大学野球は“未完成”ゆえに面白い。元阪神タイガース桧山進次郎が魅力を語る

「野球」と聞いて、皆さんはまず何を思い浮かべますか?

おそらく高校野球やプロ野球が真っ先に頭に浮かぶのではないかと思います。それでは、大学野球はいかがでしょう。「見たことがない……」「高校野球と何が違うの……?」など、あまりイメージが湧かない方も多いのではないでしょうか。今回はそういった方に向けて、大学野球の世界をご紹介します。

元阪神タイガースの桧山進次郎さんに、在学していた東洋大学の硬式野球部時代を振り返っていただきながら、大学野球の魅力を教えていただきました。記事の最後にインタビュー動画を掲載しておりますので、ぜひそちらもご覧ください。

“未完成”だからこそ魅力的

画像:桧山進次郎さん

―単刀直入にお伺いします。桧山さんにとって大学野球の魅力は、どのようなところにあるとお考えですか?

大学野球の魅力、ですか?」

―そうです。テレビで放送されることが多い高校野球やプロ野球と比べて、大学野球はあまり目にする機会がありません。しかし、1950年代には大学野球がプロ野球よりも観客動員数が多かったと聞きました。さらに、大学野球には熱狂的なファンがいらっしゃいますよね。そこにどのような秘密があるのか、教えていただきたいと思いまして…

「確かに大学野球には勝ち負けを越えた、コアなファンの方々がいますね。大学野球は、これからまさに大人になろうとしている青年たちが全力で野球をしているところが面白いと僕は思います。

―詳しくお聞かせいただけますか。

「高校野球は、青春ど真ん中の若い少年たちが野球をやっているので、観客は一生懸命に頑張っている高校球児の姿に心を打たれます。プロ野球は、技術的にも人格的にも完成された大人の選手たちが野球をするので、観客はプレーの素晴らしさを見て楽しみますよね。

大学野球は高校野球とプロ野球のいいとこ取りで、プロ級のプレーが飛び出して観客を沸かせたかと思うと、とんでもないエラーをして観客をびっくりさせることもある(笑)。こうしたギャップを楽しめることが、大学野球の魅力だと思うんです。」

―絶妙な具合に“未完成”であることが大学野球の魅力だということですか。

「そうですね。観客は次々と起こるプレーにハラハラドキドキさせられながら試合を観ることになる。そうすることで、次第に大学野球の魅力にのめり込んでいくんだと思いますよ。」

野球への情熱が誰にも負けない監督だった

画像:東洋大学硬式野球部で46年間監督を務め、今年引退した髙橋昭雄氏のパネル

―桧山さんの大学時代の監督は、今年1月に46年間の監督生活に幕を下ろした髙橋昭雄さんでしたね。

「はい。髙橋監督は野球への情熱が誰にも負けないほどすごい方で、指導に熱が入ると2〜3時間も練習でバットを振ることもありました。また、社会人になる上で必要な振る舞いについても、厳しく教えていただきました。

当時はこうした監督の教えをなかなか素直に受けとめられませんでしたが、今振り返ると監督がいかに僕たちのことを考えてくださっていたか身に沁みます。根気強く僕たちと向き合ってくださった監督には感謝してもしきれません。今でも監督の前に出ると、ビシッと背筋が伸びる感覚になります。」

―髙橋監督からは野球の技術だけでなく、人として大切な振る舞いについても学ばれたのですね。桧山さんが東洋大学硬式野球部の思い出として、1番記憶に残っているのはどんなシーンですか。

4年生のときに東都大学野球の1部リーグ戦で優勝したことですね。東都大学野球のリーグ戦は1部と2部の入れ替えがあるのが見どころの一つです。4年生は自分たちの代でリーグ降格はしたくはないし、3年生以下は4年生に気持ちよく卒業してほしいという気持ちが強く、各大学の想いがぶつかり合います。

そんな中、当時の東洋大学は2部に降格するかどうかという瀬戸際を何度も経験していた状態でした。なので余計に嬉しい優勝だったことを覚えています。」

「アマチュア野球」の精神があったからこそ、タイガースで2度優勝できた

―1部リーグ優勝は、お世話になった髙橋監督への最大の恩返しになったでしょうね。大学野球をやっていて良かったと思えたことはどんなことですか。

優勝という一つの目標に向かって、皆が一心不乱に邁進する『アマチュア野球』の精神を身につけられたことですね。僕は阪神タイガースにいるときに2回優勝しましたが、その時は東洋大学で学んだ『チームのために』というアマチュア野球の精神が非常に役に立ちました。そういった野球精神が蘇り、優勝することができたので、とても感謝しています。」

―大学野球をしている学生たちに向けて、メッセージをお願いします。

「今、自分自身がやっていることに夢中になってほしいですね。人生良いときばかりとは限らず悪いときもありますが、どんな状況であっても自分と向き合うことが大切だと思います。

大事なのは、良いことが起きたら良いことが起きた理由を、悪いことが起きたら悪いことが起きた理由を、しっかり考えて糧にすること。これは何歳になっても変わらないことだと思うので、ぜひ心に留めておいてもらえると嬉しいです。」

動画:桧山進次郎さんのインタビュー

大学野球独自の面白さを体感してみよう!

桧山さんが語る大学野球独自の面白さ、それは選手たちの人格や野球技術が“未完成”であるがゆえに生まれる、高校野球とプロ野球の魅力を併せ持ったものでした。

高校野球やプロ野球が好きな方は、ぜひ一度大学野球も観戦してみてはいかがでしょうか。私たちに新たな野球の魅力を気づかせてくれるかもしれません。

<プロフィール>
桧山進次郎(ひやま しんじろう)
東洋大学法学部経営法学科(現・企業法学科)卒業
元プロ野球選手(外野手)。東洋大学在学中に、首位打者1回、ベストナイン3回、4年春には主将として1部リーグ優勝に貢献。大学卒業後、阪神タイガースに22年間所属、背番号は24。代打通算158安打(球団単独1位、セ・リーグ歴代2位)、代打通算14本塁打(球団単独1位)111打点(球団単独1位、セ・リーグ歴代2位)の記録を持ち、ここ一番の勝負強さから「代打の神様」と称される。2013年に惜しまれつつ現役を引退した。現在は野球解説者・スポーツコメンテーターとして活動中。