社会人が学び直しをする意義とは?大学院で福祉を学ぶ山川ひかりさんの話

皆さんはリカレント教育という言葉を聞いたことがありますか?

生涯に渡って就労と教育を交互に繰り返す教育システムのことで、近年働き方が多様化する日本でも注目を集めています。そんなリカレント教育を構築する上で重要なキーワードになるのが、政府も力を入れようとしている社会人学び直し。社会人として働きながら大学院に通うケースが増えているのです。

「人生100年時代」が到来しようとしている現代において、社会人が大学院に通うことでどのようなメリットが得られるのでしょうか。今回は、社会福祉法人三篠会で採用担当として働きながら、東洋大学大学院 福祉社会デザイン研究科ヒューマンデザイン専攻(※)高齢者・障害者支援学コースで学ぶ、山川ひかりさんにお話を伺いました。

働く中で感じたモヤモヤを解消したかった

画像:山川ひかりさん

―山川さんは社会人何年目で大学院に進学したのですか。

3年目です。社会人2年目になった頃から大学院で学びたいと思うようになり、職場に相談して3年目から大学院に通うことにしました。」

―なぜ大学院に進学しようと思われたのですか。

働く中で感じたモヤモヤを解消したかったからです。私が東洋大学ライフデザイン学部の学生だったとき、福祉を学んだ経験を生かして、重症心身障害の方が入所する施設で働いていました。実際に働いているうちに、『施設に入所された方が地域と関わりを持って生きていくにはどうしたらいいのだろう』という課題を抱くようになったんです。」

―課題を解決するために大学院に進むことにしたのですね。

「働きはじめたばかりの頃は問題意識がいろいろとあったのですが、1年経ったあたりから段々とその環境に慣れてきてしまったんです。問題解決の策がなかなか見つからず行き詰まっていましたし、自分の仕事について客観的に見つめ直す必要があると思い、大学院進学を考えるようになりました。」

―確かに、自分の仕事を客観的に見つめ直すために大学院はとても良い環境かもしれませんね。しかし、社会に出てから大学院で学び直すというのは、かなり勇気の必要な決断だったのではないですか。

「進学を決断した当時は現場職員だったので、経験の浅い自分であっても、職員ひとり欠けることが周りに迷惑をかけてしまうのではないかという不安がありました。でも、大学院に通っている職場の1年上の先輩が『気にしないで勉強してきな!』と後押ししてくださったのが大きかった。

それで大学院進学への一歩を踏み出すことができました。私が働いている社会福祉法人三篠会は自己啓発に対してとても積極的で、資格取得や通学にかかる費用を支援してくれるんです。私も授業料を援助していただけることになり、働きながら大学院に通うことをバックアップしていただいています。」

多様な視点に触れ、物事を深く考えられるように

―仕事と大学院の勉強はどのようなスケジュールで行っているのですか。

「火曜と水曜が大学院の授業で、仕事は月曜・木曜・金曜というスケジュールです。大学院に進学するにあたって、現場職員よりも外に出やすい職種の方がいいだろうと法人が配慮してくださり、現在は採用担当として働いています。仕事と勉強を両立させることはとても大変ですが、毎日刺激的な日々を送っています。」

―大学院での研究というのは、どのようなことをされているのですか。

さまざまな研究をしている仲間と情報交換をしたり、意見を交わしたりする中で、学びをより深めていく感じですね。当初、学部生の延長線上をイメージしていた私にとって、議論が活発に交わされる大学院の環境は刺激的で、良い意味で驚きでした。

多くの学生が福祉の現場で働いている方々なのですが、研究内容がそれぞれ全く違うんです。例えば、高齢者や児童、障がい、施設、家族、地域コミュニティなど。そうすると、1つの問題に対しても多角的な意見が集まるんですよね。私は施設の利用者さん目線、ある人はご家族目線、といったように。自分にない視点からも物事を考えることによって問題をより深く理解できるようになるので、日々とても勉強になっています。」

―自分にはない視点に触れる機会があるのは良いことですね。大学院に入る前と後とで、福祉に対する考え方に変化はありましたか。

「根本的なところは変わっていないのですが、現場の見方は変わりましたね。現場職員として働いていたときは不平不満がそれなりにあったのですが、一歩引いて見ると『自分がもう少しこうすれば、利用者さんにとって何倍も良いケアができるだろうな』などと感じることが多くなりました。大学院での研究を通じて、現場にいるときには見えなかったことが見えるようになったのは、大きな収穫だと思います。」

社会人の学び直しの環境について思うこと

―以前、「日本は社会人の学び直しに冷たい」という内容の記事がネットで反響を呼びました。山川さんはこの件についてどう思われますか。

『金銭的な援助が少ない』『大学院で学ぶ期間をブランクと捉える傾向にある』という2つの問題が挙げられていましたよね。金銭面に関しては、私自身、法人から学費を援助していただいている身なので、とても恵まれた環境にいることを改めて認識しました。

大学院に通う周りの方々を見渡すと、やはりそれなりに社会人を経験して経済的にゆとりのある方が多いです。1.2年目で大学院に通いたいと感じる若手社会人の方にとっては、金銭面が大きなハードルになることは間違いないでしょうね。ただ、私は仮に金銭面の援助がなかったとしても、大学院に進学していたと思いますし、進学してよかったと思っています。

あとは時間の問題もあります。仕事と研究を両立する時間を捻出できるか、転勤や異動があっても通い続けられるのかなども考えなければいけません。」

―「大学院で学ぶ期間をブランクと捉える傾向にある」という問題についてはいかがでしょうか。

「大学院で学ぶことに対して、『現場の批判ばかりする机上の空論だ』『理屈で凝り固まり、頭でっかちになってしまう』といった見方もあるかもしれません。

一方で、私が働いている法人では『最初は頭でっかちでいい。ずっとモヤモヤして行動を起こさないよりも、学んだことを積極的に発信して、何かひとつでも現場になかったものを取り入れられたり、実現できたりしたら十分じゃないか』と考えています。『大学院で学んだことをどう生かすか』、それを本人がもっと周りへ発信していくことが重要なのではと思います。」

―山川さんが現在働いていらっしゃる法人は、社会人の学び直しに非常に熱心ですね。

「ありがたいですね。大学院の授業料援助を公にしているところはあまりないのではないかと思います。しかも、うちの法人は少し変わっていて『学んだことをうちに還元してくれるのはもちろん嬉しいけれど、いつか独立を選択してくれてもいいよ』と言っているんです。自社の利益だけでなく、個人や社会全体の利益を尊重して学ぶチャンスを与えてくれる企業が増えれば、社会人が大学院に行くことのハードルは下がるのではないでしょうか。」

大学院で学ぶには、自分の意見を持つことが重要

―大学院を卒業した後の展望について教えてください。

「施設の利用者さんにより良いサービスを提供できるようになるために大学院で勉強しているので、現場に戻って得たものを還元していきたいです。あとは、もっと現場の面白さや利用者さんのことを知ってもらう機会を作っていきたい。

1年間ほど採用担当として採用活動に携わる中で、福祉に対しあまり良いイメージを持っていない方が結構いらっしゃることを知ったんです。自分自身が発信することによって、福祉の良い面をもっと知ってもらえたら嬉しいです。」

―大学院で学ぶかどうか悩んでいる社会人の方にメッセージをお願いします。

「仕事をする中で感じているモヤモヤが解消できないと、『今の仕事を辞めようかな……』と考えるようになると思うんです。もちろん職業を変えることも1つの選択肢だとは思うのですが、大学院で勉強することによって解消できることもあるということを伝えたいです。なので、仕事で何かしらのモヤモヤを感じたら、大学院の進学を1つの選択肢として考えていただけたらなと思います。

大学院で勉強するのは、もちろん大変なことです。対話や議論が中心となる授業では、自分である程度考えを持っていないと話が進みません。教授が話すことに対してすべてそのまま受け入れ、同意するのではなく、『自分はこう思うのですが、どうですか?』と言えるよう、自分の意見をしっかりと持つことが大事。真剣に取り組めばきっと視野が広がると思うので、ぜひ積極的にチャレンジしてみてください!」

「社会人→大学院」を1つの選択肢に

社会人になってから大学院に進学したことで、仕事をしているときには気づけなかった視点でこれまでの仕事を捉えられるようになったと、山川さんは教えてくれました。

山川さんのように主体性のある社会人にとって、今後大学院という選択肢は更に身近なものになっていくことでしょう。現在の仕事に何かしらのモヤモヤを感じている方は、大学院への進学を検討してみてはいかがでしょうか。人生の幅が広がるきっかけになるかもしれません。

<プロフィール>
山川ひかり(やまかわ ひかり)
東洋大学大学院 福祉社会デザイン研究科ヒューマンデザイン専攻(※)高齢者・障害者支援学コース博士課程前期1年
社会福祉法人三篠会で採用担当を務めながら、大学院で福祉の勉強をしている。

※福祉社会デザイン研究科ヒューマンデザイン専攻は、ライフデザイン学研究科へ2018年4月に改組されます。