萌香さんとモデルのモトーラ世理奈さんを迎えたことや、クラウドファンディングで資金を集めたことも話題となりました。

しかしながら、この作品が多くの方に愛されている最大の要因は、観客に寄り添う姿勢と、監督・脚本・演出を手掛けた枝優花さんの美しい映像によるものでしょう。14歳の頃の経験をもとに、24歳の枝監督が紡いだ今作。大学へと進学し、映画の道を志した枝監督に、映画と進路についてのお話を伺いました。

大学生活4年間かけて就活をした


画像:枝優花さん

-枝さんは以前より映画監督になることを目指していたのでしょうか。

「もともと私は映画が好きだったのですが、監督になるというよりも、映画に携わるお仕事がしたいと思っていました。ただ、俳優はしっくりこないし、映画の制作現場は固定給がもらえるイメージもない。親が教師だったこともあって、不安定な仕事は反対されていたんです。

監督業に興味はありましたが、中学時代にテニス部の部長でうまくいかなかった経験で精神的に落ち込んだりして、人を引っ張ることに向いていないと気が付きました。

だから大学4年間のうちに映画に関することをいろいろ試したうえで、『最終的に配給会社などに就職して映画に関われたらいいな』と考えるようになっていました。」

-大学4年間は映画に関わる職種を絞るための猶予期間でもあったんですね。

「はい。“映画の何をやりたいかを見つける”ことをテーマに、4年間すべてを就職活動期間だと捉え、自分の人生を考えたくて。

まず必ず4年間で卒業するために、1〜2年生のうちに単位取得をほぼ終え、3〜4年生では映画のための時間を作っていました。たくさん映画も観ましたし、映画サークルに参加し、知り合いの映像演技の先生のアシスタントをしていました。だから、その時期はいわゆる学生らしいことは全然していません。飲み会とかサークルとかも経験していないし、アルバイトも社会経験程度。授業以外の時間はすべて映画に充てていましたね(笑)。」

-かなり計画的な学生生活ですね。映画以外の進路はまったく考えていなかったんですか?

「映画だけでなく、テレビなどの映像が好きだったので、就職も視野に入れて他の仕事のことも考えてみたんです。広告会社のお手伝いでCMの現場に入ったり、広告のコンペで企画の立ち上がりに関わったりしたけれど、やっぱり映画の方が面白かった。CMや広告はクライアントさんがいるので、ある種正解と言えるものがあるかもしれませんが、映画は『これが正解だった』なんて誰にもわからない。答えがなく、果てしなくたくさんの人が関わっているのがたまらなく楽しかったんです。

-いろいろ経験してみた結果、やはり映画の道に進むことを決めたんですね。その中で、なぜ監督だったのでしょうか?

「ある日、出入りしていた早稲田大学の映像サークルで映画を作ることになったんです。合宿撮影の予定だったんですが、なんと、撮影一週間前に監督がいなくなり、脚本も何もなくなってしまったんですよ。どうするのかみんなで話し合ったんですが、なかなか意見が出ない……。

2時間くらい話し合い、誰も意見を言わなくてグダグダな状態が続くうちに、大人数で意見を出してもまとまらず作品のクオリティが下がっていく一方なのが不安で、『私がまとめてみるので、それを見て判断してくれませんか?』と提案し、結果的に私が監督と脚本を担当することになりました。

-妥協で物事が決まることに耐えかねたのですね。その経験が、その後の活動に繋がったんですか?

「もちろん大変なことはたくさんありましたが、試写した時にある先輩から『才能あるよ!』と言っていただいたのが大きかったです。そんな言葉はなかなか人には言えませんよね。しかも先輩ご自身もプロの監督を目指していて、現在はドラマ監督として活躍されている方です。そんな方が後輩に対して『演出のここがよかった』などと丁寧に話してくれて、『次の撮影がある時は手伝うので呼んで』とまで言ってくれた。しかも本当に、次の撮影では一から十まで手伝ってくださったんです。この先輩がいなかったら、私は映画を撮り続けていないかもしれません。」

「流されたもん勝ち」を信じてフリーランスへ

-結局、就職活動はしたんですか?

「企業エントリーのメール登録だけはしました。企業に就職する気はないけれど、さすがに活動をしないのは怖かったんです。結局、配信されてくるメールを見ることは一度もなかったですが……。」

-フリーランスの映画監督でいこう!という決め手はなんだったんですか?

進路に悩んでいた大学3年生のとき、商業映画の助監督をしていた現場で父と同い年の照明技師さんに出会いました。その方に相談したら、『この業界は流されたもん勝ち』と言われたことが心に刺さりました。

その方はかつてゼネコンの営業マンだったものの、行きがかりで映画の大道具を手伝うようになり、照明技師になったそうです。子どもが生まれたことをきっかけにゼネコンに戻ったけれど、やっぱり照明がやりたいとまた映画の現場にいる。『いかに俺が流されてきたかわかるだろう?人生はとにかく流されろ。どんなに筋道立てて計画しても、計画通りになったってそれが面白いのか?』という言葉が私にはしっくりきて。

でも気持ちが揺らぐと不安になるから、助監督の仕事でとにかくスケジュールを埋めて、あえて物理的に就活できない状況を作ったんです。がむしゃらに働いているうちに、周りは就活が終わって卒業旅行の話をしていました。」

-就職しないことについて、周囲はどんな反応でした?

「反対されました。友達からも『3年くらい社会人として働いて、お金を貯めてから好きなことをやればいいよ』なんて言われていました。でも私は本来冒険するのが好きじゃない。3年も働いて後輩ができて居心地が良くなってきたとき、やりたいことのために腰を上げるなんてきっとできない。だから、流れに乗って何も知らないままにやっちゃえ!と。

『流されたもん勝ち』というのは、今とても実感しています。『それ、やります』と言ったことから輪が広がっていき、面白さが生まれています。

-親御さんは映画の仕事に反対されていたそうですが……

「親とは、30歳までに結果を出せなかったら地元で教師になると約束していました。でも今はものすごく応援してくれていて、私が出ている雑誌や記事は必ず読んでいるし、親も祖母もTwitterを始めて、私よりも私の情報に詳しいぐらい(笑)。」

-枝さんの選択がご家族の気持ちを変えられたんですね。就活や進路で悩んでいる方へのアドバイスなどいただけますか?

「SNSでよく学生さんから就活の相談をいただくんです。『第一志望を落ちたのですが、どうすればいいですか』と相談を受けることもあります。

大したことはアドバイスできないのですが、まずはやってみてから考えればいいと思っています。『人生はこうじゃなきゃダメだ』と考える方もいると思いますが、うまくいかないのもまた人生。私は高校受験で失敗したり、思い通りにいかないストレスをずっと抱えてきたけれど、満足できなかったからこそ、自分で行動するようになりました。今もそう。満足したら終わっちゃう。映画も撮らないだろうし、何も挑戦しなくなると思います。まず一歩を踏み出すことが大切ですね。」

映画『少女邂逅』に込めた思い


動画:『少女邂逅』本予告編

-『少女邂逅』はどのように作られたんですか?

「脚本を書いたのは18歳のとき。でも、今撮っても実力不足で納得できないと感じて寝かせていました。23歳で長編映画を撮らせてもらえるかも、という話が出た時に、あらためてこの作品を引っ張り出したんです。半年で書き直して、12日間の合宿で撮影し、1ヶ月半で編集して完成させました。

-作品のテーマをお聞かせください。

「いろんなものを散りばめていますが、1番のテーマは、『見えているものと見えていないもの』でしょうか。人って、興味があることは目に入るけど、興味のないものは見えていない。ただ、見えていないのが悪いわけじゃなくて、光と影のように感じられていない部分も存在している、と言いたかったんです。

映画でいえば、主人公の女の子(保紫萌香)がもう一人の女の子(モトーラ世理奈)を、『自分より優れていて、価値のある人』だと思っていたけれど、実は見えていなかった部分が存在している。人間には他人に見せている部分と見せていない部分が必ずあるから、その上でどう生きていくかということをテーマにしました。」

-二人の少女の巡り合い(邂逅)と現実を象徴するように「蚕」が登場しますが、「邂逅」と「蚕」は言葉遊び……つまりダジャレですね?

「そうです。私は軽い気持ちで言葉遊びをしたんですけれど、作風のせいか、みなさん申し訳なさそうに『ダジャレじゃなかったらごめんなさい』と聞いてくださるんですよ(笑)

登場する少女たちは、若さや見た目に価値を置かれる存在です。外側だけを重視されて中身を蔑ろにされることもあれば、外側で得をすることもある。その様子を“蚕”に重ねました。」

-少女独特の、この時期にしかない時間が詰め込まれていると感じました。

「まさに少女である中高生に見ていただきたいです。今、中高生がよく観る映画は、わかりやすくて楽しい大衆的なもの。でも、『みんなに好かれなくてもいいから、誰かひとりにでも深く刺さるような、手紙のような映画にしようね』とスタッフさんたちと確認してから撮影に臨みました。

上の世代の方は似た作品を見ているかもしれないけれど、中高生はあまり映画体験がありません。その子たちに届くように、公開時期も夏休みにして、それまでに中高生にファンになってもらおうと中高生向けの雑誌に出たり、宣伝イメージも中高生に好まれやすいものにするなどブランディングに力を入れました。」

-上映の反響はいかがでした?

「最初は『自分の作品が映画館に流れる』という初経験で感動しているばかりでしたが、次第に『お客さんは観たままの感想ではなく、自分の人生を通してから感想を持つんだな』と気がついて。私はそんなつもりで作っていなくても、観る人によって見え方や感じ方が違うというのは面白いです。」

-今後も北海道をはじめとする劇場で公開されるほか、作品のBlu-rayが発売されますね。まだご覧になっていない方にメッセージをいただけますか?

「過去に傷があったり、それに蓋をして生きてきたりした方にも見ていただけると嬉しいです。日常でのちょっとしたササクレのような痛みを持っている方にとって、『明日は学校行ってみようかな』とか『周りに合わせなくてもいいんだ』と、昨日とは違う明日になるきっかけを与えられればいいなと思います。

-YouTubeではアナザーストーリーにあたる『放課後ソーダ日和』も無料公開されていますね。

「テーマは『少女邂逅』と共通していて、一瞬しかない少女たちの時間が、人生の中で忘れられない宝物になる様子を描いています。アイスが崩れて味が変わるのに5分も保たないクリームソーダと、出演する少女3人が重なっていますし、思い出はずっと綺麗なものじゃないけれど、高校最後の夏がリンクしています。

映画を見た後に、『放課後ソーダ日和』に登場する喫茶店に寄ってみようかな、と思っていただけると嬉しいです。」

大学時代は好奇心であふれていた

-製作のインスピレーションはどこから生まれるんですか?

「大学生の時は、『なにかを作りたくてしょうがない!』という好奇心で動いていました。大学の図書館で新しい本を読んだり、視聴覚室で古い映画を観て、思いついたことをPCルームで脚本にしたり、大学の施設を有効活用していましたね。大学の外でも、早稲田大学の方たちと映画に関わったり。

でも今は忙しくて、なかなか吸収する時間がありません。大学時代にストックしたものが枯渇してきて、脳みそを絞り出している気がします。写真家の奥山由之さんのインタビューにあった『あまりにも世に出すものが多すぎて過呼吸になっている』という感覚にはすごく共感しました。」

-とても忙しい中で、どのようにインプットを心がけているんですか?

「休みには映画館で4本くらい映画を観たり、ブックカフェに行ったり、何かを得ようといろいろ出かけています。

でも、インスピレーションを受けるのは日常からが多いですね。電車で面白い人を見かけたり、友達の近況を聞いたりしています。友達の泥沼のような別れ話に『どういう気持ちだった?』とグイグイ聞いて『やめてほしい』と言われることも(笑)。リアルが一番面白いんですよね。」

-最近はMVのお仕事も多いですね。今後どんなことを手がけていきたいという展望はありますか?

「やっぱり映画を撮りたいです。映画だけだと食べていけないので他の仕事もするけれど、CMやMVは映画ではできないことに短期間でチャレンジできるので、とても勉強になるんです。そうやって経験や技術を身につけて、いつかコンスタントに長編映画を撮れる監督になっていきたいです。」

自分の生き方を見つめ、つかんだ夢

まっすぐに話す言葉からは、枝さんの強さと意志、そして繊細な感受性が感じられます。大学の4年間を、自分なりに見つめ、選択し、過ごしてきた枝さん。「どうやって食べていけばいいのかわからなかった」と不安を語りながらも、なんとかして自分の人生を掴みたいと行動し続けていった結果が、今につながっているのでしょう。もう戻ることのない少女たちの日々が描かれた『少女邂逅』。ぜひ、劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

<プロフィール>

枝優花(えだ ゆうか)
2016年 東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科卒業
映画監督、写真家
2013年、第26回早稲田映画まつりで上映された『さよならスピカ』が松居大悟監督から絶賛、審査員特別賞を受賞。翌年の 第27回早稲田映画まつりでも『美味しく、腐る。』が観客賞に選ばれる。 大学時代から映画の現場へ従事し、『オーバー・フェンス』(2016年公開)、『武曲 MUKOKU』(2017年公開)などにスタッフとして参加。2018年、初の長編監督作品『少女邂逅』が新宿武蔵野館を皮切りに全国公開。第42回香港国際映画祭に招待される。その他、雑誌『ViVi』『装苑』などでのスチール撮影など、その活動は多岐に渡る。