「サザエさん」の波平・茶風林さんの半生から学ぶ、業界の第一線で活躍する声優の心得

現在、アニメは子どもだけではなく、大人でも当たり前に見る娯楽となり、日本が海外に誇る文化として定着し始めています。それに伴い、キャラクターに声を吹き込む「声優」にも注目が集まり、声優を目指す人も増えてきました。

声優業界の大きなニュースとして、2014年に国民的アニメ「サザエさん」のキャラクター「磯野波平」の声優が変わりました。新しい声優に抜擢されたのが、東洋大学卒業生の茶風林(ちゃふうりん)さん。茶風林さんは、名探偵コナンの目暮警部や、ちびまる子ちゃんの永沢君など多くのキャラクターを演じています。

今回は、声優やナレーターとして長いキャリアを持つ茶風林さんに、自身のキャリアや、業界の第一線で活躍する秘訣などをお聞きしました。自ら夢を掴んだ茶風林さんに伺う、教訓や直々の演技指導など、特に声優を目指す方には必見のインタビューです。

記事の最後には、茶風林さん直々の特別講座と、声優を目指す方に向けたエールも。ぜひ最後までご覧ください。

※このコンテンツは2018年5月31日までの限定公開です。

大学時代に学んだ教訓「やりたいことは自分で掴み取れ」


画像:2代目・磯野波平役を務めている茶風林さん

ー茶風林さんは声優やナレーターとして長いキャリアを積まれていますが、どんなきっかけで声優に興味を持つようになったのですか?

「お芝居に興味をもったきっかけは、高校生のときに読んだ少女漫画です。また、演劇を通して、輝きを放っていく主人公に憧れて役者になろうと決意しました。ですので、最初から声優になりたかったのではなく、演者を長く続けてきた結果、今はお芝居のひとつの形として『声のお芝居』をさせていただくようになったんです。」

ー最初から声優を目指していたのではなかったのですね。お芝居を本格的に始めたのは、大学に入ってからですか?

「はい、当時演劇が盛んだった東洋大学の演劇研究会に入り、夜中に舞台を組んで、車のヘッドライトを当てながら演劇をやったりしていました。やりたいことを実現するためには、自分で行動しなければいけない環境だったんです。当時の先輩たちからは、『本当にやりたいことは自分の力で掴み取る』大切さを教わりました。」

ー今の時代では考えられないような環境ですね……。大学では演劇をされていたのに、どんな経緯で「声の仕事」に関わることになったのですか?

「初めて『声の仕事』をしたのは、プロの役者になるため専門学校に通っていた時です。その頃は、大学卒業後も芝居をやると決めていたんですが、何から始めたら良いのか全然分からなかったので、まずは行ってみようといった感じで通い始めました。

専門学校の卒業間際、お世話になった先生が携わっている番組の収録スタジオに遊びに行ったら、たまたまキャストがひとりお休みで来ていなかったんです。代役も見つからず、急遽僕が出演することになって……。

その時に出会ったディレクターの方から、いくつか『声』のお仕事を頂けるようになりました。まだ食べていけるほどでは無かったのですがね。本格的に声優として生きていくのを決めたのは、大学を卒業して劇団に入った後、テレビアニメのレギュラーをもらってからですね。」

長くお芝居を続ける秘訣は「期待に110点で応える」

ー茶風林さんにとって、声優はお芝居の延長線上にあったのですね。茶風林さんは「磯野波平」という大役を引き継ぐなど、今でも声優業界の第一線を走り続けています。これほど長く第一線で活躍できる秘訣は、どんな部分にあると考えていますか?

「やはり、『お芝居が好きだから』ではないでしょうか。でも、好きなだけでは、ただの趣味になってしまう。大切なのは、自分の好きなことをして他の人を喜ばせてあげられるかどうか。そのため、いつも相手の期待には100点を目指すのではなく110点で応えようと努力しています。

もし、僕が期待以上に良い結果を出せれば、相手にも喜んでもらえますし、喜んだ姿を見て、頑張った僕自身も嬉しい気持ちになる。期待に110点で応える積み重ねをしてきたから、大好きな『お芝居』を僕に仕事として与えてくれる人ができて、今でも声優を続けられているんだと思います。

ー常に高いパフォーマンスを発揮するために、日頃から意識されていることはありますか?

「声優は身体が楽器なので、身体を常にベストコンディションに保たないといけないんです。僕はいつも仕事の前にストレッチをして、『外郎売り(※)』という7分くらいある台詞を声に出し、コンディションを整えます。

※外郎売り(ういろううり)ー冒頭ー
「拙者親方と申すは、お立ち会いの中に、
 御存知のお方も御座りましょうが、
 御江戸を発って二十里上方、
 相州小田原一色町をお過ぎなされて、
 青物町を登りへおいでなさるれば、
 欄干橋虎屋藤衛門、
 只今は剃髪致して、円斎となのりまする」

実は、僕は小さい頃に舌を手術していて、うまく喋れない時期があったんです。そういった過去もあるので、僕は今でも声優のなかでは滑舌が悪い方でしょう。それでも、やっぱり演劇が好きでお芝居をやりたかったので、言葉がきちんと伝わるように、手術後のリハビリやトレーニングをずっと続けてきました。毎日発声の練習をしているから、今もプロとしてやっていけているのだと思います。」

プロを目指すなら、お客さん目線から卒業しよう

ー最近では、声優になりたいという方も増えてきています。茶風林さんから、そういった方々へのアドバイスをお願いします。

「正直、やり方に正解は無いと思っていますが、僕個人の考えとして、声優を目指している人には、ぜひ『お芝居』をやってほしいです。きっと、声優になりたい人たちの中には、アニメが大好きで、アニメに声をあてたいと考えている方も少なくないでしょう。でも、声をあてるためには、演技力が必要不可欠。声でキャラクターに命を吹き込むのが、声優の役目ですから。

台本の台詞は文字でしかないんです。その文字情報から、どうすれば生き生きとしたキャラになるのか。どう演じればそのキャラが動き出すのかを考え、その想像した姿を実現するための演技力を養う必要があります。」

ーその演技力を養うためには、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。

「プロを目指すのであれば、まず『お客さん目線』をやめたほうが良いでしょう。『声優になるための勉強をどう始めれば良いのか分からない』という人もいるかと思いますが、お手本は身の周りに溢れています。テレビをつければ、発声がとても上手なプロのアナウンサーさんやナレーターさんの声が聞けますし、映画を観に行けば、演技が素晴らしい役者さんを観て学ぶこともできます。

テレビ番組や映画を、ただのお客さんとして見ているうちはプロにはなれません。テレビなどに映る人全て、お手本だと思って意識的に見聞きすると、学ぶ機会が格段に増えるはずです。

後は、多少図々しくなっても良いので、色々な場所に行って、色々な経験をすること。たとえば僕の場合、専門学校の先生に『講師とコネクションを作ってチャンスを作りなさい』と言われて、実際に先生の仕事場に行ったから、チャンスを掴むことができたんです。やりたいことがあるなら、自分から行動に移すことが大切ですね。」

茶風林さん直伝・台詞に命を吹き込むコツ「体で表現する」

お芝居に対しても、仕事に対しても常に全力で真摯に向き合う茶風林さん。「仕事は楽しさや嬉しさが多すぎて、苦労なんて感じない」とお話しされる姿がとても印象的でした。

最後に、茶風林さんから声優を目指す方々に向けて、台詞に命を吹き込むコツと、応援メッセージを動画でいただいています。

「あ、お金が落ちてる、これ誰のですか?」

このシンプルな台詞に、茶風林さんが命を吹き込みます。ぜひ、ご覧ください。

<プロフィール>
茶風林(ちゃふうりん)
1986(昭和61)年、経済学部卒業。
声優としてアニメやゲーム、海外の映画の吹き替えなどを中心に個性的な役柄を多く演じ、舞台俳優としても活躍。
「サザエさん 磯野波平」、「名探偵コナン 目暮十三」、「ちびまる子ちゃん 永沢君」など国民的なアニメ番組で多くのキャラクターを演じる。