「怒る」と「叱る」で子どもは変わる!?健やかな成長を育む親子のコミュニケーション術とは?

誰だって怒られたくないし、できれば怒ることもしたくありません。しかし、つい感情的になって、人に強く当たってしまったことはありませんか?特に子育ての経験がある方は、子どもに対して思わず声を荒げて後悔した、という経験もあるのではないでしょうか。

間違ったことをしてしまった子どもに対して、怒ることなく、正しいことを伝えるにはどうすればよいのでしょうか。そのヒントは、「怒る」と「叱る」の違いを理解することにあります。

今回は、保育や幼児教育、児童福祉について学ぶ東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科子ども支援学専攻の鈴木崇之教授に、子育てに役立つ「怒る」と「叱る」の違いについて伺いました。子どもとのコミュニケーションに悩んでいる方は、ぜひご一読ください。

「怒る」と「叱る」はどう違う?


画像:ライフデザイン学部生活支援学科・鈴木崇之教授

―― 「怒る」と「叱る」は似ている言葉のようですが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか?

「まずは、『怒る』と『叱る』の語源を見ていきましょう。『怒る』はひざまずいて心臓に手を当てて怒りを表現している女性の様子を描写した漢字と言われています。よく『怒るよ!』と言ったり、『お母さんに怒られた…』と子どもが泣いたりする、感情を表した言葉です。

一方、『叱る』は、口偏に七と書きますが、『しっ!』と鋭い声を発する意味合いを持ち、口調は強いけれど相手に何かを伝えることを表現した漢字です。現代では『目下の者の言動のよくない点などを指摘して、強くとがめる』といった意味合いで使用される言葉になります。

この二つの言葉の一番の違いは、相手に何をどのように伝えるか、という語義があるかないかです。結論からいえば、子どもと接するときは、怒るのではなく、しっかりと『何を伝えたいのか』という考えを持って叱ることが大事だと私は考えています。」

重要なのは子どもがわかりやすいように伝えること

―― 怒張を強めたほうが子どもが言うことを聞く、あるいはしつけは言葉で言ってもわからないと考えている方もいるように思います。しかし、この教育方法は正しいのでしょうか?

「いろいろな考え方があるので一概には言えませんが、子どもを怒鳴ったり、叩いたりすることで、良い結果を生むとは考えられません。イギリスのバジル・バーンステインという社会学者の『制限コードと精密コード』という研究があります。この研究では、家庭で用いられているコミュニケーションを大きく二つのパターンに大別し、子どもの学校における適応力について研究したものです。発表された当時、この研究はとても大きな反響を呼びました。」

―― 制限コードと精密コードとは、具体的にどのような内容なのでしょうか?

「制限コードの具体例を見てみましょう。

<制限コードのコミュニケーション>
母「しっかりつかまってなさいよ!」
子「なんで?」
母「いいから、しっかりつかまってなさい!」
子「どうして?」
母「しっかりつかまってなさいって言っているでしょ!わかんないの?」

子どもの『なぜ』という問いに答えず、『つかまってなさい!』ということだけを伝えているのが『制限コード』の典型的なコミュニケーションです。これだと理由が理解できず、言われたことだけやるような応用が利かない子どもに育ってしまう可能性が高いといわれています。

一方、『精密コード』の対話は、以下のようになります。

母「危ないから、しっかりつかまるようにしなさい!」
子「なんで?」
母「このバスはよく急に曲がるの。だから、つかまってないと倒れちゃうわよ」
子「つかまっていれば、倒れないの?」
母「つかまっていれば、大丈夫よ」
子「わかった!」

このように、精密コードでは理由をきちんと教えることがポイントになってきます。子どもでも理由をしっかりと伝えれば、つかまる必要があることを理解し、その積み重ねで子どもなりに考える力が養われるのです。

理論立てて物事を考える教育を行う家庭では、精密コードがよく用いられています。逆に、暴力や暴言が日常的に発せられている家庭では、制限コードが用いられているケースが多かったという調査結果があります。また、理由を説明せずに、子どもが納得できないまま強制し続けると、身体にまで悪影響を及ぼすこともあります。」

―― これはまさに怒ると叱るの違いにも共通することですね。

「そうですね。制限コードは暴力的な言動が含まれがちな『怒る』言動で、精密コードは丁寧に理由を説明する『叱る』に当てはまるコミュニケーション術になります。

学校では、多くの教員が精密コードでいろいろな物事を教えています。家庭でも学校と同じ精密コードによるコミュニケーションがとれれば連動性は高まり、子どもが学校に適応しやすくなります。しかし、制限コードが用いられることが多い家庭の子どもは、学校になかなかなじめず、適応しにくいということが研究の結果からわかったのです。したがって、発達段階に合わせて子どもが納得していけるような形で叱ることが重要だといえます。」

年齢によって叱り方は変えるべき、「魔の2歳」への効果的な対応は?

―― 子どもの発達段階に合わせて叱るとおっしゃられましたが、年齢によって叱り方は変えていくべきなのでしょうか?

「小学校就学前と就学後では発達段階がかなり違うため、やはり叱り方も変えるべきでしょう。就学前の場合、具体的かつハッキリと子どもの行動が適切か不適切かということを伝えることが大切です。

具体例をみてみましょう。

(例1)
悪い例:曖昧な表現
「誰かが来ているときに、なぜ、ちゃんとできないの!」
良い例:わかりやすい表現
「お客さんが来ているときは必ず“こんにちは”と言ってね」

(例2)
悪い例:曖昧な表現
「イヌ食べはやめなさい!」
良い例:わかりやすい表現
「手で食べるのはよしなさい。お箸を使って食べてね」

良い例のように具体的な描写で伝えることができると、小さな子どもでも何をすればいいか理解できます。行動を正すときは、できるだけテレビなどの会話を妨げるものをなくしてから、子どもと目線を合わせ、しっかりとした口調で伝えます。子どもが正しい行動を取れたらしっかりと褒めることも欠かさずに行ってください。こうしたスモールステップが、子育てに好循環を生んでいきます。」

―― 私にはまさに就学前で2歳半の子どもがいるのですが、教えていただいたように理由を伝えて叱ることや具体的な描写で理解を促しても、なかなかうまくいっていない気がします。何を言っても「ヤダヤダ」と言われるだけで……

『魔の2歳』という言葉があるように、2歳児との向き合い方は本当に難しいですよね。コミュニケーションがとれるようになってきて自分の考えを主張したりするけれども、まだまだ大人扱いするほど感情をコントロールしたり、十分な理解ができるわけではない、特別な時期だと思います。

2歳になると人のマネをして『これをしたい!』という主張をするようになりますが、多くの場合、そこに強い主体性があるわけではありません。ただ、『したい!やりたい!』と言っている間に、変なこだわりが生まれてしまうのです(笑) 。

こだわりや自我の芽生えによる主張は、脳の発達の過程の中で生まれるものですので、必要以上に向き合いすぎないことがポイントで、他のことに子どもの気をそらしながら対応するのが良いでしょう。たとえば、子どもが『これほしい!』と言って聞かなくなったら、『あっちに面白いのがあるよ』と、欲しかったものから気をそらします。良い教育をしなければと考える親御さんほど、子どもの言ったことに向き合いすぎてストレスを溜めてしまいがちですが、叱ることで反省させる・注意した内容を十分に理解させるのはまだ難しいと思います。」

―― なるほど。確かに子どもが間違ったことを言っているから注意しなきゃと叱っても、「叱る→ヤダヤダ→叱る→……」ときりがなくなります。ただ、間違ったことをその場で注意しなくてもいいのかという不安もありますが、大丈夫なのでしょうか。

「大丈夫です。2歳のときに、望ましくないと思った行動を正せなくても、もう少し成長してからで十分に対処できますので安心してください。」

―― ということは、これまでのお話は2歳を過ぎてからより効果的な接し方なのですね。安心しました(笑)では、就学児童を叱る場合は、どのような伝え方が適切なのでしょうか?

「学校で勉強を始めると自我も芽生えはじめ、大人っぽくいろいろと主張するようになります。それは親としては嬉しい反面、もしも間違った主張や言動に接したとき、親は子どもに正しいことを教えてあげたい気持ちになるものです。

しかし実際は、子どもは何となく言いたいだけだったり、絶対に譲らない態度をとって親の反応を見たいだけだったりします。

そこで注意しなければいけないのは、その主張を頭ごなしに否定してしまうようなコミュニケーションです。変なこだわりや主張でも尊重しながら、正しい方向に導いていくというコミュニケーションが必要な時期。発達段階に応じて子どもの主体性を伸ばしていくほうが、将来的に子どもの成長にとって良いと言われているのです。」

怒ってしまったときは、自分も完璧ではないことを伝えるのが大切

―― 「叱る」を理解した上で接していても、子育ての中でついつい感情的になって怒ってしまうこともあると思います。もし「怒る」ことをしてしまったときは、子どもにどう接したらいいのでしょうか?

「本来であれば『今はこれをこうしましょうね』とポジティブに言えばいいところを、睡眠不足だったり、イライラしてしまっているときなどは、『ダメでしょ、なんでこういうことしているの!』とネガティブな表現で怒ってしまったり、必要以上に大声で『なにやっているのよ!』と怒鳴ったりしてしまいがちです。その怒りがおさまると自己嫌悪に陥って後悔してしまうのもよくあることです。親だって感情を持つ人間ですから、ある程度、仕方のないことだと思います。

大切なのは、怒ってしまったあとの対応です。実際に怒ったあと、子どもにどう声を掛けたらいいかわからない、という相談をよく受けます。

こうした質問に対して私がかならず伝えるのは、『パーフェクトである必要はない』ということです。たとえば、怒ってしまったことを自分は反省し、子どもにどう伝えようか迷っているときに、子どものほうから謝ってきたとします。そのとき、『ちゃんと謝れて偉いね、嬉しいよ!』と伝える。そして同時に『お母さんも大きい声出しちゃってごめんね』とちゃんと謝る。自分が親として完璧ではないことを子どもに伝えて、お互いに納得して『これから一緒に注意しながらやっていこうね』と言えるようなフラットな親子関係をつくっていくことが、子どもの成長にも良い影響を与えるのです。

加えて、怒ってしまったとしても、たとえば10回怒っていたのを9回に減らせたとしたら、それができたことを夫婦間などでしっかりと評価し合うことも大切です。親御さんも自己嫌悪で思い悩まないようにしてほしいですね。」

ペアレント・トレーニングでコミュニケーション術をトレーニングする

―― なるほど。一方的に子どもが謝るのではなく、親のほうからも「ごめんね」と言うことが大切なのですね。でもそもそも感情的にならないのが理想的ですが、親が感情的にならずに子育てできる方法などあるのでしょうか。

「近年、欧米で様々なペアレント・トレーニングが開発されています。例えばアメリカの児童養護施設で開発された『コモンセンスペアレンティング』という養育プログラムがあります。これは、心理学の認知行動療法を理論的土台として、『望ましい行動』を強化し、『望ましくない行動』を抑制・除去するための方法を、講義やロールプレイを通じて学ぶ子育て支援プログラムです。

このプログラムは『行動の描写』、『効果的な褒め方』、『予防的教育法』、『問題行動を正す教育法』などのセクションに分かれています。」

■行動の描写

「これは、子どもの世界や感情、やっていることを描写して表現することで子どもと世界観を共有し、『この大人は自分のことをわかってくれているから安心して伝えられる存在だな』と思ってもらうテクニックです。

たとえば、子どもが積み木で遊んでいたら『だんだん積めてきたね』『すごく高くなったね』『もうすぐ倒れちゃうかもしれないね、こわいね』と、そばで声をかけます。積み木が倒れちゃったときに子どもに『倒れちゃったね』と言ってニコっとすると、子どもは『今度は一緒に作ろうよ!』と言ってくれたりします。また、先にお話しした曖昧な表現ではなく、わかりやすく具体的な描写で伝えることもこのセクションに関連しています。この行動の描写は、子どもの養育でとても重要な意味を持つ基礎的なものといわれています。」

■効果的な褒め方

「子どもが良い行動を取ることができたら、些細なことでもすぐに褒めてあげましょう。コモンセンスペアレンティングでの効果的な褒め方は、以下のようなステップになります。

①承認 『すごいね!』
②良い行動を明確に伝える 『テレビを見る前に、宿題を終わらせたんだね』
③理由(子どもにとってのメリット)を話す 『早く宿題を終わらせておくと、夜遅くにやらなくて済むね』
④良い結果を与える 『じゃあ今日は寝る前に一緒にトランプをしよう』

良い結果は、子どもが嬉しくなるようなことを発達段階に応じて与えます。心理学の認知行動療法によると、日常生活の中では褒めるが8割、残り2割で叱って行動を正すのが良いと言われています。」

―― 褒めると叱るの割合を8対2にするということですね。となるとかなり頻繁に褒める必要がありますね。

「そうですね。日常的にしっかりと良いところを評価して褒めてあげることをつねに意識することが大切だということです。」

■予防的教育法

「そして、重要な技術と私が考えているのが『予防的教育法』です。あらかじめ何を話し、何をすべきかなどの理由を伝えることが大切になります。

たとえば、幼稚園や保育園でハサミを使ってみんなで製作する日があるとします。そのとき、『今日はハサミを使うので、日直の太郎くんに配ってもらいます』と伝え、『太郎くん、これからハサミを配ってもらうけれど、ハサミの取っ手と刃の部分とどっちを持って渡す?(子どもが『刃の部分』と答える) そうだね、自分が刃の部分を持って、取っ手の部分をお友だちに渡すんだね。刃のほうを渡すと危なくて、お友だちがケガしちゃうからね』と説明します。あとは実際にお友だちに渡す練習をする。このロールプレイを通じて、子どもの発達段階に応じた理解ができているかどうかを確認していきます。これが予防的教育です。教えたとおりにできたら『よくできたね』と褒めるとより効果が期待できます。

もし子どもが説明したとおりにできなくても、『さっき、刃の部分をお友だちに渡したら危ないって話したよね』と叱ることができ、理由なく怒ることがなくなります。正しいことを伝え、健やかな子どもの成長を育んでいくことができるのです。」

■問題行動を正す教育法

「子どもが問題行動(すべきことをしない、してはいけないことをする、危険行為)をしたときには、本来すべき正しい行動を伝えて練習する教育法があります。

まずは問題行動をやめさせる必要がありますが、そのときに『テレビを消してね。テレビが好きなのは知っているよ。でも、今は宿題をする時間でしょう』というように共感的理解を入れながら、何が問題なのかを伝えましょう

そして、問題行動をしたことによる悪い結果を与えます。『宿題をしないでテレビを見ていたから、宿題が終わっても1時間はテレビなしだよ』であったり、物を壊したら直す、人を叩いたら謝るといったことです。ここで注意が必要なのは、宿題をせずにテレビを見ていたからおやつ抜きというように、問題行動とは関係ない結果を与えないようにしてください。

最後に、『宿題を終わらせてから遊ぶのが約束でしょう。早く宿題を終わらせると、すぐにまた遊べるよ』と子どもにしてほしいことを説明し、『何をしなければならないか言ってみて。よく言えたね、偉いね!じゃあ宿題をちゃんと終わらせよう』などと、何をすべきなのか確認・練習させることが問題行動を正すのに効果的なステップとなります。

このようなプログラムを通じて、望ましい行動を増やして、望ましくない行動を減らす方法を身につけることを目指します。」

―― なるほど。ペアレント・トレーニングでは怒鳴ったり、叩いたりせずに、きちんと子どもと向き合いながら成長を促すコミュニケーション方法を具体的に学ぶことができるのですね。同じことを伝えようとしても、「怒る」と「叱る」では大きな違いがあり、コミュニケーションの仕方次第で子どもの成長も変わっていくことがわかりました。とても興味深いお話、ありがとうございました。

 
<プロフィール>

鈴木 崇之(すずき たかゆき)
東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科子ども支援学専攻 教授

修士(社会学)。専門分野は社会的養護、児童相談所、児童虐待問題。大学生時代に児童相談所職員を経験後、家庭に戻ることができない子ども達の長期的な居場所であるさまざまな児童福祉施設の実態を知りたいと思うようになり、様々な支援施設で活動。現在はゼミの学生たちと児童虐待防止のオレンジリボン運動などを行う。主な著書・共著に『児童虐待時代の社会的養護』(学文社)、『日本の児童相談』(明石書店)など。

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